Web で配信される GIS データや解析機能をまとめて GIS Web サービスといいます。昨今、GIS ソフトウェアのプラットフォーム化が進み、GIS のクラウドサービスやスマートフォン・タブレットが普及したことで、さまざまな GIS Web サービスを誰でも気軽に利用できるようになりました。
たとえば、これまでデスクトップ アプリケーションで処理していた解析を、GIS Web サービスを利用して Webブラウザー上で解析することができるようになったり、以前はパソコン上(ローカル)に保存してある GIS データを USB メモリーや HDD 等に移してやりとりしていた作業が、Web 上で GIS データを共有することでデータのコピーや持ち運びの手間が不要になり、より簡単に、よりスピーディに作業を進めたりすることが可能になっています。
また、Web でデータ配信と聞くと、「ネットワークやサーバー関係の専門的で高度な知識が必要なのでは…?」と身構えてしまう方も多いと思いますが、最近の GIS Web サービスは、データや解析機能の利用はもちろんのこと、これらを公開(提供)する場合も、専門的な知識がなくても簡単に行うことができるようになりつつあります。
ArcGIS Online や ArcGIS Enterprise で利用できる代表的な GIS Web サービスとして、以下のサービスがあります。ArcGIS でサービスを公開することで、さまざまなアプリやブラウザーで GIS Web サービスを利用することができます。
フィーチャ(ベクター データ)を提供・利用することができるサービスです。クライアント側でクエリを実行してフィーチャを取得したり、編集したりすることができます。
画像(ラスター データ)を提供・利用することができるサービスです。ラスター データのソースには、ラスター データセット、モザイク データセットなどを使用することができます。
ラスター データをタイルのコレクションとして Web へ公開し、利用することができるサービスです。タイルはズームレベル(縮尺)ごとに作成され、マップを拡大・縮小すると最適なレベルのタイルが表示されます。描画速度が速いため、ベースマップなど、広い範囲のデータを公開したい場合に適しています。
ArcGIS Desktop で利用可能なジオプロセシング ツールを利用して、強力な空間解析機能を Web サービスとして共有することができます。さらに、エクステンション製品を利用することでラスター データの空間モデリングと分析、ネットワーク解析、イメージ処理など、より高度な解析機能を利用することができます。解析サービスの例として以下のようなサービスがあります。
下図は、2008 年のアメリカ大統領選の民主党への投票率を共和党への投票率から引き、これらの差分にホット スポット分析を実行して作成したマップです。濃い赤色のエリアが共和党への投票率が民主党より非常に高い、統計的に有意なクラスターです。一方、濃い青色のエリアは、民主党の支持が強いクラスターです。
OGC(Open Geospatial Consortium) は、300 以上の企業、政府機関、非営利団体、研究機関からなる国際組織で、地理空間コンテンツとサービス、GIS データの処理と交換に関する国際的な仕様・標準の開発と実装を行っています。OGC が定めた仕様に準拠することによって、国際的に認知された形式でマップとデータを処理したり、利用したりすることができます。また、地理空間データへのオープン アクセスが可能になり、地理空間情報の共有や相互運用が促進され、より便利に利用することができるようになります。ArcGIS Enterprise も、この仕様に準拠したデータを配信することができます。
主な OGC サービスを以下に示します。
OGC の仕様に準拠するダイナミック フィーチャ サービスのことです。フィーチャのジオメトリや属性にアクセスすることができるため、空間解析や属性検索などを実行することができます。
OGC の仕様に準拠するダイナミック マップ サービスのことです。WMS サービスから返されるマップは画像のみで、実際のデータは含まれていないため、WFS のように解析機能を利用したり、属性にアクセスしたりすることはできません。
OGC の仕様に準拠するキャッシュ イメージ タイルのセットのことです。ズームレベルごとに地図画像をタイル分割したデータを予め用意してクライアントに配信するため、比較的負荷が少なく、マップの描画が高速になります。
OGC に準拠した GIS Web サービスの具体的な例をあげると、産業技術総合研究所 地質調査総合センターが整備・公開しているデジタル地質図である「20 万分の 1 日本シームレス地質図」の WMS / WMTS サービスがあります。サービスの URL を使って、ArcGIS Online や ArcGIS Desktop でマップを利用することが可能です。