日本国内では道路やトンネル、橋梁を始めとした社会インフラの老朽化への対策が課題となっています。同じようにインフラの老朽化が課題となっているアメリカの状況を地図上で分析した結果をストーリーマップでご紹介します。(制作:米国 Esri)
本マップは ArcGIS Online の「ストーリー マップ カスケード」というテンプレートを使用して作成しています。
2007 年 8 月 1 日、朝のラッシュアワーに、州間高速道路 35W 号線(I-35)ミシシッピ川橋が崩壊を始め、下を流れるミシシッピ川に落ちていきました。車を運転していた人々が先を争って橋から脱出しようとした時、数台の車両が水中に沈んでいくのを目の当たりにし、恐怖に震えました。
事故の結果、13 人が死亡し、145 人が負傷しました。国家交通安全委員会は、今回の事故は設計上の欠陥が原因だと発表しました。
ミネアポリスの橋崩壊は特に深刻なものでしたが、近年、インフラ整備が十分でないことによる致命的な橋梁不具合は、他にいくつも発生しています。 橋の危険性を判断するために必要な情報の多くは既に手元にあったのです。しかし、データはまとめられておらず、包括的に分析されていませんでした。
橋の構造上の問題を把握し修正することができなかったという今回の問題は、インフラ全体を把握・維持する上で直面している課題と同じものです。
政府機関は、必要に応じていつでも分析、解析、使用できるようデータをまとめておかなくてはいけません。先日発足したトランプ政権は、米国の経済競争力を回復させる大胆な計画の主軸として、重要インフラへの投資を挙げています。GIS 技術は、政権のインフラ戦略において不可欠な要素となり得ます。GIS を共同フレームワークとして使用すれば、各種機関はより戦略的な意思決定を行い、米国内のインフラ整備への投資結果を監視することができるからです。
アメリカ国内にある 607,380 の橋のうち、実に 11% が構造的に強度不十分だといわれています。また、その平均的な建設後年数は 42 年です。30% 以上のアメリカの橋が設計寿命である 50 年を超えています。これらの理由により、米国の橋はASCE(American Society of Civil Engineers:米国土木学会)による全体的な橋梁インフラ部門の格付けで C + という結果になりました。
強度が不十分な橋は、米国内いたるところにあります。上記マップでは、郡ごとに修理が必要な橋の割を表しています。マップをクリックすると、修理が必要な橋の割合がわかります。
ネブラスカ州 オトー郡。この郡では、51.1%(354 のうち 181)の橋に構造的欠陥や老朽化が見られます。
マップをクリックすると、データベース内のそれぞれの橋に関する詳細情報が表示されます。
米国には 640万km 以上の道路があり、そのうち約 480万km が田舎道です。米国内すべての道路のうち 97% が州と地方自治体の管轄下にあり、連邦管轄下にあるのは 21万7千km に過ぎません。ASCE の推定によると、米国の主要道路の 32% の舗装状態が悪く、その結果ドライバー 1 人ひとりが負っている余分な修理費用と運転経費は 324 ドルに上るとしています。
同時に、輸送関連の連邦資金の大部分を拠出している連邦高速道路信託基金は、その収入源を減少傾向にあるガス税のみに依存しているため、破産一歩手前の状態です。インフラが効果的に分析・管理されている場合、道路を良い状態に維持することは、コストの低下につながります。
すでに集められている 2015 年の信託基金収入の 340 億ドルを活用できる機会は数多くあります。全国の舗装損傷の分布を見てみましょう。
イリノイ州では、73% の道路の状態が悪く、年間 24 億ドル( 1 ドライバーあたり 292 ドル)余分な修理費や運営コストがかかっています。また、橋の 15.9% (26,621 の橋のうち 4,246 )が老朽化や構造上の欠陥により強度が不十分です。
このようなデータセットをまとめることにより、政府機関は大局的見地から分析し、状況を理解することができます。
コロラド州、コネチカット州、イリノイ州、オクラホマ州、ロードアイランド州、ウィスコンシン州は悪路の割合が最も高く、どの州も道路の 70% 以上が損傷しています。
港は、輸入品のほとんどが通る重要な入り口であり、沢山の企業が世界の市場へアクセスし、競争できているのも港のおかげです。米国では、輸出品の 76% と輸入品の 70% が港を通過しています。港を使った貿易量は 2012 年から 2021 年の間に 2 倍以上に増加し、2030 年後半にはさらに倍増すると予想されています。
上記マップは、米国の上位 25 の港を通る商業貨物量の詳細については、クリックしてください。
ニューヨーク/ニュージャージー港は、米国で 3 番目に大きな港です。
2011 年には、20 フィートコンテナ換算で累計 4,043,000 個分の物品が港を通過しました。
国際貨物船のサイズは急速に大型化しています。現在米国に 300 ある商業港湾のうち、国際船の積み荷の大部分を今後担うことが予想される「ポスト・パナマックス」船(パナマックス船よりも大きな、パナマ運河を通過できないサイズの船舶)に対応することができるのは非常にわずかです。西海岸の港の大部分は十分な深さがありますが、大西洋側では5港、メキシコ湾は 1 港しかこれら超大型船が入港可能な深さのある港がないのです。
多くの港では、これら巨大船舶を収容するための浚渫(しゅんせつ)が必要となり、その際は港湾維持管理信託基金を通じて連邦政府から資金の大半が支払われます。しかし、港湾利用者から集められた資金は現在の支出水準の 2 倍にもかかわらず、深水港への総資金調達量は 2010 年から 2012 年にかけて 15% も減少しました。
国際貿易の拡大に対応するためには、より大型の港湾バースやクレーンへの投資が必要です。現在、港湾ターミナルから道路や鉄道への接続が不十分なため、港から市場へ商品を輸送するのに時間がかかっています。接続が改善され港湾ターミナルから鉄道網への直接リンクが出来るようになれば、道路渋滞の緩和や貨物輸送の遅延解消、低価格の維持が可能になります。協同一貫輸送(トラックと船などのように二種類以上の輸送機関を利用する輸送)インフラに対してこのような改善を行えば、大きな利益を得ることが可能です。
空港は貨物と人の両方を輸送し、地域経済に重要な役割を果たしています。米国の商業航空システムは、544 の空港を管理しています。35の空港がある首都圏 15 の大都市圏では、米国全体の 80% の乗客が乗り降りしています。
一方で、航空貨物は非常に高品質でタイムクリティカルな輸送に特化しています。上位25の空港がすべての輸送貨物の 78% 以上を扱っています。FedEx のハブ空港であるメンフィス空港、アジアへの主要な玄関口のアンカレッジ空港、UPS のハブであるルイビル空港の3空港だけで、すべての航空貨物量の 36% 以上を占めているのです。
上記マップは、総乗客搭乗数が多い空港トップ 50 です。
上記マップは、米国内で最も貨物機の総着陸数が多い 50 の空港が示されています。
国際空港調査によると、旅行者たちは米国の空港が海外の空港に遅れをとっていると感じているそうです。例えば、SkyTrax という航空サービスリサーチ会社のランキングでは、最高の空港トップ 10 に米国の空港が 1 つも入っていませんでした。最も高い評価を受けた米国の空港は 28 位のデンバー国際空港で、トップ 100 に入った米国の空港の数は 12 にとどまりました。また、別の調査によると、米国の空港 4 港が最悪な空港ワースト 10 にランクインしています。
北米国際空港協議会(ACI-NA)の会長兼 CEO であるケビン・M・バーク氏は、事実上すべての空港で大規模構造改善プロジェクトが延期されていると述べています。また、空港が出来てから年月が経つにもかかわらず、予算が限られているため老朽化を食い止められていないとも語りました。
各輸送部門において、米国はインフラの質の向上は言うまでもなく、質の維持に向けた適切な投資にも失敗しています。この失敗はアメリカ経済に大きな影響を与えています。ASCE は 2015 年に次のように指摘しています。
「インフラの悪化は、さまざまな角度から企業や家庭に影響を及ぼし、ビジネス効率の低下、事業費の増加、家庭における商品やサービスのコスト増加につながっている。これは企業の売り上げ、国内総生産(GDP)、個人所得、消費者支出、雇用の減少が、インフラが悪化していなかった場合と比較し、算出して出た結論である」
米国のインフラ再建計画を成功させるためには、投資の効果的な管理が必要です。幸いにも、GIS 技術があれば橋や道路、港湾、空港のどこにどのように投資すべきかを把握することができます。GIS を使用すると、老朽化が最も深刻な場所がわかり、最大の効果を得られる箇所に資金を投入できます。
GIS は政府が計画と意思決定を行うために必須のプラットフォームです。記録を取ることにより、政府によるプロジェクトの効果的な管理や影響評価に役立つのです。オープンデータを公開することにより、投資対効果を有権者に説明することもできます。また、GIS は政府機関がインフラ改善のため賢い投資を行う際に役立つプラットフォームでもあるのです。