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電力・エネルギー大全 (米国の事情編)

 

現代のライフスタイルに不可欠な電力。複雑な電力の生成と伝達経路の全貌を地図で明らかにします。

 

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解説

本マップは ArcGIS Online の「ストーリー マップ カスケード」というテンプレートを使用して作成しています。

 

1. 2003年8月 北米東部大停電

2003年8月13日の午後、オハイオ州にあるFirstEnergy社は火力発電施設のモニターシステムの一部がバグによって誤った緊急アラームを受け取りました。発電所の運転は自動制御により停止し、送電線網全体でバランスの均衡を取っている送電はこうして切断されました。FirstEnergy社のシステム事業担当者は、効果的な対策を打ち出したものの、一連の急激な電圧変化によって、地域内の送電線は既に無効になっており、送電システムは自動的にシャットダウンしていきました。一基ずつ、東海岸の発電所はオフラインになり、わずか数時間のうちにニューヨーク市は暗くなり、停電はすぐにトロントまで到達しました。

カナダ オンタリオ州と米国8都市に住む5,500万人もの人が被害を受け、遠隔地においては、数日間あるいは数週間にわたり日常生活が停止した状態となりました。少なくともこの停電によって12名が命を落とし、また、深刻な経済的被害をもたらしました。電力インフラの物質的な損傷は数週間で修復に至ったものの、停電による被害コストは6,900億円に上ったと推定されています。

この大停電をうけて、ワシントンでは議員たちがより厳しい規制を求め、防衛専門家はこのままでは送電網の脆弱性がテロリストに狙われると警告しました。明らかなことはただ一つ、送電網システムは大幅な見直しが必要ということでした。

アメリカの国営発電施設の半分以上は運転開始から30年以上が経過しています。連邦エネルギー規制委員会(略称:FERC)は、2016年から2017年にかけて約200の発電施設の運転を停止させる予定です。これらの発電施設の停止後は、よりクリーンで安価、長持ちする施設へと転換していくことが期待されているものの、システム全体のアップグレード費用の負担先はまだ不明です。というのも米国の電力送電網システムは、無数の経済勢力と政府による規制によって管理されており、場所によっては秘密のネットワークであるケースもあります。多くのアメリカの人々にとって、電気がどこでどのように生産されているかを知ることは非常に困難で、ほぼ不可能といえます。

北米東部大停電の大ニュースは、現状の電力生成・送電・分配システムに光をあて、近い将来、これらのシステムを見直し、改善を図るきっかけとなりました。

2. 電力を大量消費するアメリカ

そもそも米国は、電気に対する需要が大きく、2015年には3,863,275ギガワット時を消費しました。これは、EU連合全体とロシア全土の電力消費量の合計とに匹敵します。年間の電力消費量でアメリカを上回るのは中国だけですが、それでも電力消費量を1人当たりに換算すると、中国では1人当たり3,762キロワット時なのに対し、アメリカではその約4倍、1人当たり12,985キロワット時を消費しています。電力部門はアメリカで最も重要な産業の1つであり、電力網システムはアメリカ最大の技術的成果のひとつであることに間違いありません。

アメリカがこのような電力消費の習慣を維持できるのは、国内で生産された電気によって電力需要が賄えてしまうからです。要するに、消費する電力よりも多くの電力を国内で生産することができるのです。このグラフは、電力消費量と生産量の推移を示しています。電力は大量に貯蓄することができないため、この電力需要と供給ラインはほぼ違いなく推移しています。結果、電気の需要は慎重にバランスを取らなければなりません。この均衡が崩れた時、それは壊滅的な停電が発生した時と言ってよいでしょう。

3. 送電力網の解体

75,000以上の発電所の集まりが24時間体制で電力を発電しています。電力は、運動エネルギーを電力エネルギーに変換して作られます。通常、回転するタービンの中には磁石があり、磁石の周りには銅線のワイヤ、あるいはディスクがあって、タービンの回転に合わせて磁石を回すことで、ワイヤに電気が流れる仕組みになっています。

 

 

発電所の規模・種類はさまざまで、化石燃料や風力発電といった異なる種類の一次エネルギーを燃料としタービンを回転させます。いくつかの発電所は他の発電所よりも多くの電力を生成します。この地図は、米国すべての発電所をそれぞれの発電量ごとに円の大きさを変えて表示しています。

 

 

発電した電力は、長距離の送電に最適化された高圧電ケーブルを使って発電所から配電所へと送電されます。これらの送電ケーブルは、遠隔地のコミュニティを繋ぐ言わば電気の超高速道路のようなものです。

変電所に届いた電力は、安全な電圧にまで下げられた後、低電圧の送電線を通して工場や一般家庭に届けられます。もしもこの送電ケーブルがすべてのエンドユーザーに繋がっていると仮定すると、その長さは、約72万kmにもなり、これは地球と月とを往復できてしまう距離です。

電力網の物理的インフラの大部分は民間の公益事業会社が所有し、運用しています。(補足:電力ネットワークは、大きく発電・送電・小売の3つから成り立っています。米国では、この送電の部分で複数の電力会社が相互に電力を融通できるように相互接続をおこなっています)送電網の相互接続は、東、西、テキサスの3つのグループに分けられます。このグループ内での送電は容易である一方、グループ間を跨ぐ接続は、周波数が異なりかつ費用もかかるため困難を極めます。

これらの地図が物語るのは、発電、送電、配電における複雑な地理です。米国の電力網は決して未だ統一されたシステムではなく、独立したネットワークがパッチワーク的に寄せ集まった状態で、接続の必要がある時に臨時に対応している状況なのです。

 

 

「電力・エネルギー大全」はこの後、 原子力・化石燃料編、再生可能エネルギー編に続きます。

 

 

 

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掲載種別

掲載日

  • 2016年12月19日