トロント市はカナダ南東部に位置する面積約 630 平方キロメートル、人口約 270 万人の同国最大かつ、メキシコシティ、ニューヨーク市、ロサンゼルスに次ぐ北アメリカで4番目に人口が多い都市である。トロント市内の地下鉄、路面電車、バスといった公共交通機関を運営するトロント交通局(TTC)は、北アメリカで 3 番目に発達しており、2015 年には約 5 億 3700 万人、つまり 1 日平均で 276 万人を輸送しており、今後も鉄道網の拡張が計画されている。
トロント市の上下水道は、市が運営し、上水道が 340 万人、下水道が 280 万人が利用している。
上下水道の配水システムが完成してから 90 年以上経過したものが 23% あり、平均すると完成後 63 年経過している。老朽化した配水システムの補修にかかる費用は今後 11 億米ドルと試算されている。また、水道網は、6 つの給水区域あり、海抜 75m から 209m の標高差がある。
トロント市の配水システムに関わる数値
配水システム、下水道システム、豪雨水管理施設を対象に水道管の設置・メンテナンスを担当する部門では日々発生するトラブルを含め多岐にわたる業務を行っている。これらの業務の中では、次のような問題に対処しながら進めている。老朽化した施設の補修費、行政区や水圧などで管理されているエリアの考慮、レガシーなジオデータベースや業務管理システムによる制限、市内の関係団体や過去の記録の紛失など、様々な関係者とのコミュニケーションが必要であり、業務が複雑化している。
また、トロント水資源データベース(TWAG)とよばれる 既存の配水システムの管理システムは、2001 年にデジタル化が開始され、Webブラウザ上で地図情報の閲覧が行える。しかし、TWAG においては、設備の変更点は、紙地図で記録され、新たな変更がシステムに反映されるのは、24 時間から 3 年の時間がかかり、さらに一時的な設備の変更は、業務が滞るため記録されなかった。
前述の業務を変換するために ArcGIS を導入した。ArcGIS を活用することで、業務において新たな気付きを得られるようになった。
トロント市では、2021 年に新たな路面電車 Eglinton Crosstown LRT(Line 5 Eglinton)の開通が決定し、線路のルートや工事で影響を受ける上下水道管や設備を移設することになった。移設にあたっては、利用者への影響を最小限にすることを目的に ArcGIS Online と Collector for ArcGIS を使って現地調査で収集した情報を元に空間分析で配水システムへの影響を予測することとなった。
路線工事により最も影響を受ける地域の特定や、高圧エリアで発生する管破裂の可視化、配水システム修繕の優先順位付けを行うため、過去の運用・維持管理業務、補完での詳細な圧力分布、配水管の破裂の頻度のデータ収集・分析を行った。
過去の圧力分布を元にした圧力変化による近傍スケール分析、長期的な建設の影響追跡、実施された業務改善の評価を地図上で見える化した。
これらの取り組みによって、情報の更新が待ち時間無しになり、現場にいながら最新の情報が得られるようになった。また、GPS で現在位置とバルブの場所を見比べることで雪や泥の下でもバルブを容易に見つけられるようになり、安全性が向上し、さらにはペーパーレスで環境にも優しい取り組みとなった。
今後の展望としては、設備への GPS 設置による資産管理、TWAG と ArcGIS Online の連携、モバイル・アプリケーション導入によるペーパーレスの促進の検討を行っている。
今回紹介のストーリー マップは、マップギャラリーからご覧いただけます。
https://storymaps.arcgis.com
原題:Leveraging technology to track utility relocations