課題
導入効果
福岡県北東部に位置する苅田(かんだ)町は現在人口約36,000人、面積約46.6平方キロメートルの自治体である。東には周防灘に面して国際貿易港・苅田港と広大な臨海工業地帯が広がり、苅田港沖には北九州空港がある。東九州自動車道のインターチェンジもあり、陸・海・空の交通拠点となっている。一方、西にはカルスト台地平尾台に連なり、国の天然記念物青龍窟や広谷湿原など豊かな自然がある。市街地には邪馬台国伝説にまつわる三角縁神獣鏡を出土した国指定の石塚山古墳や御所山古墳をはじめとした多くの古墳や遺跡が点在している。苅田町は産業・自然・歴史・文化が共存したまちづくりを行っている自治体である。
苅田町では日々の業務において、異なるベンダーのGISデータ、CADやIllustrator、アナログの紙地図を用いて業務を行っていた。その際、部署をまたいだ情報の共有が容易には出来ず、またそれぞれの所有データを各課の事情に応じて変換する経費が発生していた。
そのような状況下で全庁での情報共有および運用費削減という目的のため、カスタマイズを必要としない「ArcGIS自治体サイトライセンス」の活用が開始された。
苅田町はKRIPP(北九州地域電子自治体推進協議会)に参画している。その中でも北九州市をはじめとした共同利用GISの立ち上げを計画していた自治体グループに、苅田町も参画することになった。
KRIPPは共同利用GISのツールとしてArcGISの採用を決定し、ライセンス数を気にせず定額でGISソフトウェアを自由に使用できる「ArcGIS自治体サイトライセンス」を導入した。
庁内で各課が保有する全庁的に利用できる地図データ(住宅地図、地番図、地形図住所検索データ等)を収集し、庁内GISで配信するためのデータ整備を行った。
各課からデータを提供してもらうにあたり、庁内GISへの理解促進が図られた。また併せて、利用者側の利用方法等の整理が進められた。
全職員が庁内GISを使い自分の作業用パソコンのWebブラウザから地図データを自由に閲覧できるようになったが、そこからGIS活用の幅がなかなか広がらなかった。
そこで、活用の幅を広げるため原課でのヒアリングを行い、庁内GISの説明、庁内における活用事例の発表、ハンズオンの勉強会を行った。
停滞期に行った勉強会が功を奏し、原課から情報政策担当へGISを使ってみたいという要望が次々と上がってくることになった(図1参照)。ArcGISを活用している原課の事例発表が具体的でわかりやすく、GIS導入後の自らの原課での活用方法をイメージしやすかったようだ。
特にWebアプリケーションを活用した簡易的なデータ編集アプリが好評で、普段複雑なITシステムを利用しない課でも、GIS導入への意欲が高まったようだ。
そこで平成27年度からESRIジャパン(株)へのコンサルティング業務を委託し、原課の要望に沿ったGIS活用支援を行っている。それにより一層、原課が積極的にGISを使おうとする機運が高まった。
庁内GISの活用が広がることで、情報(データ)の統合・共有がGIS上でできるようになり、日常業務の効率化および経費削減につながった。
また、システムのカスタマイズが不要なWebアプリケーションを活用することで、経費削減となり、費用対効果を高めた。
全庁的にGISの利用が広がる一方で、一部の機能、アプリケーションしか活用できていない現状がある。GIS活用の底上げを行うため、今後は現地調査用アプリの活用やGISによる分析等を行い、業務改善に努めていく予定だ。
また、特に住民課や地域福祉課といった住民情報を取り扱う部署や町の公有財産等土地・建物の管理を行う部署でのGIS活用を目指していく。
クラウド製品を活用し、庁内にとどまらず町民への情報公開を行っていく予定だ。具体的には、行政情報をはじめ、防災情報、観光情報などについてもGISを活用した新しい情報発信を実施していく予定である。