課題
導入効果
保土ケ谷区は横浜市のほぼ中央に位置する行政区(全18区)の1つで、鉄道や幹線道路の通る低地とそれらを取り囲む丘陵地からなる起伏に富んだ地形となっている。
江戸時代に東海道の宿駅制度が定められた際、江戸から4番目の宿場として東海道保土ケ谷宿が誕生し、交通・経済・文化の要所としてにぎわった。明治に入ると東海道線、程ヶ谷駅が開業、帷子川下流域に工場が進出し、工業地帯として発展した。昭和2年10月に人口38,118人で保土ケ谷区が誕生。昭和44年に旭区を分区し現在の姿になる。現在の人口は205,041人(平成27年9月1日現在)である。
区政推進課では、区の主要事務事業の企画及び進行管理、総合調整、区民相談、広報など区民のフロントとして地域の問題・課題に対応している。
1980年代からGISを導入した横浜市では職員がGISに触れる機会が多く、保土ケ谷区でもWebGISが活用されていた。さらに、政策支援のためのデスクトップGISの必要性が高まり、2015年に自治体ソリューションライセンスを導入した。ArcGIS自治体ソリューションライセンスは、特定業務向けにArcGISが年間利用料で使える自治体限定の新しいライセンス形態だ。職員向けの研修を進める一方で、データの管理については「保土ケ谷区版GISプラットフォーム」を構築し、データの一元管理により経費の削減を図っている。GISをオフィスツールとして使える環境が整いつつある。
横浜市のGISの取組みのルーツは1983年まで遡り、GIS利用の先進自治体としても知られる。早期からデジタルマッピング(DM)データを共通基盤データとして位置づけ、庁内でGISが「分散」した状況でも、各GIS間に齟齬なく「自立」的に構築できる環境が整備された。2000年代には、WebGISの活用を本格化させ、情報発信・共有ツールとして様々な部署で活用されている。このWebGISでは、アドレスマッチング機能を使って簡単にポイントデータを入出力できる。職員がWebを中心にGISに気軽に触れることができ、リテラシーが高まっている。
保土ケ谷区では、2013年に区内所在の横浜国立大学と連携協定を締結しており、意見交換会の場などでGISが使えそうだという意見が出ていた。
保土ケ谷区では地域ごとの特性に基づいた施策・支援の議論の叩き台を作るために、スタンドアロン型(デスクトップ)GISの必要性が高まっていた。
横浜市ではWebGISの研修があり、次のステップとしてArcGIS for Desktopを使用した課題解決型の研修が用意されている。こうした環境に加え、横浜市各局や大学とのGISデータの連携のしやすさを考慮し、ArcGISの導入を決定した。2014年度にまず自治体GIS利用支援プログラムを導入し、台風対応等で実践的に活用した。横浜国立大学ならびに同大学佐土原聡研究室(教授・都市イノベーション研究院長)のサポートもあり、GISへの期待・関心が高まる中で、2015年度に自治体ソリューションライセンスを導入した。横浜市各局にはすでに様々なGISデータが蓄積されており、その資産を有効活用し、政策支援を行うことが主な使途だ。「市のデータ資産が豊富なことに加え、専門知識を持ち、地域に関心のある大学が身近にあり、恵まれた環境を活かしたかった」と振り返られた。
ArcGISを導入するにあたり、予算部門の説得に苦労はなかったのだろうか。「予算担当者はGISに対するリテラシーがあり、ぜひやりなさいと言われた。区長もGIS活用を推進している政策局出身で理解があり、当時の副区長は自分で操作実習も行った。」GISへの理解が庁内にある程度広がっているところに、この自治体ソリューションライセンスは最適だったようだ。
デスクトップGISは操作が難しいとの声はなかっただろうか。「実際の操作を地道に見せてきたことで、最近では問い合わせも増加し、GISを使ってやってみようという意識を持った職員は着実に増えています。今後はより裾野を広げるために、難しい操作による分析だけがGISの利点ではなく、分野によっては簡単な操作だけでも活用できることを広めていきたいと考えています」
研修の実施やデータ作成マニュアルの作成など、区として独自に人材育成の取組みも本格化させている。
GISデータの管理・共有については「保土ケ谷区版GISプラットフォーム」を構築し、データ利用の煩雑さの解消や、データの一元管理による経費の削減を図っている。ベースマップは整備済みの横浜市のDMデータを使用している。マップの上に重ねる各種主題データは、ファイルジオデータベースとして共有している。データを作成し共有したい職員は、申請によりこのジオデータベースへの格納が可能だ。
連携の成果として、買い物店舗アクセス圏、交通機関アクセス圏、高齢化率などの地図を作成し、シンポジウムで報告・掲示したうえで、区民と直接意見交換を行った。また、福祉分野ではこれまで委託作成していた住民向け地図をArcGISにより内製することで、経費を削減するとともに、地図の情報の鮮度を保っている。
区が抱える課題の解決にGISを使っていかにアプローチして成果を出すかがこれまで以上に求められている。
区では地区ごとに担当を置き、庁内横断的に地域に密着し情報収集などを行う体制を整えている。この地区担当の支援に向け、より的確に地域情報を把握できるよう、今後はGISを使用した「地区カルテ」のような仕組みを関係課と連携し構築していく考えだ。また、大学の研究成果であるディープデータの共有・区独自データのオープンデータ化や、授業での学生も交えた討論の実施などにより、横浜国立大学との連携をさらに発展させながら課題解決を図ることも検討されている。
「庁内はもちろん地域や関係機関とのコミュニケーションを媒介するメディア/促進するツールとしても有効。エクセルやワードのようにオフィスツールとしてGISを日常的に業務に取り込みたい」とのことで、政策支援以外の業務においても、従来の必要に応じてGIS関連の予算化をする状況から、いつでもGISが使える環境への転換が今後進んでいくだろう。