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事例

地域医療および救急医療における課題の把握・分析と見える化

和歌山県立医科大学 地域医療支援センター

 

GISが様々な情報を集約し 地域医療の課題を議論するためのプラットフォームに

 

概要

和歌山県立医科大学内に設置された地域医療支援センターでは、医師偏在・診療科偏在等の地域医療の課題の把握・分析・見える化を進めるため、他大学でも同様の活用実績を持つArcGIS for Desktopを2014年4月に導入した。最初に取り組んだ課題は、救急搬送アクセシビリティの評価である。一つの医療圏を対象に病院からの到達圏エリアを作成、救急事象覚知場所のデータと重ね合わせ、実際に病院までの所要時間との比較を行った。分析結果から、実際には医療圏外への搬送が多く、到達圏の値以上に時間がかかっている事象が多く存在することが明らかになった。本センターでは、厚生労働省が推進している地域包括ケアシステムの構築にもGISを活用する予定であり、様々な情報を集約し地域医療の課題を議論するためのプラットフォームとしての役割が期待されている。

 

背景

和歌山県立医科大学および附属病院
和歌山県立医科大学および附属病院

当センターは、和歌山県より委託を受け、2011年4月に和歌山県立医科大学内に設置された。地域医療支援センターは各都道府県に設置され、大学卒業後も地域医療に携わる医師のキャリア形成を支援し、地域への医師派遣のコントロールタワーとしての機能が求められている。和歌山県では、人口10万人当たりの医療施設従事医師数は259.2人(平成22年厚生労働省)と全国平均を上回っているが、実際は約54%の医師が和歌山市に集中し、医師偏在や診療科偏在が発生している。

上野センター長は、このような医療資源(施設、医療従事者)の現状や地域医療の実情を把握し、それぞれの地域で求められる医療ニーズを分析して結果を分かりやすく見える化するためには地図が欠かせないと考え、新潟大学や島根大学で同様の活用実績をあげているArcGIS for Desktopを2014年4月に導入、これにあわせて、地理情報科学を専門とする熊谷氏も加わった。

 

導入・分析手法

熊谷氏はまず、和歌山県の医療圏の一つである有田医療圏における救急搬送アクセシビリティの評価を行った。近年、全国的に救急医療機関への搬送時間の長時間化が社会問題となっており、和歌山県においても救急医療体制についての課題として、医療機関へのアクセス向上があげられている。県民がどこでも早期に救急医療を受けられる体制整備の強化が求められている。

用いたデータは2012年1月~2013年12月までの救急搬送データで、この2年間に出動した全救急事象6,775件について、発生時刻、発生場所、患者情報、事故種別、病状、搬送先などの情報が収録されている。背景図としては、ArcGISデータコレクション道路網(2014)を使用した。本データには、ネットワーク解析に必要な通行所要時間、道路・交差点間の接続、右左折禁止や一方通行などの交通規制情報が含まれている。

 

分析手順は以下のとおりである。

  1. 救急告示医療機関(都道府県知事が認定した救急病院)からの移動時間に基づく到達圏(10分圏、20分圏、30分圏)を、ArcGIS for DesktopのエクステンションであるArcGIS Network Analystを使用して作成した(左下図)。
  2. 救急事象覚知場所、収容機関の住所データをジオコーディングにより緯経度に変換し、到達圏の地図上にポイント(点)データとして重ね合わせ表示した。
  3. 2の重ね合わせ表示により、それぞれの救急事象覚知場所が、救急告示医療機関からどれくらいの到達圏にあるかが分かる。そこで、空間結合処理により、個々の救急事象覚知場所のデータに救急告示医療機関からの到達圏の値を追加した。
  4. 救急事象覚知場所の点データには、実際に病院までの所要時間のデータも含まれているので、点の色を~10分、~20分、~30分、30分以上で色分け表示した(右下図)。

救急告示医療機関からの到達圏
救急告示医療機関からの到達圏

救急事象覚知場所の分布と搬送時間(=現場着から病院着の時間)
救急事象覚知場所の分布と搬送時間
(=現場着から病院着の時間)

 

結果

大学院生GISレクチャー風景
大学院生GISレクチャー風景

救急告示医療機関からそれぞれ10分、20分、30分圏で発生した救急事象の多くが、実際にはそれ以上の時間をかけて他の医療機関へ搬送されていることがわかった。これは、有田医療圏域外の医療機関への搬送の依存度が高いことを示している。有田医療圏の5つの救急告示医療機関では、この2年間で実際に受け入れた救急件数は2,718件で、全体の約40%に留まっているという。つまり、本来担うべき救急告示医療機関が十分に機能していないという課題が浮き彫りになった。

 

まとめ

今回、救急医療へのアクセシビリティの評価にGISを活用することで、課題を分かりやすく見える化することができたと言えよう。上野センター長は、「GISは、様々な情報を突き合わせて議論するプラットフォームになるのではないか」と語る。今後は、このアクセシビリティ評価の他に、厚生労働省が推進している、地域包括ケアシステム(可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービスを提供する体制)の構築においても、GISの活用を試行錯誤しながら進めていく予定だ。また、地域医療支援センターはGISを切り口とした医療情報の活用、分析、実践を通して、地域医療体制を再構築する際のPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を実現できる医療人材を育成することが期待されている。

 

プロフィール


上野センター長(左から3番目)と、熊谷氏(左から4番目)、及び大学院生



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掲載日

  • 2015年11月23日

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