福岡県北東部に位置する行橋市は、1954年(昭和29年)に市制が施行され、2014年(平成26年)10月10日に市制60周年を迎えた人口約7万人の自治体である。歴史的には旧豊前国に位置し、近年大河ドラマ化によって一躍有名になった黒田 官兵衛が九州での最初の居城を置いた馬ヶ岳を擁している。現在も北九州地域のベッドタウンとして、ゆるやかではあるが人口は増加しており、北九州地域を構成する衛星都市の一つとして発展を続けている。
行橋市は2013年、北九州市、直方市、香春町、苅田町と共に広域GIS連携を開始した。市民向けには、地域情報ポータルサイト「G-motty(ジモッティ)」の運用により行橋市単独ではなく、北九州地域全体としてのワンストップによるGISサービスの提供を目指している。そして庁内の職員向けには、住宅地図のWeb提供を皮切りに、現在は業務システムでのGIS統合利用が始まっている。 庁内外でのGISの統合的な利用が始まったことで、今後は庁内でのデータ流通が加速し、業務の効率化・高度化や、更には自治体同士での技術支援や地理空間情報のデータ・ノウハウの共有が期待される。
地域情報ポータルサイト「G-motty」
行橋市では約400人の職員が日々、業務活動を行っており、その中にはGISシステムを利用する業務も多くある。しかし、これまでそれらのシステムは個別の業務に合わせて特化しただけのものがほとんどで、業務内で作成された地理空間情報のデータやノウハウが横展開され活用できることは多くなかった。また、システムの老朽化などによる入れ替えのタイミングでは、それまでとは異なるベンダーがシステム構築を担当する場合、既存システム上で作成された資産を引き継ぐためのコストも大きなものになるといった課題もあった。
そのような背景の中で、行橋市は個別のGIS導入・運用経費削減や、地理空間情報の高度利用を目的として北九州市などと共にArcGIS自治体サイトライセンスの導入を行った。
共同利用GISに参画する自治体は、地域情報ポータルサイト「G-motty」の運用を2013年から始めている。
サービス開始当初は、防災関連情報などの自治体情報の配信や、住宅地図のコンテンツデータを利用した最寄施設検索といった基本的なサービスがメインであったが、現在は「ロールケーキマップ」や、福岡のローカルテレビ番組とタイアップした「G-motty × ナイトシャッフル」といった、柔らかなGISサービスの提供も始めている。
ロールケーキマップ
庁内でのGIS活用については、2013年のサービス開始当初は、住宅地図の庁内Web公開という基本的なサービス提供から始まり、2014年には下水道のシステムに広がった。 下水道課では、受益者負担金を管理するシステムについて、GISと連動する形でこれまで運用してきた。しかし、システムの老朽化などの理由で、データ更新などの維持・運用や、将来の上下水道統合を視野に入れた地理空間情報の連携利用に大きなコストがかかってしまうという課題を持っていた。そこで市は、ArcGIS自治体サイトライセンスの導入を機に、受益者負担金の管理システムについてArcGISをベースとしたシステムに載せ替えることにした。
システムは、ArcGIS上でのソリューションを既に持っている、もしくは提供できるベンダーから入札によって選定され、すでに稼働を開始している。
地域情報ポータルサイト「G-motty」では、市域を超えた防災情報や民間の住宅地図などに登録されている情報を複合的に提供することで、より高度な住民サービスの提供をするだけにとどまらず、これまでの行政サービスでは手が届かなかった分野の情報まで提供することができた。その成果はローカルテレビ番組とのタイアップなどで表面にも表れてきている。
庁内でのGIS活用については、原課での業務システムに、ArcGIS自治体サイトライセンスを活用することで導入コストの低減を図ることができた。またこのシステムで活用される地理空間情報は、必要に応じてすぐに全庁へ展開することも可能なデータとなった。将来の管路システムや上水システムといった、別のシステムへのデータ転用も容易になると予想される。
行橋市は、ArcGIS自治体サイトライセンスの導入によって、庁内外での高度なGISサービス提供に一定の成果を上げている。 地域情報ポータルサイト「G-motty」の取り組みは、総務省からも評価され、G空間シティ構築事業の一つとして採択された。今後、更なる機能の拡充や高度なサービス提供を目指している。 庁内でのGIS活用についても、上下水道への横展開だけでなく、都市政策課といった部を超えたところでも順次利用が開始・想定されている。