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事例

自治体全庁型統合GISの稼働からオープンデータ公開まで1年半で実現

北海道室蘭市

 

ArcGIS Open Dataを用いた自治体オープンデータの公開

課題

導入効果

概要

北海道室蘭市は、北海道と本州を結ぶ海陸交通の要衝として発展した歴史を持つ、人口約90,000人の北海道南部に位置する市である。

室蘭市庁舎外観
室蘭市庁舎外観

同市では平成23年度に全庁型統合GISの導入が決定された。検討に際しては、原課における個別のGIS導入は、将来、コスト的、運用的に問題が発生することが見越され、GISを導入する際は全庁型にするべきとの方針となった。同時に、市民向けの地図サービスを提供するか否かが議論されていた。平成25年度に全庁型統合GISが稼働すると、検討されていた市民向けの地図サービスは、オープンデータの時流に乗り、また、折しも自治体の地理情報公開に特化したポータルの仕組みである「ArcGIS Open Data」がリリースされ、追加コストが発生することなく平成26年度9月に形を変えて実現された。

 

背景

GISの導入検討から全庁型統合GISの導入、稼働、そしてArcGIS Open Dataを用いたオープンデータの公開までわずか3年程だ。この例を見ないスピードの秘密はどこにあるのか、ご担当の企画財政部企画課高度情報推進の丸田之人主幹に伺った。

「市全体として情報化を推進する体制が整っていることと、我々の部署がICTに関する予算、運用の責任を一括して持ち、原課は完全な利用者であるということではないでしょうか」同市には、副市長をトップとし部長職から成る情報化推進委員会が設置されており、丸田主幹が属する高度情報推進がICTに関する全ての企画立案を行い予算も一括して管理している。情報化推進委員会は、原課による個別GISが個別の予算管理により維持されると、重複した作業が個別に行われ、結果的に統合の必要が出てきた際に障壁になることを見越し、全庁型統合GISの導入を決定したのだ。的確な意思決定と、予算確保、維持管理を原課から切り離すシステマティックな運用が肝だったようだ。

丸田 之人 主幹
丸田 之人 主幹

しかし、スピードの秘密はそれだけではないだろう。「とても大変でした」と続けられた。「我々は全てのICT導入、運営を行っているので慣れているんですが、GISは他のITシステムと用語、考え方、設計思想がまるで違うんです。これを一から勉強した訳ですが、ベンダーや北海道GIS/GPS研究会が主催するセミナーに参加したり、書籍で勉強したり、ほぼ独学でした」「書籍で非常に参考になったのが、市川市の大場さんが書かれた「統合型GISが行政を変える-地理空間情報活用推進基本法の時代の実務-」(古今書院刊)でした。GISが何なのかあの一冊でおよそ分かったような気がしました」と振り返られた。

 

導入手法

同市は、一般的である原課の個別GISからスタートするのではなく、いきなり全庁型統合GISを導入し、また、固定料金により全庁で使い放題になるArcGIS自治体サイトライセンスの契約も締結した。現在では約1,200名の全職員が接続可能な室蘭市共用空間データ基盤として稼働し、約100の業務で利用されている。サイトライセンスの締結がオープンデータの推進にも一役買ったようだ。「初めてArc GIS Open Dataを見たとき、これはいい!と思ったんですよね。まずはサイトライセンスに含まれているので追加コストがゼロ。オープンデータ推進は予算ゼロで行うことにしていたのでばっちりはまりました」「非常に簡単にポータルが作れてしまい、データの内容をダウンロードする前に地図で見れて、データの種類もシェープ、CSV、KMLなど様々な形式に対応しているので利用者の幅が広がると思いました」ご苦労はいろいろあったようだが、GISがきちんと稼働している環境で予算負荷もかからずスムーズに運用がスタートしたようだ。しかし、反対意見は無かったのだろうか。「基本的に、市は情報の透明性を重視する方針であり、しかも税金で作ったデータですから、個人情報など公開すべきでないデータ以外は公開するのが当たり前なんです。よって意思決定はスムーズなんですが、原課から面倒がられたり、悪用される事を心配する声はありました」「しかし、基本的には情報開示請求を受けて出せるものは出す、出せないものは出さないというルールを決めて運用しています」「悪用の可能性は否定できませんが、それは法で罰すれば良いのであって悪用されるから出さないというのは違うと思います。オープンデータは道路のようなインフラと同じなんです。スピード違反をする人がいるから道路を作らないとはなりませんからね」非常に明快なポリシー、わかり易いルール、そして全国でも先進的な活動を推進する一自治体としての責任感と強い意志で運用されているのである。

室蘭市オープンデータポータルサイト
室蘭市オープンデータポータルサイト

 

導入効果

平成26年10月現在、26のデータを公開し、広報誌もクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのCCBYで公開している。今後アンケートなどにより市民の声を確認したいとのことだが、おそらく利便性は向上しているだろう。ArcGIS Open Data活用以前にも市のWebサイトでは都市計画現況図などを公開していたが、ダウンロードしないと内容の確認ができず、必要とされる大量のデータを素早く取得することができなかった。現在でもWebサイトでの公開と併用しているが、地理情報を含むオープンデータの公開は、運用側にも利用者側にも使い勝手の良いArcGIS Open Dataにシフトしていくことになるだろう。

 

今後の展望

最後に今後の展望をお聞きした。「自治体はデータを公開するところまでが仕事だと思っています。後はそれを企業、大学、研究者などの皆さんに活用していただきたいのですが、今はまだオープンにしたからと言って勝手に活用は進まないと思います」「なので、大学院の授業の一環としてアイデアソンをしたり、ビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会や、オープンデータ流通推進コンソーシアムに参加したりして土壌作りをしています」市役所のWebサイトを設置するか否かの議論が一昔前の話になったように、オープンデータの公開も同市の活動などに押され一般化していくのだろう。更に未来の姿にも言及された。「全国の市役所のデータをまとめたポータルサイトができると良いですね。様々なデータフォーマットやデータ構造で現存するデータを吸収して公開してくれるサイトが存在すればオープンデータの公開は飛躍的に進むと思います。この辺りは国の動向に期待したいところです」と結ばれた。今後も同市の活動に期待しつつ、ESRIジャパンとしてもオープンデータ推進活動に協力していきたい。

 

プロフィール

室蘭市高度情報推進のみなさん

高度情報推進のみなさん

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資料

掲載日

  • 2015年2月10日