全米の消防署への緊急通話は、まず緊急派遣センターにつながる。ここで重要な情報が取りまとめられ、対応部署に伝達される。火災現場で対応を課せられる司令官らは、無線で伝えられる重要な情報を紙や自分の手に書き留めていく。しかし、時に、オペレーション管理や火災への対応に必要な情報を司令官らが入手できない
など、情報の共有化が課題となっている。カリフォルニア州アラメダ郡では、同様の課題を解決するため、ArcGIS for ServerをプラットフォームとしたSitStatというアプリケーションを開発した。刻々と変化する隊員の位置情報や任務状況といった情報をSitStatで統合、表示し、タブレットPCやスマートフォン等で共有することができる。指令センターと現場が同じ情報を共有することで、一刻を争う現場での的確な意思決定が可能となった。
アラメダ郡の消防署では、消防指令長と部隊長が数ヶ所の消防署、各署にある複数の部隊を統括している。消防指令長/部隊長が火災に対応している場合、第2消防指令長/部隊長による応援体制がとられる。しかし、この応援体制の仕組みで情報共有に関する問題点が浮き彫りとなっていた。
例えば、
アラメダ郡地域緊急通信センターでは、このような情報共有に関する問題点を改善するため、すべての緊急対応部隊の位置情報と任務の状況を表示するSitStat(Situation Status)の導入を決定した。
アラメダ郡地域緊急通信センターは、Esri 社のシルバーパートナーである Psomas of Riverside (カリフォルニア州)に SitStat の導入を依頼した。同社は、Esri ソフトウェアに関する設計と導入、緊急管理業務プロセスに対する理解と知識、アラメダ郡での統合型 GIS 導入の経験を持ち、今回の開発では、プロジェクトの調整と設計管理、開発、SitSat の配信に携わった。
SitSat のプラットフォームには、ArcGIS Server が採用された。ArcGIS Server は、リアルタイムでGPS 追跡データ、郡の統合型 GIS データ、Esri ベースマップ、識別番号など、様々な緊急情報を統合・表示することが可能だからだ。また、人員が不足している消防署を見極める高度な地理空間モデリングにより、SitStatのマップインターフェースを通してダイナミックな表示を行うことができる。ArcGIS API for JavaScript も重要な設計要素で、デスクトップ、タブレット、スマートフォンに共通コードであるマルチプラットフォームの配信を可能にする。
ダッシュボードには、部隊、識別番号、隊員の移動分析結果、
人員に関する懸案事項の注意喚起が表示されている
SitStat 開発、導入にあたり、多くの課題が明らかになった。
データ収集プロセスは、アラメダ郡地域緊急通信センターで所有している CAD データの統合、各消防署が保管する敷地図の取得など、大がかりでかつ、複雑な作業であった。
アラメダ郡地域緊急通信センターは複数の行政機関から成り立っているため、アクセス権のコントロール、データ送信、ファイヤーウォール、情報管理が課題であった。
SitStat は、Apple やAndroid 端末、Windows デスクトップやタブレットなど、参加する行政機関により使用される様々な機器で使える必要がある。そのため、4つの異なったブラウザをサポートするとともに、すべての機器とビューアの組合わせで確実に動くかどうかの大がかりな機能テストが実施された。
複数の関係者(CAD ベンダー、消防指令官、GIS 導入者等)がプロジェクトに関わっていたため、利害関係者の間でシステム統合やセキュリティ、信頼性といった事柄に対する調整が行われた。
火災が発生した場合、SitStat を使ってマップ上で火災発生個所にズームインし、各対応部隊の位置、現場の周辺域について確認できるようになった。また、シングルクリックで該当する敷地図を開くことも可能だ。SitSat の導入により、意思決定の鍵となる情報が、現場の司令官に確実に提供されるようになった。
SitStat は、アラメダ郡地域緊急通信センターが管轄する 1,188平方km 内の消防署で導入され、タブレット、スマートフォン、壁面モニターで共通状況図の共有を可能にした。地形、道路、航空写真を含む数種のベースマップで表示される豊富なコンテンツは、病院、消火栓、各消防署の管轄域、管轄の境界などの GIS レイヤーを含む。すべての緊急時対応要員がリアルタイムな情報を表す共通状況図を様々な方法で共有することで、同一の情報から必要な対策を導き出すことができるようになったのだ。