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事例

GISによる積雪寒冷地の都市地理学研究

北海道大学

 

積雪寒冷地の都市における生活環境の時系列的変化や季節差をGISによって分析、都市の時空間構造を解明する

積雪寒冷地では季節によって生活環境が大きく異なる。そのため、経年変化に注目する研究と、季節変化に注目する研究とを統合して、都市の生活環境を動態的に解明することが必要である。

全体税明

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策を模索していくことは、現在いっそう求められている。そうした中、北海 道大学大学院文学研究科地域システム科学講座は、日本や世界の諸地域を、人間と自然環境の両面から総合的に教育研究することを目的に作られた。この講座では、人文地理学、社会生態学、地域社会学の3分野で、地域に関する諸問題を対象とした研究教育を行っている。本講座の特徴は、(1)フィールドワーク(野外調査)を中心とした教育研究と(2) 学際的な教育研究とにあり、学生はフィールドワーク能力を身につけると同時に、文献調査やコンピュータを使った分析など、さまざまなアプローチから地域に迫る手法を学ぶ。

地域システム科学講座人文地理学分野の橋本研究室は、空間と社会の科学という立場から、積雪寒冷地を対象地域として、長期間にわたる詳細な時空間データの蓄積や、季節差に注目した都市の内部構造および住民の生活行動の解明を目指している。これまでに学生が提出した修論や卒論のテーマの一部を紹介すると、「札幌市における小売業時空間構 造の分析」、「積雪地域における都市内避難場所の空間構造」、「札幌市の人口移動に関する地理学的研究』、「小樽市における高齢者の社会空聞に関する地理学的研究」、「公共突通ネットワークの変容に対する住民の評価に関する研究」、「都市内部におけるコンビニエンスストアの立地展墨ー 開』、「緊急時におけるヘリコプター輸送についての地理学的研究」などがあり、いずれもGISを利用して積雪寒冷地における経年変化や季節差の解明を行っている。

積雪寒冷地

北海道大学がある札幌市は北緯43度付近に位置し、2006年6月現在で約189万人が居住する大都市である。この札幌市は、冬季の寒さが厳しく、1971年からの30年平年値で真冬日が48.4日、降雪量が630cm、2005年度の最低気温がマイナス11.7度、最深積雪が111cmである。このような積雪寒冷地に人口200万人近くの大都市が存在することは、世界でも稀であり、その内部構造や時系列的変化、および住民の生活空間に関しては多くの研究課題が残されている。

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積雪寒冷地の特徴はその季節差にあり、晴天が続く心地よい夏から、街一面が雪で覆われる冬へと、景観や生活環境が一変する。北海道大学に赴任後、この季節差に注目した橋本氏は、積雪寒冷地における都市環境をGISによって学生達と共に研究している。橋本研究室では、都市における生活環境の変化を、長期間にわたって時系列的に研究する立場と、1年周期の季節変化に注目して研究する立場とを統合し、それによって都市の時空間構造を解明することを研究室の重要なテーマとして位置付けている。『季節差による影響はここに住んでいる人にしか分からない。私たちの役目は問題意識を受け継いで、季節差の影響を数値的に分析し、具体的な問題を指摘することだと思う』と橋本氏。

時系列的に変化に注目した都市の時空間構造

本研究室では、都市の業務機能、突通流動、人口移動、土地利用などに 関する空間データを長期間にわたって蓄積しており、それらを分析することで時系列的変化に注目した都市の時空間構造を明らかにしようとしている。例えば、都市計画基礎調査データを用いて、詳細な地区単位および土地利用項目での分析を行うことで、積雪寒冷地独自の土地利用パターンの変化が見いだせる。札幌市を対象に行った分析では、積雪時に歩行が困難になることから、公共交通へのアクセシピリティの高い地 区に都市機能が集中し、地下鉄駅周辺など交通利便性の高い地区で土地利用が顕著に高度化する傾向があることを明らかにしている。

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このような土地利用の変化に伴い多数の都市内人口移動が生じていることから、本研究室では都市内居住者の転居移動に関して、居住地選好についての分析も行っている。近年では、札幌市の都心付近に数多くの 高層住宅が新規立地しているが、積雪時の生活が困難となる郊外から 都心のマンションへ多くの住民が移動している背景がある。この移動に注目し、どのような属性の人が、どこを発着地として移動するかなど、人口の都心再集中についての詳細な研究を行うことで、都市の時空間構造の解明を試みている。

季節差に注目した都市の時空間分析

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本研究室では、長期的な時系列的データと並行して、都市住民の生活に関する季節差に注目した時空間データも蓄積している。例えば、小樽市など急勾配の地形が多く、かつ高齢者が多い地域では、季節によりどのような歩行行動の違いがあるのかというのは、都市の生活環境を知る上で重要な課題である。特に高齢者が、乙の歩行行動において、どのようなものをバリアとして認識し、どのようにルート選択をしているのかなど、ヒアリング調査で得た個人行動データをGISでネットワーク解析を することで精度の高い分析を試みている。

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また、都市の生活環境に関しては、避難場所や避難行動といった防災面での研究も必要である。札幌市では、夏季には避難場所として使用できる公園も、冬季には雪が高く積もり避難場所として機能しなくなる。そのため、冬季は、屋根付きの建物で避難場所に指定されている所のみが避難先の対象となる。このような状況では、個々の住民にとって季節により避難先が異なる。夏季には十分に収容できる避難場所の中には、冬季には収容人数を上回る住民が集まる所も存在する。特に、近年、人口増加が著しい都心においては、冬季の避難場所の収容能力は不足しつつある。避難場所は住民の避難距離と収容能力を考慮した上で配置されるべきであるが、現状は季節の変化と人口分布・構成の変化に対応しきれているとは言いがたく、地域の特色にあった災害対策が求められている。

今後の展開

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『人材の育成は研究を継続していく上でとても大切だ。』そう語る橋本氏は自身の研究と同様に、教育にも力を入れている。また、高校と大学との連携や、教育機関と博物館との連携などを利用して、多くの機会に早期 からのGIS教育の重要性を説明している。GISで解析された結果を、アニメーションやCGムービーを使って、わかりやすく効果的に表現する方法など、新しい手法も取り入れているのは本研究室ならではの特色である。現在、橋本研究室の大学院生は“積雪寒冷地における都市地理学刊の枠組みの中で興味の持ったテーマの研究を続けている。それぞれの研究成果を比較する事で、新しい発見や、新しい問題提起へつながっている。そんな院生たちを見習って新しい世代の学生もGISの楽しさを学んでいる。『今まで整備の行われていなかった地域のデータや、新しい統計データが登場してくる事は研究を進めていく上で重要ではあるが、それだけでない。いい人材が育つ環境の中でこそ、積雪寒冷地の都市地理学が発展していくと信じています。そして今後はGISを使った研究を続ける事で、多くの方にGISの魅力を知ってもらいたい。そしてGISをただのツールとして見るのではなく、Geographical Information Scienceと言う1つの学問として成熟させていければと思っています』と 橋本氏は最後に語った。

プロフィール


地域システム科学講座 橋本 雄一 助教授



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掲載日

  • 2007年1月1日