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チェルノブイリ原子力発電所事故の影響解析

米国Esri社

 

目に見えない放射能の影響をGIS、地球統計学で解析し、健康と安全を守る。

1986年の未曾有の大事故でヨーロッパ中に撒き散らされた放射能の影響は、20年近く経った今も消えた訳ではない。
事故直後の初動対応から長期的な影響把握まで、GIS、地球統計学が目に見えない放射能の影響を浮き彫りにした。

1986年4月26日午前1時23分、チェルノブイリ原子力発電所で爆発が発生。放射能は、旧ソ連(現ウクライナ)、チェルノブイリからヨーロッパへと拡散。放射性粒子は大気中を漂い、スカンジナビア、英国、ギリシアまで達した。1,600km以上離れたスウェーデンでも事故3日後に放射能雨が降り、ベラルーシ隣接諸国を上回る放射能汚染が発生した。

ヨーロッパ各地に撒き散らされた放射性粒子の大半は半減期約30年のラジオセシウム。健康への短期的な影響もさることながら、農産物を介した長期的影響も懸念された。ラジオセシウムに汚染された食物の摂取が健康に与える影響調査は重要となり、GISと空間統計学は解析用の豊富なツールを提供した。

初動支援:スウェーデンの放射能雨

化学物質、放射性物質の拡散を伴う大規模な事故の初動対応に、詳細な気象データは極めて重要な役割を果たす。放射性物質の地上計測データよりも広域的かつ即時的に入手可能な降雨量観測データを利用することで対応地域の早期特定が可能となる。1986年のスウェーデンの気象観測網は700以上の観測所から構成されていた。

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チェルノブイリ事故3 日後の降雨データ(単位mm)。European Commissionユs Institute for Environment and Sustainability, Ispra, Italy のデータより地図を作成

チェルノブイリからの距離、風向等から事故数日後の降雨に放射能が含まれる可能性が予測された。一般的に、観測網の細かさに関係なく、観測されない領域が発生する。このため影響地域かどうかの判断には非観測地域のデータ値の予測が必要となる。ただし、予測には不確実性が伴い、意思決定を左右する可能性さえあり無視できない。予測と予測の不確実性を組み合わせる1つの方法としては、降雨量が一定値を超える確率の地図を作成する方法が考えられる。

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1986/4/29 に6mm 以上の降雨があった確率。鉄道、主要道路の密度からスウェーデンの
人口密度を推測可能。右下の地図はスウェーデンのラジオセシウム土壌汚染地図http://www.sna.se/webbatlas/kartor/vilka.cgi?fritext=cesium より

ArcGIS Geostatistical Analystは、異なる仮定に基づく複数の確率分布モデルをサポートしている。これらのモデルを利用することで、解析者であるESRI Inc.のKonstantin Krivoruchko氏は、4月29日の降雨によるスウェーデン中東部のラジオセシウムの土壌汚染を解明した。放射線物質の地上への降下は、明らかに降雨によるもので、質の高い気象観測データを利用することで、大気・土壌の放射汚染データの入手を待たずして、専門家による緊急初動対応の可能性を示した。

長期的影響の解析:ベラルーシにおける食物汚染

今日、ラジオセシウムに汚染された食物からの被爆は、ベラルーシ住民が受けた全放射線量の50%を超えている。これは、南ベラルーシの村民は汚染されていない食物を購入するのに十分な収入を得ておらず、村で収穫された汚染の可能性が高い野菜、じゃがいも、牛乳や、周辺林野で採集される木の実、きのこを消費するためである。

1993年にByelorussian Institute of Radiation Safetyは、主な種類の食物を対象に50,000個以上のラジオセシウムのサンプルデータを収集した。セシウムによる土壌汚染と食物汚染の間には直線的な関係はない。土壌汚染レベル、土壌種別、放射性粒子の降下時の気象条件、施された。対処法の種類や範囲などのさまざまな要因が放射性物質の土壌から植物への移動に影響している。食物汚染レベルが許容上限値を超えるものは当研究所の広報で公開されている。これにより高い被爆リスク下におかれている家族を救うことができる。ラジオセシウムの汚染分布は空間的にも、食物の種別的にも極めて不均一であり、確率的なマッピングの利用価値が高い。また、このマップは住民へのリスクの情報伝達、またそのリスクの把握、理解に極めて有効な手段である。

以下の地図は、ラジオセシウムのサンプル取得個所とそのレベル、および各地で生産される牛乳の放射汚染レベルが許容上限値の75%を超える確率を示した地図である。許容値上限値よりも閾値を低く設定しているのは、データに多くの不確定要素が含まれること、実際には汚染が高い地域を特定するよりも、リスクを重要視した方が良いという理由による。牛乳を例にしたのは、1993年の調査結果によると、食物摂取による体内からの被爆の牛乳の寄与率が36%であることによる(下図左上部分のグラフ参照)。この結果は120集落、8品目を対象に各最低50のサンプルを取得して実施された調査による。

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1993 年の南ベラルーシ。牛乳の放射汚染レベルが許容上限値の75%を超える確率。Disjunctive kriging を利用して作成。

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Geostatistical Analyst ではサンプルデータの空間上での分布傾向の把握や補間モデルの選択を対話的に行うことができる。

プロフィール


スウェーデンとベラルーシの位置関係。
ベラルーシ内はセシウムによる土壌汚染を分類表示している。
グレー:低
青  :中
赤  :高


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掲載日

  • 2005年1月1日