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地理情報から居住環境と生活習慣病の関係性を紐解く

島根大学プロジェクト研究推進機構疾病予知予防研究拠点

 

地理情報システムを活用して地域の生活習慣病予防を考える

居住環境が生活習慣病に及ぼす影響を GIS を使ってリスク検討する

 

イントロダクション

島根大学生活習慣病コホート研究の対象地域
図1:島根大学生活習慣病コホート研究の対象地域

島根大学プロジェクト研究推進機構疾病予知予防研究拠点(以下、疾病予知予防研究拠点)は、健康・医療、生活習慣、社会環境等の多岐に渡る多次元データと知的創造力を活用して、地域に根差した個性的な研究および国際水準の独創的な研究を集中的、かつ戦略的に推進するとともに、成果を広く社会へ還元することを目的とした研究プロジェクト型組織である。したがって、本研究組織は、学内だけの人事交流に留まらない国内外の関連機関との研究者交流を活発に行うことを目的としており、既存の学部組織にはないユニークな活動を展開することが可能となる。

地理情報システム(GIS)を活用した本研究は、島根大学プロジェクト研究推進機構の特定研究部門に位置付けられている「地理情報システム(GIS)を活用した多次元データの集学的高度利用に関する研究」の成果である。なお、特定研究部門とは、島根大学が地域貢献、国際貢献等の目的で政策的に取り組むべき研究プロジェクトで構成されている。今回は、島根大学生活習慣病コホート研究(Shimane COHRE Study)のデータを活用して、中山間地域における高血圧症の現状と地域での予防活動の方向性を明らかにした。

 

島根大学生活習慣病コホート研究(Shimane COHR Study)

直線距離と道路ネットワークに基づいた算出結果
図2:直線距離と道路ネットワークに基づいた算出結果

島根大学生活習慣病コホート研究は、生活習慣病の予知予防を目指して健康・診療情報、各種臨床検査情報、生活習慣情報、人間関係情(ソーシャル・キャピタル)、社会資源情報、医療・介護費情報等に関する調査研究である。2006 年に島根県雲南市掛合町で調査を開始し、雲南市三刀屋町、加茂町、大東町、出雲市佐田町、隠岐の島町、邑南町で調査を継続している(図1)。

近年、「どのような場所に居住しているのか」という視座より高血圧の発症リスクを論じる研究への関心が高まっている。そのひとつとして、人口密集地からの距離(remoteness)に基づく研究成果が示されているが、距離の算出方法や実証研究が乏しいことから未だ十分な議論が示されていない。

そうした中で、島根大学生活習慣病コホート研究(Shimane COHRE Study)では、地理情報システム(GIS)を活用した属性情報(ポイントデータ)と地理空間情報の融合に関する研究を行っている。本研究では、地理情報システム(GIS) を活用して人口密集地からの距離と高血圧の関連について検討した。

 

方法

対象地域

島根大学生活習慣病コホート研究(Shimane COHRE Study)の対象地域である雲南市掛合町、三刀屋町、大東町、加茂町を分析対象地域とした。したがって、解析には、各町での健康調査の参加者のうち、分析に用いる変数に欠損値を有しない 1,348 名である。なお、本稿で高血圧は、大学スタッフによる問診で「高血圧治療中」と回答した者とした。

道路ネットワーク距離に基づく3分位
図3:道路ネットワーク距離に基づく3分位

 

地理情報システム(GIS)を用いた解析

分析対象者の自宅と島根県庁の住所より地図上の位置である地理座標(緯度・経度)を特定し、ArcGIS for Desktop(旧 ArcView)Network Analyst を活用して 2 地点間の距離(remoteness)を算出した。中山間地域では、道路ネットワークが非常に入り組んでいることから(図 2)、直線距離に基づく議論では両者の距離を過小評価することが考えられた。そこで、本研究では、道路ネットワークに基づき、両地点間の距離を算出した。

地理情報システムにより算出された結果に基づき解析では、3 分位(0–26,685.8m=Short distance、26,685.9m–38,350.6m=Moderate distance、38,350.7m–68,070.1m=Long distance)の値を用いた(図 3)。

 

使用データ

本研究では、道路ネットワークとして、道路種別、道路幅員、および一方通行・右左折禁止情報等の詳細な道路情報が格納されている ArcGIS データコレクション道路網を利用した。

 

結果

車非使用群では、年齢、性別、飲酒、喫煙、身体活動、ストレス、服薬(糖尿病、脂質異常症)、BMI 等で調整したところ、Long distance のオッズ比が 2.29(95% Confidence Interval (CI):1.26-4.18)であり、 Short distance のオッズ比が 2.73(95% CI: 1.09-6.82)であった(図4上側)。その一方で車利用群では、居住環境(remoteness)と高血圧症の間に統計学的に有意な関係は認められなかった(図 4 下側)。

 

居住環境・交通手段と高血圧症(車非使用群)
居住環境・交通手段と高血圧症(車使用群)
図4:居住環境・交通手段と高血圧症
(上側…車非使用群、下側…車使用群)

まとめ

遺伝素因や生活習慣に示される「どのような個人であるのか」という議論に加えて、「どのような場所に居住しているのか」と研修成果いう居住環境が高血圧に及ぼす影響が考えられる。本研究成果は、地理情報システム(GIS)を活用して道路ネットワークに基づく人口密集地と分析対象者の距離を算出し(=どのような場所に居住しているか)、かつ、住民の生活習慣(=どのような個人であるのか)を踏まえて高血圧症のリスクを検討した研究である。

以上の研究成果は、今後、地域での高血圧症予防を検討する上で、個人の要因にとどまらず、居住環境を踏まえた検討の必要性を示唆している。地理情報システム(GIS)は、その他にも社会資源までの距離や時間等のデータを付加することができる有用なツールである。今後は、中山間地域に特有の変数について地理情報システムを活用して構築し、さらなる検討を進めていく予定である。

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掲載日

  • 2013年9月10日

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