地域医療の役割と需要予測に位置情報を活用
JA長野厚生連 佐久総合病院
病院内・病院外とのコミュニケーションツールとしての可能性
地域における病院の役割から将来の医療需要予測まで
医療分野における GIS の活用方法とは
イントロダクション
図１：長野県東信地域
佐久総合病院は長野県佐久市に位置し、佐久医療圏 20 万人に加えて隣接の上小医療圏 20 万人を含めた長野県東信地域（図1）の基幹病院であり、伝統的に「二足のわらじ」として高度医療とともに地域医療にも力を注いできた。その活動は、救命救急センター、地域がん診療連携拠点病院、へき地医療拠点病院、心臓疾患基幹病院、災害拠点病 院、エイズ治療拠点病院、地域周産期母子医療センター、臨床研修指定病院として指定されるとともに、佐久地域のかかりつけ医としての機能、南佐久郡5か所の国保診療所への医師派遣、訪問診療活動、訪問看護ステーション（5か所）、老人保健施設（2か所）、健診予防活動など、佐久総合病院の地域に果たしている役割は実に幅広い。
病院が地域に果たす役割
佐久総合病院が地域に果たしている役割を分析するためにEsri Business Analyst を用いて、その役割の一部を可視化した。
図2：外来医療から見た役割
外来医療から見た役割 （図2）
アドレスマッチングを用いて外来患者の分布を見ると、隣接 2 次医療圏である上小医療圏からも 13.8% の受診があることが明らかとなった。診療科別でみると、外科、胃腸科、産婦人科、放射線科では上小医療圏からの受診が多い傾向にあり、広範囲 な地域のニーズに対応していることが分かった。一方で、眼科や総合診療科、内科、精神科などは佐久医療圏を中心とした地元ニーズに対応していることが分かった。
救急医療からみた役割
アドレスマッチングを用いた同様の分析からは、救急外来受診患者 （ 救急車搬送除く）は 7 割が佐久市からであること、 救急車搬送患者は上小医療圏からが 15.4％ に上っていることが明らかになった。運転時間商圏を用いた分析からは当院まで 60 分以上の距離から救急搬送される患者は 16.3％ であった。また、どの分析でも遠方からの患者ほど入院になる割合が多いことが明らかとなった。
図3：がん診療からみた役割
がん診療から見た役割 （図3）
院内がん登録を用いたアドレスマッチングの結果からは、地域がん診療連携拠点病院として佐久医療圏と上小医療圏の 2 か所の 2 次医療圏のニーズに応えていることが明らかとなった。この状況は長野県内の他のがん診療連携拠点病院では見られない傾向であった。長野県内 8 か所のがん診療連携拠点病院からの運転時間商圏を用いた分析からは、比較的人口の多い上小医療圏をカバーするがん診療連携拠点病院がないため、当院に上小医療圏からも多くのがん患者が受診している傾向があることが明らかとなった。
可視化によるインパクト
図4：佐久医療圏の人口動態推移
紹介している事例のように GIS を用いた病院データのマッピングによる可視化や運転時間商圏を用いた可視化は、誰にでもわかりやすくインパクトがある。一方で、既存の公開されているデータも GIS を用いれば、非常にインパクトのある資料になる。例えば、佐久医療圏における今後の人口推計も GIS を用いれば、65 歳未満人口が佐久地域で約 44,000 人減少すること、佐久医療圏南部では高齢者数は現状より増えないこと、佐久医療圏北部のみ高齢者が増えることなどが視覚的に明らかになった（図4）。このようなデータは今後の佐久医療圏における医療需要や介護需要の基礎データとして有用性が高く、病院経営・戦略には必須の資料となっている。
導入効果と広がり
当初は地域ケア科の小松裕和氏が研究目的で ArcGIS for Desktop（ 旧 ArcView）1 ライセンスを購入し分析を行っていた。その成果は病院と佐久診療圏の現状を示す基礎データとして蓄積されていった。その後、小松氏が作成したマップを学会で発表の他、病院内での共有、意思決定会議などでの使用につれ、徐々にその有用性が病院経営層へも浸透していった。2012 年 3 月には職員への GIS オンサイトトレーニングが実施され、現在は Esri Business Analyst を導入し、管理課、診療情報管理科との共用・管理が始まっている。院内各部署・各診療科や医師からの依頼による分析・マップ作成業務の他、調剤薬局マップの作成など患者へのサー ビスとしての GIS 利用も計画している。
