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事例

被災者生活再建支援システムによる迅速で公正公平な被害者支援

宇治市役所 危機管理課

 

宇治市による京都府南部地域豪雨災害対応

被害認定調査、り災証明発行、被災者生活再建支援をシステマティックに行うことで、1日でも早く、被災された方々に元の生活を取り戻してもらいたい。

 

宇治市内の浸水被害の様子
宇治市内の浸水被害の様子

はじめに

京都府南部地域豪雨により、お一人の尊い命が奪われ、本稿執筆時現在も、お一人が行方不明となっておられます。亡くなられました方に対しまして、心より哀悼の意を表しますとともに、行方不明となっておられる方が、一刻も早く発見されることを願っております。被災されました多くの皆様に対しまして、謹んでお見舞いを申し上げます。

 

 

被害者生活再建支援システム
被災者生活再建支援システム

京都府南部豪雨災害

平成 24 年 8月13日から 14日にかけて京都府南部を襲った記録的豪雨は、周辺自治体に甚大な被害をもたらした。中でも最も被害が大きかった宇治市では、最大時間雨量 78.5 mm、累加雨量 311 mm を記録し、全壊 30 棟、半壊 169 棟、床上浸水 775 棟、床下浸水 1294 棟という深刻な建物被害を被った。被災した市民の生活再建支援が急務となった宇治市では、京都大学防災研究所 巨大災害研究センターの林春男教授に支援を要請し、林教授他の研究者および関連企業にて共同開発された被災者生活再建支援システムによる支援が開始された。

 

 

被災者生活再建支援システム

被災者生活再建支援システムは、2004 年の新潟県中越地震後の小千谷市役所、2007 年の能登半島地震後の輪島市役所、同年の新潟県中越沖地震後の柏崎市役所、2011 年の東日本大震災後の岩手県など、数々の被災地における被災者生活再建支援業務を支援する中で蓄積された多くの研究ノウハウを、一つの情報システムとして製品化したものである。

 
被災者生活再建支援業務は、関連法や指針に基づき、被害の状況を調査し、その結果をり災証明として公的に認定し被災者に発行する。認定結果は被災者台帳と呼ばれるデータベースに統合され、支援金、義援金、税や公共料金の減免、仮設住宅などの様々な被災者支援のためのマスターデータベースとして庁内の各課で横断的に利用される。こうした支援の迅速性と公正公平性が、被災者の生活再建、ひいては地域の復興を大きく左右することになる。被災者生活再建支援システムは、この一連のプロセスをシステマティックに行うための情報システムである。

 

建物被害認定調査

建物被害認定調査の様子
建物被害認定調査の様子

り災証明発行会場(宇治市役所ロビー)
り災証明発行会場(宇治市役所ロビー)

生活再建支援プロジェクトがスタートすると直ぐに、建設部局と税務部局を中心に、他府県・他市からの多くの支援のもと、被害調査チームが組織され、調査員トレーニングが開始された。トレーニングと並行して、浸水エリア内の建物を各調査班が一件一件調査する際の基本単位となる調査エリアの設定がシステムにより進められた。決定された調査エリアは、システムから調査票として印刷され各班に配布され、調査が開始された。

 

 

り災証明発行

り災証明発行システムの画面
り災証明発行システムの画面

り災証明発行窓口の様子
り災証明発行窓口の様子

現地調査により被害情報が収集されると、調査票自動データ化サブシステムによりデータベース化され、住民情報や家屋情報と共に り災証明発行システムにインポートされる。この間、り災証明発行会場の準備や発行担当のトレーニングなどが進められた。宇治市では、市庁舎ロビーに特設会場が設営され、9 月 10 日からり災証明の一斉発行が開始された。

り災証明は、誰の、何に、どんな被害が生じたか、の3 要素をセットで証明するものである。しかしながら、これらを文字ベースで結合することは困難であることが過去の研究でわかっている。り災証明発行サブシステムは、住民情報、家屋情報、被害情報を GIS を用いて空間的に結合する。また、り災証明は自治体と被災者間の合意形成という形で発行される上、建物の所有者/居住者の区分、住民登録の有無、窓口フローなどにより、発行業務フローは複雑なものとなる。更に、り災証明の発行結果は、その後の様々な被災者支援施策の公的根拠として利用されるため、各支援に汎用的に活用できるよう最適に設計された被災者台帳というデータベースに格納していく仕組みも必要となる。被災者生活再建支援システムは、数々の被災地研究から得られたノウハウが集約されたシステムであり、宇治市の発行業務もスムーズに進められていった。

 

被災者台帳による被災者支援

被害者台帳管理システムの画面
被災者台帳管理システムの画面

災害見舞金や税や公共料金の減免等、り災証明の内容に応じて提供される被災者支援は多岐にわたり、庁内横断的に実施される。宇治市では、住宅課、建設総務課、下水道管理課、環境企画課、危機管理課、地域福祉課、水道営業課、市民税課、資産税課、国民健康保険課、年金医療課、介護保険課、保育課、学校教育課、こども福祉課などから様々な支援が提供された。こうした支援の中心的データベースになるのが被災者台帳である。宇治市では、被災者の利便性を考慮し、多くの支援をワンストップで申請できる仕組みを構築し、質の高い被災者サービスを提供している。

 

 

まとめ

災害大国日本においては、「災害に勝つ」事から「災害に負けない街づくり」への発想の転換が求められている。被災者生活再建の早期化は、経済や都市の再建も早期化し、地域全体の早期復興を導く。生活再建支援業務のシステム化および平時からの訓練、準備が急がれている中、宇治市の成功ノウハウが広がることが期待されている。

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掲載日

  • 2013年5月14日