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事例

港湾施設の GIS 化による施設情報の管理と一般公開による情報共有

国土交通省 港湾局

 

全国の港湾施設情報を誰でも簡単に入手
計画から維持管理に至るまであらゆる場面での活用へ

ArcGIS を基盤とした GIS プラットフォームの特徴

  • 情報の入手が困難だった港湾管理者の施設情報を誰もが閲覧し効率的な情報収集に貢献
  • 異なるシステムで扱われていた情報を一元的に閲覧しアセットマネジメントに寄与

概要

日本の貿易量の 99% 以上を担う海上貨物は港湾にて取り扱われているが、その施設の多くは高度経済成長期に集中的に整備されたことから、今後急速な老朽化が進行することが見込まれている。老朽化が進む港湾施設を安定的に維持することが求められているが、技術者不足や財政上の制約、近年の自然災害の激甚化・頻発化に伴う被害の発生など多くの課題を抱えているのが現状である。

そうした課題解決の一助とすべく、国土交通省港湾局(以下、「港湾局」)は、港湾の計画から整備、維持に至る各段階において、国や各港湾管理者といったさまざまな主体により作成・保存されてきた情報を電子化し、一元的に管理できるプラットフォーム「サイバーポート」を構築した。扱われる情報には港湾計画図や施設位置図といった施設の地図情報も含まれており、情報の一覧化による有用性の拡大を目的として GIS を活用し構築することとした。

2023 年(令和 5 年)4 月より、プロトタイプとして構築した先行 10 港を対象に稼働が開始され、2023 年度中には重要港湾以上の 125 港に、2024 年(令和 6 年)度中には全ての地方港湾を含む 932 港へと対象を拡大する予定である。


課題

港湾施設は計画、設計、建設工事、点検・補修といった過程を得て運用されているが、過程毎に収集・組み立てられた情報は主体が異なるため散在してしまっている。

また、災害時は、早急に復旧し物流機能を回復することが求められている。

これら課題解決のため、港湾施設に関する情報のスムーズな連携が必要となっている。

ArcGIS 採用の理由

今回構築したシステムでは、さまざまな主体が取り扱っているデータを収集し、GIS 上で閲覧できるようにすることを目的としている。その ため、異なる形式のデータを連携し一元管理できることが必要である。また、より効率的な施設管理に繋げ、港湾に限らず道路や河川といった分野とも情報が連携されるよう、国土交通省にて既に構築されている別のシステムとの連携も見据える必要があった。

加えて、取り扱う多くのデータはその都度更新を行っていく必要があるが、作成主体が異なるため、適切に更新を行うことができる仕組みが必要であるとともに、情報を出力して幅広く活用してもらうことや、入力者からの改善要望に対して柔軟な対応ができる必要があった。

以上の要件を勘案し、多くの機能を有し、拡張性が高く、他の国土交通省のシステムでも採用実績のある ArcGIS を採用することとなった。

課題解決手法

港湾局では、施設の規模や構造、管理主体、維持管理に関する情報などを扱う維持管理情報データベースや、工事および業務の完成図書を扱うデータベースなどを開発し運用を行ってきた。これらのデータと、港湾計画図と呼ばれる港の計画に関する地図情報や、施設位置図のような現状の施設情報が分かる地図情報を連携して表示できる GIS を構築した。地図情報と既存データベースの連携にあたっては、港湾施設ごとに 17 桁の一意の施設 ID を割り当て、別々のシステムに保存されているデータの紐付け作業を実施した上で、GIS 上での一元的な表示を実現している。

なお、港湾計画図や施設位置図は、元々港湾管理者が任意の形式で作成・管理している図面であり、フォーマットもさまざまであった。中には紙で作成されていたものもあったことから、提供されたそれらの資料を基にシェープファイルを作成し、GIS 上で扱えるようにした。

また、港湾に関連する外部データソースとの連携も積極的に進め、海上保安庁が運営する海洋データプラットフォーム「海しる」との連携を行い、サイバーポートのレイヤーと重ね合わせて表示させることで、複合的な情報も得られるようにした。


サイバーポート(港湾インフラ分野)GIS 画面
港湾計画図や施設位置図、「海しる」による等深線図を重ね合わせ、施設諸元を表示させている

効果


施設検索機能による検索結果
水深や構造形式等の条件を指定して結果を表示
結果から GIS へ遷移も可能

今回、ArcGIS を利用してサイバーポート(港湾インフラ分野)と呼ばれるシステムを構築・公開を行った。これにより GIS を利用した港湾施 設情報の入手ができるようになっただけでなく、複数の地図情報を重ね合わせた表示ができるようになった。その結果、これまで活用できなかった図面を容易に表示できるようになったため、新たな解析・検討手法の構築に繋がっていく可能性も秘めている。

また、施設情報の入手にあたってはフィルター機能や検索機能などを利用して、複数の条件を基に施設の選定を行うことができるようになった。これにより、船舶の着岸について検討している利用者は、必要な水深が確保されている施設の場所を容易に特定することが可能となった。また、新たな施設を設計しようとしている利用者は、施設の構造形式や規格を指定することで類似の事例を特定し、その施設の設置者や管理者が誰なのか、構造断面がどのようになっているのかなどの情報を容易に入手できるようになるなどの活用策が期待できる。

今後の展望

前述のとおり、2023 年度から 2024 年度にかけて対象とする港を拡大していく予定であり、2025 年度には全ての港を網羅した情報入手が可能となる。

今後は設計の際に必要となる地盤情報との連携や災害対応を考える際に参考となるハザードマップとの連携を予定しており、さらなる機能の拡張を見込んでいる。また、国土交通省全体としてもインフラに関わる情報の電子化を推進しているところであり、港湾に限らず更に多くの分野と連携できる可能性がある。これらの情報を活用し、更なる業務改善を促進し、生産性の向上や災害対応力の向上に繋げていきたい。

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掲載日

  • 2024年1月29日