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事例

BIM/GIS活用で高架橋建設における計画と監視の効率化を実現

イタリア鉄道会社 Ferrovie dello Stato (FS) Italiane Group

 

BIM と GIS の統合で、公共施設の 3D データやドローン画像の活用を最大化

概要

イタリアの鉄道ネットワークを担当する政府機関の Ferrovie dello Stato Italiane Group(以下、FS Italiane Group)は、南イタリアのナポリ・バリ高速鉄道プロジェクトを担っている。このプロジェクトにおける高架橋の建設で は、計画段階から施工、管理までを効率化し、安全を確保する必要があった。

ワークフローを一新する手段として、ArcGIS Pro とオートデスク社の BIM360 の統合ソリューションを採用した。周囲の公共設備の 3D データやドローン測量データを BIM モデルと比較することで、意思決定や進捗管理を効率的に行った。また、ArcGIS Online で設計情報と作業ステータスを関係者間で共有するほか、 ArcGIS Network Analyst を活用し、建設に付随するさまざまな作業の効率化を図った。

このプロジェクトによって、FS Italiane Group における BIM/GIS 活用の PoC が検証され、BIM を使用したすべてのプロジェクトに GIS を展開する計画の第一歩となった。


ドローンによる 3D 点群調査データと BIM モデルの比較の様子。写真の緑の柱はすでに建てられているもので、ほかの建物は BIM で作成されたモデルである。

課題

当プロジェクトには 2 つの高架橋の建設が含まれている。大規模な高架橋建設において、進捗状況やプロジェクトに必要な資源、および周辺環境への影響を効率的に管理し、働く人の安全を確保することは必要不可欠であった。

また、作業計画を効率的に進めるために、水道管や電線など、周囲の公共設備への影響を考慮することも重要であった。加えて、現場や周辺環境の調査には、物理的な検査に伴う危険が発生するリスクがある。人員確保や時間のコストもかかるため、全く新しいスタイルの管理方法が求められていた。

課題解決手法および効果

BIM/GIS の統合

欧州横断輸送ネットワーク(以下、TEN-T)プロジェクトは、ヨーロッパ全土の主要道 路や鉄道などの整備により、貨物・旅客輸送の円滑化、効率化を目指している。2018 年(平成 30 年)の終わり、FS Italiane Group はこの TEN-T プロジェクトの一部であるナポリ・バリ間鉄道プロジェクトの高架橋の建設を開始した。この高架橋の全長はそれぞれ 800 メートルと 400 メートルであった。FS Italiane Group は高架橋の建設状況や使われる資材を管理するために、オートデスク社の BIM360 の段階的な導入を始めた。これにより、プロジェクトの関係者は構造物の寸法情報、計画や開発にかかる時間、プロジェクトに関連するコスト、高架橋の持続可能性、運用寿命、資産管理の詳細を確認できるようになった。

ArcGIS Pro で BIM データを読み込むと、ジオメトリとパラメーターだけでなく、BIM ファイルの中にある他の設計情報を統合し、BIM/GIS を活用したジオデザイン機能を利用できる。また、プロジェクトの設計と作業ステータスを ArcGIS Online 経由で公開することも可能だ。FS Italiane Group のグループ会社、FS Technology の BIM/GIS コンピテンスセンター長であるマルチェラ・ファラオネ氏は次のように述べた。

「我々の BIM モデルと ArcGIS を統合することで、当プロジェクトの建設段階においていくつか利点があると分かりました。水道管や電線などの公共設備を 3D データとしてマップ上に表示させたことで、より効率的に作業計画を立てられます。たとえば、高架橋の基礎の建設中、構造的なダメージを防ぐために交差する公共設備を補強する必要があります。該当する設備の管理を担当する全ての関係者を巻き込むために、3D バッファーツールで高架橋と交差する公共設備の種類を見つけ出し、補強するパイプの長さを計算します。また、同じデータを使い、上下水道や照明装置が必要な建設に適した場所を見つけ出すことも可能です」。

運搬ルートの計画支援

交通ネットワークの解析に特化した ArcGIS Network Analyst を使用することで、チームがより効率的に建設計画を作 成できると氏は付け加える。たとえば、廃棄物管理や資材運搬など、建設現場を回る作業の最適な運搬ルートの作成が可能になる。また、建設作業により交通の流れを断続的に止める際の、車線規制のためのバリケードの計画も作成できる。

ドローンによる測量

BIM/GIS を活用した新しい業務スタイルでは、ドローンで取得した画像が使用される。「ドローンは 3D レーザースキャナーを使用し、現場や周辺環境の高解像で高精度な画像を作成します」と氏は語る。集められたデータセットは時間経過に伴う現場の進捗状況を評価し、車両や機器などの資源をより適切に管理するために使われた。また、切土や盛土の量を量ったり、廃棄物処理の方法を記録したりする際にも使用される。

「ドローンによって、現場での物理的な検査に伴う安全上の課題を解決し、効率的に測量を行えます」と氏は述べた。ドローンは、 LiDAR 点群データの業界標準形式である LAS ファイルを作成する。このファイルには、GPS タイムスタンプなどの追加属性に加えて、大量の x、y、z の値を持つ 3D 標高ポイントデータが含まれており、これらのデータを ArcGIS で取り込むことができる。

「ドローンで集めた 3D 点群調査データと当社の BIM モデルを照らし合わせ、建設の進捗状況を確認できます。点群と BIM モデルの比較には、オートデスク社の Navisworks の干渉チェック機能を使用し、計画と進行中の作業の評価を行います」。

BIM モデルと比較しやすいように、チームは点群データのサイズを縮小して必要な点とデータのみを残し、さまざまな点群を組み合わせてプロジェクトのモデル全体を取得した。場合によっては、点群をサーフェスモデル、あるいは 3D オブジェクトに変換する必要があり、デジタル標高モデル(DEM)、デジタルサーフェスモデル(DSM)、ラスター RGB ファイルを作成することがあった。その後、色などの詳細を追加していく。建築物のデジタルスキンを作成し、点群から生成された 3D モデルに追加することで、よりリアルに見せることができる。

また、BIM モデルとの比較を可能にするために、人工知能(AI)を使用し点群内のプロジェクトの重要要素を自動検出するシステムを構築した。加えて、物流向けに現場の作業員と建設機器を自動識別するアプリケーションを開発している。


オートデスクと ArcGIS 技術を使い、ドローン飛行の計画を立てる。 ArcGIS Web AppBuilder を使用し、進捗確認用のアプリを作成。

今後の展望

今回の BIM と GIS の活用により、高架橋建設の計画、施工、進捗管理のすべての段階において効率化を図った。また、ドローンで集められた 3D 点群データを使用し、計画と進捗の比較評価を行った。さらに、BIM/GIS 活用によってトラブルやリスクを軽減できた。この強みは、高さのある高層ビルなどの建設においてはすでに実証されているが、当プロジェクトによって、線路や道路などの水平に長いインフラ建設においても同じ強みを発揮できることが分かった。

また、このプロジェクトを通じて、 BIM と GIS 間でデータの完全な相互運用を可能にするワークフローを開発した。今回の成果を基に、BIM/GIS の活用を BIM が使われている全てのプロジェクトに導入することも計画しているという。

「インフラ建設は、既存インフラなど周囲の影響を受けやすく、プロジェクトに変化が生じることがあります。その際に一部を手動で加工するのではなく、モデリング自体を自動化することが不可欠です。これが、建物の建設とインフラの建設の主な違いなのです」と氏は結論付けた。

 

この事例は Esri の ArcNews 記事「A BIM/GIS Workflow Benefits Key Railway Construction Project in Italy」を参考に翻訳したものです。

 

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掲載日

  • 2023年1月30日