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事例

デジタル技術を活用した行政での業務改革

愛知県 豊田市

 

作付け状況の現地調査を紙地図から
タブレット & 調査アプリへ移行で大幅な工数削減を実現

概要

愛知県豊田市は、愛知県北東部に位置し、トヨタ自動車が本社を置く日本有数の工業都市である。一方、約 6,690ha の耕作面積を有し、古くから桃や梨、茶といった農業も盛んに行われ、県内一位の収穫量である水稲をはじめ、小麦、大豆などの作物も多く作られている。
豊田市の農水畜産業の振興や農業後継者の育成事業などを行っている農政課では、地域農業再生協議会事務局として、経営所得安定対策と、水田活用の直接支払交付金の申請に必要となる作付け状況の現地調査(以下、現地調査)を行っている。現地調査において、従来の紙地図を利用した調査手法を変更し、ArcGIS を用いた Windows タブレット向け現地調査アプリと、調査データを統合管理する水田調査管理システムを導入したことで、調査に関わる業務の大幅な工数削減を実現した。

課題

農家が経営所得安定対策や水田活用の直接支払交付金の交付を受けるには、一筆ごとに一年間に作付けする作物の申請を行い、申請通りの作物が作付けされているかを確認してもらうことが交付要件となっている。
農政課では、毎年 1 月に農家から作物の申請を受け付け、その内容を水田台帳システムへ記録し、農家から申請のあった作物を確認するため、生育時期に合わせて春・夏・秋の 3 回、現地へ赴き調査を行う。その調査結果を庁舎へ戻ってから水田台帳システムへ反映させる。現地調査には、これまで圃場の様子を記録するカメラと、市内全域分の圃場の場所と申請された作物が記載された A1 サイズの地図冊子を持参し、実際に作付けされている作物を確認していた。その際に、申請と異なるものが作付けされていれば、作物をカメラで撮影し、紙地図上に実際の作物を記録する。
紙地図での現地調査業務では、以下の課題が挙げられていた。①地図冊子はサイズ・重量があり、持ち運び・車内での記録に手間取る ②紙地図では、現地で目的の圃場を特定するのが困難である ③記録用に撮影した画像と対象圃場の関連付けが煩雑である ④調査結果を水田台帳システムへ反映する作業が煩雑である。

ArcGIS 活用の経緯

現地調査の様子
現地調査の様子

農政課では、現地調査を効率化するため、2018 年(平成 30 年)春の現地調査後からタブレットを使った調査手法の検討を開始した。タブレットでの調査要件として、オフライン環境でも地図を見ながら調査が行えること、操作が容易であること、調査後の作業を効率的に行えることが求められた。検討時に、東海地方の自治体向けに水田台帳や農地情報公開システム、GIS 等を活用して調査業務を支援している株式会社フジヤマから、タブレットで利用できる作付け調査アプリと GIS データの統合管理を行う水田調査管理システムの紹介を受け、採用を決めた。
作付け調査アプリは ESRIジャパンのソリューションテンプレート「作付け調査テンプレート」をヒントに、クロスプラットフォームに対応した GIS 開発キット ArcGIS Runtime SDK for .NET で開発され、オフライン対応、現地調査に適した操作性の UI が実装された。また、水田調査管理システムは庁内のローカルネットワーク上にあり、GIS データの管理と配信を行う ArcGIS Enterprise と Portal forArcGIS で構築された。水田調査管理システムでは、地図上で調査対象となる一筆ごとに、圃場の地番、申請のあった作物、面積、調査状況などの情報を持つ GIS データ(以下、筆ポリゴン)が管理されている。初期の調査アプリでは、調査の完了や作付け情報の変更には、対象となる圃場の範囲を選択し、編集フォームを開いて更新をする必要があったが、農政課の担当者との協議を通して、タブレットでの利用に適した操作性に改善された。

課題解決手法

2019 年春の現地調査は、作付け調査アプリがインストールされた 4 台のタブレットを利用して行われた。調査対象となる圃場の筆ポリゴンは、水田台帳の情報を基に作成された。

詳細な属性情報の編集
詳細な属性情報の編集

*作付けの現地調査方法

調査出発前に、水田調査管理システムに接続し、最新の調査結果をタブレットにダウンロードする。調査は 2 人 1 組で行われ、タブレットのみを持参し、作付け調査アプリで現在地と目的地を表示させた状態で、車で移動する。現地で周辺の作物を確認し、申請内容と同じであれば、アプリ上の筆ポリゴンをワンタップするだけで調査が完了となる。このワンタップ更新機能は、調査完了登録までに複数回タップが必要だった従来と比べると、大幅に作業時間の短縮となった。申請と異なる作物が確認された場合には、編集モードに変更し、対象の筆ポリゴンの属性を修正する。必要に応じて、タブレット内蔵のカメラで撮影した画像をすぐに対象の筆ポリゴンに関連付けることもできる。また、アプリには対象圃場を選択しながら囲い、一括で複数の筆ポリゴンを修正する機能や、一筆の中で複数作物がある部分作にも対応する機能などの現地調査に適した機能が実装されている。

調査状況の一覧表示
調査状況の一覧表示

*水田台帳への反映

調査から帰庁した後、水田調査管理システムにタブレットを接続し、調査アプリから同期を実行すると、調査した結果が水田調査管理システムへ送られ、更新される。すべての調査結果が集まったタイミングで、水田調査管理システムから、別のネットワーク環境にある水田台帳へデータをコピーすることで、調査結果が水田台帳へ反映される。

効果

「タブレットの調査アプリを経験すると、紙を使った調査に戻れない」と担当の安藤氏が春の調査を終えた感想を述べた。調査へ持ち出すものがタブレットとなったことで、持ち運びが楽になり、GPS により調査の目的地が確認しやすくなった。

タブレットの調査アプリを経験すると、紙を使った調査に戻れない

作付け調査アプリの操作性向上に取り組んだことで、ワンタップで調査を完了することができ、想定以上に簡単になった。撮影した写真と筆ポリゴンの関連付けなど、これまで調査後に行っていた業務を調査現場で完了させることができ、帰庁後の負担を削減できた。また、作付け調査アプリには、調査が未完了の圃場を一覧で表示する機能があり、当日の調査漏れがなくなった。

今後の展望

農政課では現地調査においてタブレットと調査アプリの有用性がわかったので、中山間地域等直接支払制度の交付の申請に必要となる現地調査にも利用することをはじめ、他の現地調査でも活用できると考えている。また、現地で調査した内容と場所がすぐに地図上で共有できるので、農政課の業務だけでなく、災害時の情報共有ツールなどとしても検討できそうだ、と語った。

プロフィール


豊田市農政課の皆さん


関連業種

関連製品

導入協力企業

株式会社フジヤマ
組織名株式会社フジヤマ
住所〒435-0013
浜松市東区天龍川町303-6


資料

掲載日

  • 2019年11月20日