課題
導入効果
近畿大学は、東大阪キャンパスをはじめとした 6 キャンパス・ 14 学部から成り、学生数が 3 万人を超える活気ある大学である。近年では、近大マグロをはじめとした研究・教育が注目されている。
小川准教授が所属する環境・まちづくり系専攻では、具体的なまちや地域を対象とした研究を進めている。地域の特性を客観的にとらえるには GIS が必要であるという観点から、総合社会学部が新設された 2010 年に、ArcGIS サイトライセンスを導入した。ArcGIS を活用した授業を中核に据え、研究室では Esri CityEngine や点群処理プログラムを活用した研究を進めている。
2001 年に小川准教授の研究室に所属していた学生が GIS 系の会社に就職したのを機に、小川准教授は GIS の利活用に着目し始めた。カナダのカルガリー大学を訪問した際、PC 室の全てのパソコンに GIS ソフトウェアがインストールされている環境を目の当たりにし、より GIS の可能性を感じたという。2003 年に ArcGIS 大学利用支援プログラムに応募し、GIS 利用を開始した。
2007 年、小川准教授の専門である原子力分野での研究において、原子力施設が事故を起こした場合の線量予測を行う環境放射線監視システムが構築された。当時としては画期的な仕組みであった位置情報を受送信する技術を取り入れ、予測結果を携帯電話へ配信し、地図上で閲覧する仕組みに GIS が活用された。このように、研究での GIS の活用を見出し、ゼミでも ArcGIS の利用を進めていった。
2010 年の学部再編に伴い、総合社会学部が新設されることになった。学部の特色に合ったソフトウェアの一つとして、また、総合社会学部の学生全員が利用できる教育研究環境基盤として、ArcGIS サイトライセンスが採用された。総合社会学部の全 PC 室(180 台)には ArcGIS がインストールされ、学生や教員が自由に ArcGIS を利用できる環境が整えられている。
近畿大学では、「超近大プロジェクト」という東大阪キャンパスの大規模整備工事が進んでいる。2020 年の完成を目指し、キャンパス内の建物が新しくなる予定である。この新キャンパスをイメージしやすくするために、「超近大 3D マップ化プロジェクト」という研究テーマのもと、3D 都市モデルの作成を開始した。
現在のキャンパスと新キャンパスとの建物の配置の違いを 3 次元で表示し、建物の高さ、色やテクスチャ、窓のサイズなど、属性情報を簡単かつ動的に編集することで、様々な人に 3 次元マップを使ってもらい、意見のヒアリングに活用することとした。その検証段階として、オープンキャンパスで高校生にヘッドマウントディスプレイを装着してもらい、新キャンパスのバーチャルリアリティによる世界を体験してもらった。
新キャンパスマップの作成の流れを紹介する。
① ArcMap で近畿大学の建物情報が入ったキャンパスマップと航空写真を重ねて表示する。
② 作成したデータを Esri CityEngine に読み込み、建物の高さ情報をもとに 3 次元の建物として表示する。
③ 建物のテクスチャや色の変更ができるようにプロシージャル( 3D コンテンツを生成するためのルール)を作成し、データを Autodesk FBX 形式に変換する。
高さ情報・色を変更した建物例
④ 変換したデータを Unity に読み込む。
⑤ Unity で作成した処理プログラムをもとに、ヘッドマウントディスプレイにデータを配信する。装着したヘッドマウントディスプレイの正面にあるセンサーにより、配信される映像が顔の向きと連動し、360 度見渡しても映像が乱れずに表示されるので、あたかもその場所に立っているような感覚を作り出すことが出来る。
参加者からは、画像のリアリティ性の高さやヘッドマウントディスプレイを装着することによる臨場感に驚く声が寄せられ、楽しい体験となったようだ。
授業でデモンストレーションを行った際には、以下のような感想もあった。
本研究は、環境・まちづくり系専攻の他研究室からも意見を募り進めている。オープンキャンパスやデモンストレーションの取り組みを通して、Esri CityEngine を使うとフレキシブルに必要な変更ができる点が良いというコメントをいただき、実際の現場でも使える可能性を感じた。
今後は、熱や風の流れの研究において、都市景観データや、近隣の神社仏閣をレーザースキャンした結果から作成した点群データの 3 次元表示、地下街の 3 次元表示など、様々な展開を考えているということだ。今後の活用に期待したい。