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事例

医療機関へのアクセス性を考慮した病床需給の過不足を推計

千葉大学 医学部附属病院

 

日本の高齢化の進展を踏まえて医療機関へのアクセス性と全国の病院の過不足病床数を地図上で可視化

概要

日本では高齢化が年々進んでおり、 2040 年には高齢化率が 3 割を超えると予測されている。近い将来東京近郊における高齢者人口の増加と、都心部での医療資源の不足が予想されており、医療・介護の政策を検討しなければならない状況になりつつある。

千葉大学 医学部附属病院 地域医療連携部 土井助教は高齢者人口の増加を踏まえ、今後の医療政策の基礎資料として必要病床数の将来予測に関する研究を行っている。

本研究では ArcGIS データコレクションを使用して各町丁字別の将来人口と患者数を推計し、ArcGIS Network Analyst で医療機関へのアクセス性の解析と各病院の過不足病床数の解析を行った。

背景

日本の高齢化率は 2014 年時点で 25 %を超えており、2040 年頃には 35 %を超えると予測されている。特に東京近郊のベッドタウンである千葉県や埼玉県、神奈川県で高齢者人口の増加により、医療・介護需給が非常にひっ迫するとされている。一方で、過疎化により人口減少が進む地域では、どのように医療・介護提供体制を維持していくかが課題となる。そこで、地域の医療・介護提供体制が今後どの様に推移していくか分析する目的で、平成 24 年 4 月に千葉県から寄附を受けて千葉大学医学部附属病院内に千葉県寄附研究部門・高齢社会医療政策研究部が立ち上げられ、土井助教も本研究部のメンバーの 1 人に選ばれた。

この研究部内で、国勢調査などの統計値以外にも医療・介護サービスを必要とする患者の地理的分布や地域の特性を見ていく必要があり GIS を使用したが、当時は手探りの状態で分析を行っていた。高齢社会医療政策研究部は平成 26 年 3 月末をもって設置期間を満了したが、土井助教は自身の研究としてこれを引継ぎ、医療・介護にかかるデータと地理的なデータを結びつけ、施設へのアクセス性を考慮した地域分析や、将来予測等の研究を現在も行っている。

ArcGIS 採用の理由

研究を始めた頃は他社の GIS 製品を使用していたが、研究を進めていくうちにデータのカスタマイズや、詳細な条件設定ができる分析機能の必要性を感じるようになった。他社の GIS 製品では実現できない機能がいくつかあり悩んでいたが、その悩みを解決したのが ArcGIS であった。土井助教は ArcGIS に切り替えた理由について、「ArcGIS は分析機能が充実しているうえ、条件設定も十分すぎるほど詳細に設定できるところが研究者としては大変魅力的で、そこが一番大きな決め手となった」と語った。

研究手法

図 1 各病院への患者の配分方法
図 1 各病院への患者の配分方法

地域医療構想などの医療政策の動向を踏まえ、全国の地域と病院について分析を行い、病床数の過不足が起きる地域を予測した。

まずはArcGISデータコレクション基本統計の平成 22 年国勢調査の「性・5 歳階級別人口」を利用して、2015 年、2020 年、2025 年の各町丁字別の将来人口と患者数を推計した。患者数の推計には、厚生労働省患者調査のデータを利用している。ArcGIS を導入する前は、国勢調査の人口集計単位の区域と行政区域にずれが生じており、国勢調査人口と実際の人口との整合性をどのようにとるかといった課題があった。ArcGIS データコレクションを導入してからは、国勢調査の人口と地図のポリゴンの区切りがしっかりそろえられていたので、これらの課題を意識することなく将来推計人口や患者数の推計をすることが可能になった。

次に、ArcGIS Network Analyst と ArcGIS データコレクション道路網を使用して、各町丁字から医療機関までの自動車による移動時間の解析を行った。これを基に、各町丁字の開始点から1時間以内で到達できる病院数と病床数を集計した。集計結果を利用して、推計患者を病床数のシェアに基づき各病院に配分した(図 1)。この分析について、過去の入院受療率(人口に対する入院医療を受ける人の割合)のトレンドに基づいた複数のシナリオを立て、シミュレーションを行った。シミュレーションの結果を基に、各病院の病床数に対して配分された患者数の割合である「配分率」を計算し、将来病床が足りなくなる地域や、患者の配分が少なく、病院の経営が厳しくなると想定される地域などを ArcGIS for Desktop 上に表示した。

導入成果

ArcGIS Network Analyst と ArcGIS データコレクションを使用することにより、医療機関へのアクセス性の解析と各病院の過不足病床数の解析が可能となった。成果は以下のとおりである。

医療機関へのアクセス性の解析結果

最寄りの病院までの自動車による移動時間を、全国地図上に表示した(図 2)。大半の地域が1時間以内で病院に到達できるが、離島や内陸の山間部では自動車以外の交通機関が必要となる地域もあった。

図2 最寄りの病院までの移動時間(離島を含む)
図2 最寄りの病院までの移動時間(離島を含む)

各病院の過不足病床数の解析結果

各病院の配分率を地図上に表示した(図 3)。人口の多い都市部において病床の不足が予測される地域が出現することや、過疎地では配分率が低くなり病院の経営が厳しくなる地域が出現することも予測された。また、同じ都道府県内でも病床の過不足に偏りが出る傾向が見られた。

図 3 各病院の配分率(入院受療率のトレンドに基づいた推計)
図 3 各病院の配分率(入院受療率のトレンドに基づいた推計)

今後の展望

今回は国勢調査人口を基にした患者数の推計値を利用して、地域医療の状況を可視化する研究を紹介した。現在は、医療・介護レセプト等のデータを用いた分析を進めており、実際に患者がどの施設へ行ったかという実績データに基づく評価を行っていく。

「今後は、これらの分析結果を自治体等に提供し、自治体の政策立案を支援していきたい」と土井助教は語った。財政規模によっては独力で分析することが厳しい自治体もあり、大学を始めとする教育研究機関でこのような分析業務を支援し、資料を提供できるような枠組みを作って行くことが今後の展望である。

プロフィール


千葉大学 医学部附属病院 地域医療連携部 助教
土井 俊祐 氏



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掲載日

  • 2017年3月17日

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