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事例

日本国内で培われたGIS教育のノウハウを世界へ広げる

酪農学園大学 環境共生学類 環境GIS研究室

 

地域に生息する動植物の種類・個体数に関する科学的データの収集と自然資源への正しい知識と管理スキルを持つ人材育成への取組み

概要

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小学校での環境教育

酪農学園大学 環境共生学類 環境GIS研究室では、GISとリモートセンシング技術を用いて北海道の自然環境の解析を行っている。主な取組みには、北海道の広大な土地における林業や農業の効率化に向けた研究がある。空撮写真を基にした農作物の育成状況の解析や釧路湿原の保全、食害が深刻化しているエゾシカの行動調査で実績を上げている。 これらの研究から得た知見を活かし、2つのプロジェクトに取組む。1つは2011年に開始されたJICA課題別研修「森林リモートセンシング」、もう一つは今回紹介する2012年に始まったマレーシア ボルネオ島サバ州におけるJICA草の根技術協力事業「キナバタンガン川下流域の生物多様性保全のための住民参加型村おこしプロジェクト」である。 マレーシア ボルネオ島での事業は、サバ州にあるパトゥプティ村の住民とともに、GISやリモートセンシングといった先端技術の活用と持続可能な生物多様性保全に関する方策を検討するというものである。 本事業は、酪農学園大学他、旭山動物園、コンサベーションインターナショナル、EnVision環境保全事務所、ESRIジャパン株式会社が協定を結び、産官学民が連携して実施した取組みである。

背景

マレーシア ボルネオ島サバ州は、北海道とほぼ同じ面積を持ち、オランウータンやボルネオゾウが生息する世界で最も生物多様性に富んだ地域である。一方で、ここはマレーシアの最貧困地帯でもある。生計を立てるための森林伐採をはじめ、アブラヤシプランテーションの開発増加を原因とした生物多様性の低下や、水質汚濁など生活環境の悪化が問題となっている。 これらの悪循環を取り払うには、地域に生息する動植物の種類や個体数の科学的データの収集をはじめ、地域の自然資源に対する正しい知識と管理スキルを持つ人材の育成が必要であった。

導入手法

「キナバタンガン川下流域の生物多様性保全のための住民参加型村おこしプロジェクト」は、植林やエコツーリズムを行う地域住民設立の協同組合であるKOPEL(コペル)を日本の専門家が技術支援する形で進められた。生物多様性に配慮した持続可能な生計活動の確立を目指し、周辺地域の自然環境の調査からGIS活用セミナーまで、KOPEL内に6つのユニットを新設し、地域住民の手による環境保全実施に向けた活動が行われた。 活動では、まず、土地利用や動植物の生息状況を把握するための調査が行われた。調査で得たGISデータはデータベース化され、地図上に可視化することで実態の解明が図られた。 6つのユニット ①野生動物モニタリング ②水質モニタリング ③データベース ④環境教育 ⑤キャパシティデベロップメント (能力開発) ⑥地域産品開発 活動内容や実施手順、スケジュール等はユニットごとに決定された。日本でのプロジェクトマネージャーである酪農学園大学 金子教授をはじめとした専門家とは随時連絡を取り、必要に応じて助言を求められる体制が構築された。

成果

住民参加型の環境モニタリング

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植林により回復しつつある森林

本システムの運用を開始した9月1日の防災の日に、首都直下地震を想定した「国土交通省地震防災訓練」で使用された。表形式だった被害報を地図上で見ることができ、各種の被害情報等を同じ画面上で集約して見られるようになり、被害の概要をつかみやすいとのことで、好評であった。また、9月9日から11日にかけて発生した関東・東北豪雨による災害では、ヘリサット画像、通行止め情報などを掲載し、様々な機関から、「実際に活用した」、「ぜひ使いたい」など、反響があり、活用の度合いが広がったようだ。

野生動物モニタリング

地域に生息する野生動物を把握するため、目録の作成が行われた。生息動物の把握は、自動撮影装置を利用した。KOPELがエコツーリズムに利用している地域、植樹をした地域、希少種の出現が期待される地域をそれぞれ数か所選定し、自動撮影装置を1か月程度にわたって設置して、画像や動画を収集している。今後は、地点ごとに記録された動物種を整理し、ArcGIS Onlineおよびストーリー マップを利用して分布図を作成する予定である。 また、対象地域周辺のWorld View-2衛星による高解像度の画像を入手し、これまでに調査した野生動物および水質調査の結果の見える化を実施した。

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ゾウと接触する危険な地域

今後の展望

環境保全や地域住民を巻き込んだ人材育成は、KOPELをはじめとした様々な機関が協力して進めている。しかし、GISを活用した保全活動の継続には、衛星画像の取得や調査結果の入力作業を定期的に実施していくことが必要である。野生動物や水質のモニタリング活動と併せ、データベースへのデータの追加を習慣化し、いつでも最新のデータで活動、分析が実施できる環境を整えることが重要である。 本事業を通して構築したデータベースは、今後の野生動物や植生の保全に役立てるとともに、サバ州森林局や野生生物局との連携により価値あるデータベースとして発展させていく予定だ。 「キナバタンガン川下流域の生物多様性保全のための住民参加型村おこしプロジェクト」は2016年で終了となるが、引き続き、環境保全活動および教育活動は継続される。 金子教授が取組む自然環境保全とは、動物、植物、そして社会を守る方法の構築である。GISは、データベースの構築やデータの可視化の面において大きな役割を果たしているのである。

プロフィール

金子 正美 教授(右)と環境GIS研究室の皆さん

金子 正美 教授(右)と環境GIS研究室の皆さん



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資料

掲載日

  • 2016年7月15日