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『聞き書きマップ』を用いた通学路の安全点検地図の作成

科学警察研究所

 

『聞き書きマップ』を使った「安全点検まちあるき」

概要

『聞き書きマップ』とは

『聞き書きマップ』は、国の研究機関である科学警察研究所犯罪行動科学部(原田 豊 部長)が 自主防犯活動などを行っている方々のために開発した「まちあるき」記録作成支援ツールである。身近な地域の安全点検などのために行う「まちあるき」の記録を地図として手軽に作成することを目的に、GISソフトウェア「ArcGIS Explorer Desktop」のアドイン(機能追加プログラム)として開発された。

『聞き書きマップ』でできること

『聞き書きマップ』はその名のとおり、防犯まちあるきなどで気づいたことを現地で紙にメモするかわりに音声で録音しておき、後でそれを「聞き書き」してパソコンのデータにするためのソフトウェアである。
「聞き書き」した文字データを現地で撮影した写真や歩いた経路のデータとともに地図データの形で保存できるので、いつ・どこを歩いて、現地の状態がどうだったかを、誰にでも一目でわかる「まちあるき結果地図」として示すことができる(下図)。

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『聞き書きマップ』による安全点検まちあるきの地図化の手順
① GPS受信機で歩いた経路を記録 → ② 撮影時刻で撮影地点を自動判定
③ 撮影時刻で録音を頭出し → ④ 録音の内容を「聞き書き」

『聞き書きマップ』の使い方

『聞き書きマップ』は、① GPS受信機、② ICレコーダー、 ③ デジタルカメラという、「3つの小道具」と組み合わせて使う。
防犯まちあるきなどを行うとき、『聞き書きマップ』を入れたパソコンを持って歩く必要はない。現地に持って行くのは、前記の「3つの小道具」だけで、スイッチ類の操作も出発するときにGPS受信機とデジタル録音機を ON にし、戻ってきたときにそれらを OFF にするだけである。
まちあるきの最中に行うことは、何かに気づいたとき、デジタルカメラでそれを撮影しながら、(紙にメモするかわりに)気づいた内容を言葉で「つぶやく」ことだけで済む。『聞き書きマップ』を使うのは、まちあるきから戻ってきた後で、室内で現地で声として録音した言葉を「聞き書き」する。
この作業を効率よく行うために、『聞き書きマップ』では、画面上で写真を選ぶと、その写真の撮影時刻まで、録音が自動的にジャンプする。つまり、現地でシャッターを切りながら「つぶやいた」内容を、非常に簡単に「頭出し」できる。
このように、写真の撮影時刻を使って、長時間の録音の中から、聞きたい言葉を効率よく拾い出せるようにしたことが、『聞き書きマップ』の最大の特長である。

背景

文部科学省の調査によれば、児童生徒等に通学路の安全マップを作成させている小学校・中学校等の割合は、平成25年度の実績では 51.4%であり、平成 23年度の 85.1%から大幅に低下しているという(文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課2015)。この結果を踏まえ、同課では、通学路の安全マップの作成及び活用をさらに促進するよう求めている。
学校教育現場においてこうした安全マップの作成や活用を継続的に行うためには、従来の地図づくりに伴いがちな大きな作業負担を抜本的に軽減するとともに、作成した地図の保存や再利用など、有効活用の手法を確立する必要があった。そこで、原田部長を発起人とした予防犯罪学推進協議会では、『聞き書きマップ』を学校教育現場での安全点検マップづくりに活用する方策について検討を重ねてきた。

導入手法

『聞き書きマップ』の開発にあたって、特に重要視したのは、次の3点である。
(1)安上がりであること(特に維持経費がかからないこと)
(2)現場の省力化に役立つこと
(3)これまでの地図づくりのやり方を、なるべく変えないこと
『聞き書きマップ』は、柔軟な拡張性を持つソフトウェア「ArcGIS Explorer Desktop」をベースに開発した。導入や維持のコストを極力抑えるため、市販の安価なデジタルカメラや GPS受信機、ICレコーダーなどを、いわば寄せ集めて使う設計とした。また、地理空間情報技術に関する知識や経験の乏しい人でも扱える簡便性と実用性をもつツール開発を目指した。さらに、「操作性向上のための新機能の実装」「運用手順の見直し」などの改善を重ね、学校現場での持続的活用を図る工夫を凝らした。

導入効果

作業負担と維持経費の軽減

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『聞き書きマップ』の導入によって、安全点検マップづくりを大幅に省力化できる。実際、首都圏のA県の教育庁が主催した、教師向け研修の機会にアンケート調査を行ったところ、「これまでの地図作りよりも手間が省ける」に「そう思う」との回答が約7割、「子供の事故や被害防止に役に立つ」「通学路の安全点検に役に立つ」に「そう思う」「ややそう思う」との回答の合計が9割を超えるなどの結果となった。
導入後の維持経費がほとんどかからないことも、『聞き書きマップ』の大きな特長の1つである。最初に前記の「3つの小道具」を用意すれば、その後に必要となる費用は、これらの充電のための数ミリアンペアの電気代だけである。このため、防犯ボランティアや学校のPTAなどの「草の根」の活動の現場でも、無理なく持続的に活用することができる。

柔軟な運用

これらの現場で「現に行われている」地図づくりのやり方に沿った柔軟な運用ができることも特筆に値する。まもなく完成予定の『聞き書きマップ』の「バージョン3」では、まちあるきした経路・写真の撮影地点を示した地図と、それらの写真や録音から書き起こしたメモをカード型にした一覧を、簡単な操作でプリントアウトできるようになる。これらを使えば、これまでの地図づくりとほとんど同じように、参加者全員で話し合いながら手仕事で安全点検マップを仕上げていくことができ、従来型の地図づくりから『聞き書きマップ』を用いた実施方法へのスムーズな移行が可能になる。

成果

学会が認めた科学性

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『聞き書きマップ』は、平成23年の初公開以来、さまざまな現場での試験運用と、その経験を踏まえた改良を重ね、学術性と実用性とを兼ね備えた安全点検マップづくりの新たな手法として注目されている。2015年10月には、『地理情報システム学会』第24回学術研究発表大会での報告「『聞き書きマップ』を用いた通学路の安全点検地図の作成」が、同学会の「ポスターセッション賞」を受賞した。

文部科学省のモデル事業に採用

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さまざまな実践の場への実装も始まっている。平成27年度からは、『聞き書きマップ』を使った小学校の通学路の安全点検マップづくりが、文部科学省による「防災教育を中心とした実践的安全教育総合支援事業」のモデル事業の一つとしてスタートした。モデル校となった小学校では、4年生の社会科の授業に『聞き書きマップ』による安全点検活動を組み入れ、「3つの小道具」を使ったフィールドワーク、パソコンへのデータの取り込み、プリントアウトした地図を使った安全点検マップ作りなどを約80人の児童全員が体験学習した。

さまざまな分野での応用

全国防犯協会連合会では、「次世代防犯ボランティアリーダー育成事業」の一環として、平成27年度から『聞き書きマップ』による安全点検マップづくり研修を開始した。初年度は6月の第1回研修と12月の第2回研修とを合わせて25の都道府県の防犯協会から70余名が参加し、各県1台のノートパソコンへの『聞き書きマップ』のインストールから、まちあるきの実施、地図の仕上げ、結果の発表までを丸1日の研修で完了した。
さらに、防犯以外の分野への応用の試みとして、(一財)衛星測位利用推進センター・金沢工業大学との共同で、ボランティア観光ガイドによる地域の「お宝」情報案内を『聞き書きマップ』でデータ化し、それを多言語対応化して発信する取り組みにも着手した。平成27年9月に金沢市で最初のまちあるきを実施し、その結果は同年11月の「SPACシンポジウム2015」で発表されている。

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今後の展望

さらなる利用促進

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『聞き書きマップ』は、「予防犯罪学推進協議会」が運営するWebサイト(http://www.skre.jp)で公開されている。ただし、現在このサイトで公開中の「バージョン2.1.3」は、2014年6月にリリースされたもので、その後の改良が反映されていない。これに替わる「バージョン3」がすでにほぼ完成しており、遠からずリリースできる見通しである。この新バージョンは、『聞き書きマップ』によるまちあるき用品を1つにまとめた「まちあるきセット」に同梱して発売する予定であり、これによって、『聞き書きマップ』が、誰でも「袋から出してすぐ使える」ようになるはずである。

また、これを自治体などに消耗品として購入してもらい、それらを防犯ボランティアなどに貸与してもらうことができれば、「エンドユーザーには無償」で『聞き書きマップ』を現場に届けることも十分可能であろう。

全国展開

今後は、『聞き書きマップ』の良さをさらに広くアピールし、全国展開をはかることが課題である。前記の文部科学省のモデル事業も、全国防犯協会連合会の研修も、平成28年度にも継続されることが決まっている。これらのチャネルを通して、全国の学校の「通学路の安全点検」や、自主防犯活動の一環としての「安全点検地図づくり」のために、『聞き書きマップ』が日常的に使われるようになることを願っている。

GIS 教育の普及

平成28年度から施行される 新たな学習指導要領では、子どもたちが自らの実践体験を通じて学ぶ「アクティブラーニング」の手法が導入される予定であり、また、高等学校で地理が必修科目となり、その一環としてGIS教育も取り入れられるとのことである。これらの新たな学びを支援するツールとしても『聞き書きマップ』は有効であろう。ぜひこの機をとらえて、わが国の学校教育のなかでのGISの裾野の拡大につなげたいと考えている。

準天頂衛星システムへの対応

将来は、2010年代後半に予定されている準天頂衛星システムへの対応をめざしている。汎用性の高い「ArcGIS Explorer Desktop」を採用したことは、その一つの布石ともなっている。
近い将来、準天頂衛星システム対応の安価なGPS受信機が開発されれば、このインフラの恩恵を、「草の根」レベルの市民活動にまで及ぼすことが可能になる。また、『聞き書きマップ』は、音声認識などの高度な処理を行わないので、外国語バージョンを作ることも容易だと考えられる。これにより、準天頂衛星システムがカバーするアジア太平洋圏で、広く活用されることも夢ではない。

さらなる飛躍を目指して

『聞き書きマップ』は、元来、自主防犯活動の支援を目的に開発された、地味でシンプルなソフトウェアである。しかし、さまざまな現場での試験運用を通じて、多様なフィールドワークのための汎用的データ収集・入力システムとして大きく成長してきた。「今後、『聞き書きマップ』の潜在力をさらに開花させ、これまで衛星測位やGISなどと無縁だった分野にこれらの最新技術の恩恵を届ける一助ともなれるよう、微力を尽くしたい。」と原田部長は語った。

プロフィール


犯罪行動科学部 原田 豊 部長


科学警察研究所 犯罪行動科学部
〒277-0882 千葉県柏市柏の葉6-3-1
問合せ先 原田 豊 部長
http://www.skre.jp/


関連業種

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掲載日

  • 2016年1月21日

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