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事例

ベトナム農村の住民の空間リテラシーの向上に向けて

鳥取大学・大阪市立大学・フエ大学・ダナン大学・ノンラム大学

 

農村住民の人々に正確な地図の重要性を理解してもらうために

課題

導入効果

 

概要

ベトナム農村の住民によるコミュニティに関する課題の把握に必要な空間リテラシーの向上を目指して、日本とベトナムの大学との共同プロジェクトが立ち上がった。本プロジェクトでは、メンタルマップGISというWeb GISベースのアプリケーションを開発し、住民に簡単なゲームを行ってもらった。その結果、住民は「地域情報を共有するためには、正確な地図が必要である」ことを理解することができた。地図インフラや地図教育が発展途上の国々で、今後本アプリケーションが活用されることを期待している。

 

背景

近年目覚ましい経済発展を遂げるベトナム。若年層を中心にスマートフォンが普及し、地図アプリケーションが利用されている。しかしながら、地形図が一般の人にとって容易に入手できない農村部では空間コンテンツの整備が進んでいないなどの事情により、特に農村部では空間情報の活用が進んでいない状況である。このような現状をふまえて、鳥取大学の筒井一伸准教授はトヨタ財団研究助成プログラムの助成金を得て、日本とベトナムの大学との共同研究プロジェクトを立ち上げた。

本プロジェクトでは、正確な地図、つまり地形図等と手書き地図を用いた簡単なゲームを住民に行ってもらった。手書き地図は、人それぞれに頭の中で描いた地図をもとにするため、メンタルマップと呼ばれる。また、人それぞれにランドマークと呼ばれる自分にとって重要な地点が存在する。しかし、人はそれぞれ空間認知が異なり、地域の情報に対して共通認識を持つためには、正確な地図が必要である。メンタルマップ上でのランドマークに対応する場所を正確な地図(地形図や航空写真)上で探すことにより、その重要性を農村の住民に理解してもらう目的でアプリケーションの開発を行った。

 

導入手法

本プロジェクトでは、筒井准教授が研究代表者として本プロジェクトを統括し、木村義成准教授(大阪市立大学)と長澤良太教授(鳥取大学)がベトナムの空間データ整備やシステム開発を担当、そしてベトナムのフエ大学、ダナン大学、ノンラム大学の研究者が、ベトナム国内の各機関との調整やシステム開発の助言・運用の役割を担った。また、システム開発にあたって、ESRIジャパンのコンサルティングサービスを利用した。

本プロジェクトでは、2012年度にベトナム中部クアンナム省のビンライン行政村、ビンクイ行政村、ソンビエン行政村の住民に各行政村について手書き地図を描いてもらった。これらの手書き地図から、各住民のランドマークを抽出した。ベトナム農村でのインターネット事情を考慮して、イントラネットとして動作する簡易なWebGISを構築した。ArcGIS for Desktopにて空間データの加工やGISサービスの構築を行い、ArcGIS for Serverにて各クライアントへのGISサービスを配信できるシステムを構築した。また、住民の方々が楽しんで操作してもらえるようにJavaScriptにより簡便なゲームが実施できるインターフェースを開発した。

 

メンタルマップのインターフェース
図1:メンタルマップのインターフェース
(ピンク色、赤色のポイントが、それぞれ正確な地図、および手書き地図上のランドマークを示す。
なお、ゲーム中はそれぞれの地図を拡大しないとランドマークは表示されない)

本システムは、図1のように、2つの地図が表示される。左側の地図は、正確な地図を示し、ベトナムの1/50,000地形図や、衛星・航空写真がレイヤとして表示される。右側の地図は、住民が描いた手書き地図(メンタルマップ)が表示される。初めてGISに触れる人でも数分のレクチャーで操作できるように、レイヤの表示/非表示、個別属性表示、メンタルマップの切り替えなど本アプリケーションでは最小限の機能の実装に留めた。

 

導入効果

2014年3月に、前述した3つの行政村でワークショップを実施した(図2)。このワークショップには行政職員や小中学校教員が参加し、地図に関するレクチャー、メンタルマップGISによるゲーム、紙地図によるディスカッションを実施した。ワークショップ終了後に住民からメンタルマップGISに対するフィードバックを得た。

ワークショップの様子
図2:ワークショップの様子

ワークショップでは、行政村ごとに5名分のメンタルマップをレイヤとして登録し、メンタルマップごとに3つのランドマークを準備した。つまり、行政村ごとに合計15ヶ所のランドマークを探すゲームを実施した。その後、参加者からメンタルマップGISに対する感想を収集した。その結果、「操作が容易なシステムである」、「電子地図を用いることで地元の人々が位置を特定しやすい」、「地図上の境界線が不明瞭である」、「楽しさとやりがいがある地図を追加すべき」、「地図を使用した地域情報の整理に役立てたい」などの意見が出た。また、このワークショップにおいて、本システムの改善点を把握することができた。「本システムにより、地域の情報を共有し、住民自らが地域課題について考える際に、地図というプラットフォームが重要であると認識して頂いたと思います。つまり、自分達のコミュニティを理解するために、地形図や航空写真などの地図は便利なツールであると理解して頂けたと思います」と、筒井准教授は述べた。

 

まとめ

本プロジェクトでは、ベトナムの農村住民に対して、手書き地図と正確な地図を用いた簡単なWebGISアプリケーションを提供することで、地域コミュニティの情報を認識し共有するために、正確な地図の活用が必要であると理解してもらうことができた。本プロジェクトで開発したメンタルマップGISは、ベトナムでの試験運用段階であるが、このアプリケーションは、地図インフラや地図教育が発展途上の国々への適用や、日本の小中学生などへの空間リテラシー教育にも利用が期待される。

 

※本プロジェクトは、トヨタ財団研究助成プログラム「社会の新たな価値の創出をめざす研究」(研究題目:ヴェトナム農村における住民参加型WebGISの構築と「コミュニティ課題の空間的見える化」に関する研究)により実施された。

 

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掲載日

  • 2015年8月19日