事例 > 海洋空間情報を活用し漁場予測や水産資源の管理を実現

事例

海洋空間情報を活用し漁場予測や水産資源の管理を実現

北海道大学大学院水産科学研究院

 

陸から海へ。広がるGISの活用

課題

導入効果

 

概要

北海道函館市は、南を津軽海峡、東を太平洋、北を内浦湾に囲まれ、昔から自然的・地理的・歴史的要因により漁業が盛んな地域だ。これまで漁業は、海の天気や潮の流れ、さらには魚群の所在など漁師の長年の経験と勘で、行われてきた。

北海道大学大学院 水産科学研究院 海洋生物資源科学専攻 衛星資源計測学研究室では、人工衛星が観測した海流や海水温などのデータをもとに、海の天気予報と漁獲が多く見込めそうな漁場の位置情報を漁業者に配信するための研究を行っている。

人工衛星による情報の配信は、漁船に搭載する魚群探知機とは異なり、魚の居場所を直接計測するものではない。過去の統計データに基づいてどの潮目に魚群がいるかを計算、予測し、ディスプレイ上に海図画像として表示させている。これにより漁業者は魚群探知機で計測するよりもはるかに広い海域で、より高い漁獲高を見込める場所に船を向けることが可能になる。

本情報サービスは、海上でも受信することができ、迅速に漁場を移動していくことも可能となる。これまで陸だけで考えられていたGIS(地理情報システム)が、陸を超えて海洋でも利用されるようになった。

 

導入経緯

北海道大学では、2000年4月1日に大学院水産科学研究院が創設され、資源計測学講座に衛星資源計測学分野が発足した。資源計測学では、宇宙からの海洋観測である衛星リモートセンシング(Remote Sensing)と、計測魚群探知機や光音響探査などの水中リモートセンシング、さらに定量生物採集装置によるダイレクトセンシングなどを組み合わせた、生物生産環境と生物資源の多次元(3次元、4次元)計測に関する新しい分野の開拓を目指している。地球の3分の2を占める海洋を調査し、研究するためには、従来の船舶観測に加え、ブイによる観測や衛星による広範囲の観測が不可欠になっている。本研究室では、海を知る手段として衛星リモートセンシングを中心に水産・海洋の教育・研究を進めている。

 

解析手法

研究室では、人工衛星や新たに開発するユビキタスブイ(海洋観測ブイよりも容易にかつ安価に導入が可能)から得られる海面水温、海流、塩分濃度、溶存酸素量等の情報を複合的に活用することで最適な生育環境を分析・予測し、水産資源の管理に役立てる取り組みを行っている。これは、主に海の仕事に従事する人のためにコンピュータや携帯電話を使って海の情報を提供できるように研究を進めている。

本プロジェクトの流れ

  1. 海を見る目
    海洋探査衛星と呼ばれる海専用の衛星を使い、宇宙からの目として休むことなく海面水温や、海の生物にとって重要である植物プランクトン濃度などの海の環境を観測している。
  2. 海の温度計
    函館の沿岸海域では、ホタテや昆布の養殖が盛んに行われている。これらの海の生物は水温に非常に敏感である。順調な育成を図り、最適な収穫の時期を知るには水温が重要になってくる。 海の温度計であるユビキタスブイは、海面から海底までの水温を計ってメールで知らせてくれる。それにより多くの地点の水温情報が集まり、詳しく海の様子を知ることができる。
  3. 情報を使う
    海洋探査衛星からのデータ、ユビキタス ブイによる水温のデータといった情報があっても漁業者が簡単に使えなければ意味がない。研究室では、漁業者が情報を利用しやすいように水産海洋GIS システムを開発した。この水産海洋GISシステムは、宇宙の目、海の温度計を使って集めた情報をまとめてわかりやすく地図上に表示し、船に搭載したり、携帯電話からアクセスしたりできる。
  4. 海の天気予報
    これらの道具をうまく連動させて、海の状況を予測するシステムを「ユビキタス海洋環境予測システム」と呼んでいる。海の状況を予測することで、魚群の場所がわかったり、美味しくて栄養たっぷりのホタテや昆布を収穫できるようになる。海での仕事の効率を上げるために、誰もが海の環境を知ることができる「海の天気予報」システムを作ることができる。

 

スルメイカ漁場予測図
スルメイカ漁場予測図その後
スルメイカ漁業予測図

 

成果

海洋環境予測システムには、海洋環境情報表示、漁獲量報告、操業情報表示などの機能がある。漁業者は、漁獲量報告にアクセスし位置情報データとともに漁獲情報を入力する。データはリアルタイムで格納され、操業情報表示画面から、どこでどの位の漁獲高があったかを確認することができる。また、同システムは東日本大震災の復旧・復興支援にも活用されている。東日本大震災で甚大な被害を受けた三陸海岸や福島第一原発20km圏内を含む東北地方の沿岸部分をカバーしており、震災前後の航空写真の閲覧が可能だ。灯台や航路境界などのデータも表示可能で、震災後の普及の様子、海洋の安全、放射能や海洋環境のモニタリングに利用されている。

 

今後の展望

日々蓄積した漁獲量データは、今の予測モデルに反映することでビッグデータとして活用できるのではないかと研究室を率いる齋藤教授は考える。当初アカイカに絞ってデータの収集を行っていたが、今ではサンマ、カツオ、ビンナガマグロなどについても同様の研究を始めている。GISを利用した海洋情報の管理、解析、可視化は、海洋環境計測・予測、海洋資源管理、船舶運航管理の分野で利用が進む。今後は、水産海洋GISシステムを用いてデータを蓄積し、海洋空間情報を活用した沿岸生物相・水圏環境の健全化と高次活用を行っていく予定だ。

 

プロフィール


衛星資源計測学研究室の皆さん



関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2015年7月23日