社会医療法人愛仁会は2014年で創立56年になる医療、介護、福祉のトータルヘルスケアをめざす法人である。1958年に誕生した愛仁会は一診療所からスタートし、現在の高度急性期病院から慢性期医療、在宅ケア、介護・福祉まで、そして、医師・看護師をはじめとする医療・介護職種の養成をおこなうヘルスケア組織に発展している。
医療業界を取り巻く環境の変化、スピード感が求められる経営現場のニーズに対応するためBI(Business Intelligence)ツールとGISを連携させたマーケティング活動を開始した。今やGISは経営判断や効果的なプロモーション施策の実行になくてはならない武器となっている。
創立して56年が経ち、愛仁会を支えた草創期の医師も引退し、世代交代が進んでいる。従来は、地域のことは現場の医師が把握できていたが、世代や施設、活動エリアも大きく複雑に変化し、法人全体の意思決定プロセスにおいて、大量のデータから必要な情報を迅速に整理・分析するツールが必要不可欠となってきた。
愛仁会では施設長が集まる会議、役員会議等様々な会議の場があり、施設の数が増えるにつれ会議資料の枚数が増え、資料を作成する手間とコストも大きな負担となってきていた。立場や物の見方が異なる参加者が、資料論点の把握に時間がかかり、協議中の資料も探しづらいとの声もあがってきた。
そこでまず、BIツールを活用することで大量のデータから必要な情報を整理して提供することを実施した。会議出席者全員が同じ資料を閲覧しながら協議し、タイムリーに状況把握し考えることができるようになった。また、わかりやすさを重視して、試験的にBIツールとGISを連携させた診療圏分析を実施したところ、地図はイメージに残りやすく会議でもっとも関心の高い結果が出たため導入を進めることになった。
2013年秋にまずEsri Business Analyst を導入、グループ内の経営情報をITを活用して分析する部門である医療情報部にてGIS分析がスタートした。
さらに、分析したマップをグループ内で共有、またBIツールと連携するためにArcGIS for Serverを導入し、BI画面から多忙な医師・職員が分析マップを簡単に閲覧できる環境を構築した。構築はBI システムでも実績豊富な株式会社NSソリューションズ関西が担当した。
データベースに蓄積された愛仁会グループの主要病院のデータをもとに地図上で患者がどこに居住しているかを可視化。さらに人口当たりの受療率を計算して地図化、患者紹介元の医療機関、地域の診療所情報もシステムに取り込んだ。これでマーケティングツールとして活用する準備は整った。
GIS導入後、会議での参加者の食いつきが目に見えて変わってきた。今までは数字だけで表現されていたものに地図というイメージできるものが加わりパッと見てわかりやすいものになり、意思決定のスピードが向上した。資料作りに充てていた時間も大幅に削減され、その時間を分析と次のアクションに充てられるようになった。統計データを地図と重ね合わせて見ることで、どこから患者が来ているか、人口データ等から地域特性も見えてきた。経験と勘と度胸でだいたいこんなもの、と思っていた頃と比べ、地域ごとにどう戦略を練るか、本部としてどう統括するか、肌感覚と異なるエリアをピンポイントで見つけ、その地域に応じたアクションがとれるようになった。また、地域の診療所にアプローチする地域連携にも活用し始めている。
BIとGISの連携という新たな武器を得て、情報分析は高度化した。群雄割拠のエリア、イニシアチブをとれるエリア、他法人と連携していくエリア、それぞれ戦略が異なるため、地域ごとの分析モデルの構築を行い、できあがったモデルはグループ内で垂直統合・水平展開していく予定である。
また、超高齢化社会の中で、今後は病院だけでなく医療と介護がいかに連携していくか、その地域にどのような人達が住んでいて、どんな介護事業者がいるか、自法人がどれだけ展開できているか、地域毎のビジネスチャンスを把握しないといけないと考えている。
医療と介護の2つの軸で、GISを活用して分析していく予定であり、患者に満足していただく最高の医療を提供する環境を作るためにBIとGISの活用は今後の愛仁会グループにおいてなくてはならないものとなっている。