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災害時の状況把握におけるGISの役割

米国Esri社

 

災害時の状況把握におけるGISの役割

東北地方太平洋沖地震について、科学者たちによるGISを使った研究が進められています。これらの研究結果は、今後数年間に渡り、随時発表されていくと思われます。

自然災害・人的災害に関わらず、災害には場所と時間が大きく関わります。したがって、GISや空間データ、地理構造を用いることで、災害について深く理解する事が可能になります。科学者たちがモデルや仮説の検証を行うのとは別に、一般の人達も、ウェブ上でGISマップを表示しArcGISを用いて分析することにより、地理空間的な観点から正しく物事を見ることができるのです。

Web上で表示可能なマップの種類は日に日に増加しています。Esri社は、ArcGIS Serverを使ったソーシャルメディアマップを運営し、エジプトの暴動、メキシコ湾の原油流出事件、そしてハイチ、チリ、ニュージーランド、日本で起きた地震など、過去18ヶ月間に起こった出来事をカバーしています。

図1の地図は、東北地方太平洋沖地震および前震と余震を表示したもので、アメリカ地質調査所(United States Geological Survey、USGS)提供のデータを基に作成されました。この図は震度分布図だけでなく、Twitterや Mixi、YouTubeなどのリンクも含み、現地にいる人々からのリアルタイムの投稿により現場状況を知るための媒体として活用されています。 当然ながら、データ利用者は投稿元の信ぴょう性を吟味する必要がありますが、一般市民の情報提供によって出来上がったこのデータセットは、危険要素を把握する手段としてだけでなく、人命に関わる救助活動を調整する貴重な手段として認められつつあります。

図1.東北地方太平洋沖地震の震源地に加え、震災、津波、原子力発電所事故関連のソーシャルメディア情報(Ushahidi、YouTube、Twitter、Flickr)を表示した地図

またEsri社は、地殻変動によって日本列島がどう動いたかを示す「日本列島移動マップ(How Japan Shifted map)」をWeb上で公開しました。これはNASAのジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory、JPL)から入手したデータを使用して作成されました。このマップには、マグニチュード5.0以上の余震の場所を時系列に表示する、タイムスライダという再生ツールもついています。また、「津波マップ(Tsunami Movement map)」では、太平洋上の津波の動きをモデリングしています。これは太平洋災害センター(The Pacific Disaster Center、PDC)によって作られ、三陸沖で発生したマグニチュード9.0の地震によって引き起こされた津波が太平洋上をどのように移動するかを予測したものです。

ArcGIS Onlineのマップとアプリケーション

ArcGIS Onlineには、東北地方で発生した地震などの事例を分析するためのマップセットやアプリケーションが含まれています。「latest earthquakes (最近発生した地震)」、あるいは「recent earthquakes near Japan (日本近郊で起きた地震)」と検索すると、検索結果として震源地群が表示されるウェブマップが出てきます。マップ上の震源地を表す各ポイントをクリックすると、ポップアップ画面が表示され、場所、マグニチュード、時間、震源の深さなどの情報を見ることができます。このポップアップ画面にはズーム ボタンも搭載されていて、クリック一つでその場所にズームして、震源地を詳細に確認することができます。

図2.ArcGIS Onlineを使い、東北地方で発生した地震群を表示したマップ。オンライン環境があれば、誰でも標準のウェブブラウザを使って個々の地震をクリックし、詳細を見ることができる

図3.QuakeFeed というアプリを使い、日本近郊で発生した地震の震源地を表した画像。大地震が発生した一週間後にスマートフォンを使って表示したもの

このような空間解析機能は、携帯端末でも利用できるようになってきています。QuakeFeedはiPhone上で使用可能なArtisan Global社のアプリです。このアプリを使い、世界中どこからでも一覧表作成や地図作成、最新の地震状況についての検索などを行うことが可能です。図3は、大震災発生の一週間後にスマートフォンを使って入手したデータを元に作成された日本付近の震源地分布図です。また、USGS保有のサイト上にある最新の地震データを使えば、震源地群や津波、環境への影響についての調査を簡単に始めることもできます。

このサイト上のデータは、USGSのオンライン マップ上で表示し、空間的に分析することができます。より詳細に調べたい場合は、データをテキストファイルとして保存したものをArcGISに取り込み、位置情報を持つマップに落とし込むことにより解析することが可能です。地震の分布状況をプレートの境界線と比較することにより、プレートの境界から一定の距離内で発生した地震の数を測定することができます。これらのプレート境界線は、マップ レイヤーとしてArcGIS Onlineで公開されています。

人口データもまた、レイヤーパッケージ又はマップサービスとして追加する事が可能です。ArcGIS Online上の「ESRI_Population_World」を使い、海岸線から10km以内に住む人やマグニチュード9.0の震源地から100km以内に住む人の数を測定することができます。 地震群の地理的中心の算出や分布指向性の分析は、ArcGISの「空間統計」ツールボックスで行うことが可能です。

図4.2001年に発生した地震と2011年3月9日から11日にかけて発生した地震をArcGISで比較した図。3月11日に発生した地震のマグニチュードは桁外れに大きかったものの、この地域における地震自体は珍しくないという事がわかる。同じようにデータを見てみると、周辺地域のプレート境界線が日本を中心としてXの文字を描くように存在することもわかる

2011年3月9日から11日の3日間に、本震を含めて165もの地震が本州の東側沿岸で発生しました。ここで疑問となるのは、この地震群が過去に同じ地域で発生した地震活動と比べて稀有な地震であるかどうかということです。これは3日間に発生した地震のパターンを、ある年に発生した全ての地震と比較することで検証可能です。2001年に東アジア一帯で発生した23,581件の地震と比較してみると、今回の地震群は特別珍しいものには見えません。マグニチュード9.0という地震はUSGSが保有する過去の地震データから見て4番目に大きな地震であるものの、地震は本州の東沿岸沖で頻繁に発生する傾向があるのがわかります。地震データをマップ上に表示すると、X字型に連なった地震群の中心が本州と重なることが見て取れます。くさび形のプレートが北に延び、地震活動の盛んなカムチャツカ半島の下まで達していることもわかります。ツールとデータを使って更に詳しく分析することもできますが、上記の事例は、ある事柄を時間的、空間的に理解するためにGISを効果的に使うことが出来るということを示しています。

GISを使って空間的な観点を持つことにより、私たちは自然災害を深く理解することができます。それにより、地震のような自然災害の危険度を一人一人がより深く認知し、災害に備えることに繋がります。各種機関においても、GISを活用する事により、有時の際助けを必要とする人々のために最適な対応をとることが可能になります。この膨大なデータとGISツールをどう使うかは使う人次第なのです。

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掲載日

  • 2011年5月9日