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事例

新潟中越地震の斜面変動分布図の作成

独立行政法人防災科学技術研究所

 

各種用途に利用できる新潟県中越地震の斜面変動分布図をGISデータベースで作成

「空中写真の判読」、「判読結果の地形学的解釈」、「GISによる入力」、分布図作成の全工程に専門家の知識がつぎ込まれた高精度データベース

斜面変動分布図

NIED-1斜面変動分布図のイメージ

防災科学技術研究所では、2004年に発生した新潟県中越地震の「斜面変動分布図」の作成が進められている。分布図作成は、地震発生からの2年聞に渡って、2名の技術者による分担作業で進められてきたが、いま完成に近づきつつある。

「空中写真判読」、「判読結果の地形学的解釈」、「データ入力」といったデータ作成の全工程が、専門家の手作業で進められている。「精度管理」を最重要視して構築された高晶質なデータベースは、2006年度内の印刷図の一般公開を目指して整備中だ。印刷図の公開以降にはシェープファイルでの公開も予定されている。地すべり、土砂災害、防災などを専門とする研究者だけでなく、現場で実務にあたる消防、土木関係者などからも既に引合いがあるとのこと。本分布図はGISで作成されているため、様々な分野の研究や業務で活用も可能であり、いわば社会的「財産」と言うべき成果物だ。

新潟県申越地震の斜面被害

2004年10月23日、新潟県中越地方を中心に発生した地震では、旧山古志村(現長岡市)などの震源に近い中山間地域において、強い揺れによる「地すべり」や「土砂崩れ」などの斜面変動が発生し、それに伴う個人資産、社会基盤などへの被害も多数発生した。

この斜面変動は、空間的にはほとんど全てが旧山古志村を中心とする15×30kmの範囲で発生している。また、履歴的には、地すべりについてみると、過去の地すべり変動によって生じた地形の場所で発生している。これは「地すべり地形分布図データベース」(防災科学技術研究所作成。ArcGIS事例集Vol.lで紹介)と重ね合わせて比較することで明確に分かる。

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「中越地震は、地すべり等の斜面変動に関して言えば、現在ある高度な計測技術、データ管理技術を利用して、デジタル形式で記録を残せるようになってから、もっとも規模が大きく、広域的な被害を発生させた地震です」と内山研究員。また、「研究的には、社会基盤などに被害を及ぼすような現象の発生により新しい知見が得られて研究が進むという矛盾をはらんだ領域です」とも。つまり、人工実験が不可能な自然現象では、地震や台風などの自然災害の発生時に、現象を記録することがきわめて重要なのだ。どういった場所で、どのような動きが生じたかを、刻銘に記録可能なGISデータベースが果たす役割はきわめて大きい。

この例で明らかにされているように、地すべり地形分布図データベースが整備されていたことで、同じ場所で繰り返し発生している事実を客観的に把握できたのだ。同様に、中越地震の斜面変動分布図データベースも、今後の研究や実務に役立つ情報を提供可能な、利用価値が高い、貴重なデータベースである。

このデータベースはどのように作成されたのであるうか?

空中写真判読

新潟県中越地震の本震発生の翌日(2004年10月24日)に撮影された航空写真(国際航業株式会社撮影)をステレオ実体視し、斜面変動箇所の判読が行われた。判読は、大八木規夫氏(財団法人深田地質研究所)が担当し、2004年10月から約1年間で作業を完了した。判読では斜面変動域および、「表層」、「浅層」、「深層」といったすべり面の深さも同時に読み取り、その結果を、縮尺1/5,000のAlサイズの図面上にペンで書き込む作業が行われた。この図面は、データ入力時の原図として利用されるが、他データとの位置合わせを考慮して、図面としてオルソ補正済みの航空写真と等高線が重なって印刷されたものを利用した。

GISデータベースの構築

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データを入力する内山氏

データ入力は内山氏が担当する。判読結果が書き込まれたAlサイズの原図をスキャナーで画像化し、地図座標系と関連イ寸けするためのワールドファイルを作成する。さらに原図に書き込まれている等高線と、ArcViewで表示した別の等高線の位置を一致させる位置補正を行う。必要があればPhotoshop等の画像処理ソフトを利用し画像の歪補正を施レた。縮尺1/5,000の印刷図を目標とするため、正確性維持に欠かせない作業だ。

データ入力は、ArcViewで背景に表示された原図に従い、1つ1つ入力する。「けっして機械的な作業で行うことはできません。追っかけ判読と呼んでいますが、紙に書かれた線の意味を考え、地形学的な見地から解釈し、不明点があれば判読者の大八木氏と協議をし、確認しながら入力しています」と内山氏。このようにして入力されたポリゴンの数は7,000を超える。

また、GISでの利用を考慮し、特にデータの精度管理には気を使ったという。「本来GIS利用者はデータの精度を評価してから処理などの利用を進めるべきではありますが、GISの普及期である現在にそれを求めるのは難しい点もあります。その一方でGISは、簡易な操作で集計などの処理ができてしまう現実もあります。つまり、データ作成者が精度を軽視したデータを構築してしまうと、その影響が多方面に及んでしまう可能性があり、結果としてデータやGISの信頼性にも影響がでてしまう」と内山氏。

今後の展開と課題

今回のプロジェクトの目標であった1/5,000の精度の印刷図を作成できるようなデータベース構築はほぼ実現できたが、このデータベースを早期に利用したい声にどう応えるか。データの精度と信頼性を維持しながら、いかに提供時期を早めるかを今後の課題として挙げられた。

今後、本データベースは研究を中心に活用が見込まれる。中越地震で多く発生した規模が小さく、すぺり面が浅い斜面変動のパターンなどの体系的な説明が十分にされていない現象の解明には、崩落物の体積や震央との位置関係などが基礎情報として必要になる。GISデータベースはその要求を満たすことができる。その他、現場のさまざまな業務でのニーズも見込まれており、活用が期待される。

プロフィール


大八木規夫氏(左)
内山庄一郎氏(右)



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掲載日

  • 2007年1月1日

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