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事例

地域にねざした空間情報協働プラットフォームの構築

横浜国立大学 大学院環境情報研究院

 

横浜国立大学では、知的情報基盤として「協働による持続可能な流域圏実現のための空間情報協働プラットホームの構築とその活用」の研究を行っている。

研究背景

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近年私達を取り巻く環境は、地球温暖化、森林伐採や大気汚染などの環境破壊、情報化・グローバライゼーション・技術イノベーションなどによる社会の急激な変化、飢餓と貧困、エネルギー・資源問題、地震・台風などの自然災害など複雑で解決に困難な課題に直面している。横浜国立大学大学院環境情報研究院・学府では、これらの問題を解決・改善でき、持続可能なマネンジメント能力を有する人材の育成に力を入れている。

人工環境と情報部門 佐土原・吉田研究室では、これまでに安心・安全で環境負荷の少ない持続可能な都市の実現に向けた研究を行ってきた。同研究室では、これを更に応用し、より汎用性のある研究としてGISを基盤とした持続可能な流域圏実現のための空間情報協働プラットホームの基盤づくりを行っている。

空間情報協働プラットホームの作成は、「知的情報基盤」の構築をも指す。「知的情報基盤」とは、環境問題などの地域に関わる課題を解決するために、異なる分野の研究者が同じ対象地域に関して、分野を超えて各自が持っている知見を出し合い共通認識をもち、互いに知的な刺激を与え合いながら、新たな知見を創出、蓄積・共有して、知的能力を向上させることを言う。空間情報プラットホームの作成として、コンピューターに知識・知見を構造化し、さまざまなデータ・情報をデータベースに格納し運営する。

「知的情報基盤」の具体的な実践として、水利用のネットワークで結ばれた富士山から東京湾までの神奈川拡大流域圏を対象に空間情報協働プラットホームを構築することになった。

プラットホームの構成

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神奈川県拡大流域圏空間情報協働プラットホームを構築するにあたり、流域の事象に関する情報を時空間座標軸として結合し、それをGISサーバーに格納する。それらを随時可視化して取り出せるような空間情報協働プラットホームを作成する。また、流域圏に存在する大量・正確・迅速なデータを作成するために、どのようなデータが必要か、またそれらのデータを使って自治体や市民がどのように使えるかを定義するのが重要であった。

それらのデータは、GISサーバに位置情報を検索項目として多くの流域情報、例えば、テキスト、画像、図表、動画などを格納し、それを自由に取り出しながら人々が協議検討できるようにしなければならなかった。ただし、大気と地下水を含む水の循環は立体であり移動するのでシミュレータを援用した。位置情報を持つ流域の地下水質構造立体モデルや大気・水のシミュレータも作成した。それらの結果もGISデータに置き換え、可視化し、格納した。これにより検討対象情報の範囲を拡張することができた。

これらの格納情報群はクリアリング・システムで管理・検索され、WebGISの機能でインターネットのアクセスも可能となる。

このように空間情報協働プラットホームは、複雑な地域環境の状態を構造化されたバーチャルな情報の集積として格納・管理し、格納されている情報を人々の要求に応じて時間・空間的に可視化して取り出し、分析し、結果を提示する機能を持つことになる。同プラットホームによって、短時間で密度の高い情報を提供し、情報共有の促進をするとともに、参加している人々のコミュニケーションを活性化し、各自の持つ力を十分に発揮させ、新しい知見を創出し合意形式を図る場を提供することができる。

特徴

プラットホームのデータベースを作成するには、各流域情報のモジュールのレイヤーを時空間情報で座標付けを行いGISを中心とした空間情報にする必要がある。

人間活動は主に地表面で行われており、それは自ら周辺の物理的、社会的状況に規定される。これらを「地圏」・「水圏』・「気圏」・「生物圏」・「人間圏」の5つの要素に整理することができる。これらの基盤情報は、座標軸を持ったデジタル・データとしてプラットホームに整備格納される。

しかし、「生物圏」、「人間圏」の事象は二次元のGISデータとして比較的処理が可能であるが、「地圏」、「水圏」、「気圏」は、立体三次元である上、「生物圏」、「人間圏」は速い速度で動いているので、GISのみの処理では不十分である。そこで、今回のプラットホームではグラフィック・ソフトの地下3Dモデルとそれに基づく地表・地下水一体のシミュレーション、並びに気象・大気モデルによる大気循環シミュレーションを重ね合わせて空間解析処理をし、その結果を空間解析することにした。

これらのデータを二次元GISデータに変換して5圏情報を重ね合わせ空間解析をする。GISを基盤としているこの空間情報プラットホームは、地下の見えない地盤や地質構造を可視化し、この地質構造と降雨情報、人間の水の利用等の情報をふまえた水循環シミュレータにより、見えない水の動きを解明、可視化できるようになった。

このように作成されたデータは、GIS・シミュレータ等の時空間座標軸で結合された基盤情報となりGISサーバーに格納され、テキスト・図表・画像等のデータもメタ・データ化されクリアリング・システムで管理される。プラットホームの実態はコンピューターに格納された統合化された管理可能なデジタル情報の集合体であり、GISシステムをベスとしたデータベースと言える

この空間情報協働プラットホームは、コアとなるGISサーバーに位置情報をインデックスとしそれぞれの情報をGIS化し格納している。これにより以下のことが可能になる。

その他、流域の課題を可視化して比較検討することで、流域でどのように水循環・水環境が管理され、どのような理由でそれぞれの水質管理が形成され、それがどのような社会経済的な意味を持つかなどを解明することが容易になる。特に流域地下構造や表流水・地下水の循環、大気による雨や物質運搬、流域の水利用構造や人口・経済動向等を研究者協働による検討をへて受け渡されることで情報の信頼性を強化でき、多主体協働の質も確保し高めていくことができる。

今後の活動

空間情報開プラットホームを具体的に構築し活用することにより、流域圏において国連ミレニアム生態系評価で採用された概念的枠組みを援用し、人間の福利をもたらす生態系サービス、および生態系と、直接変化要因、間接変化要因の関連性を定量的に明らかにし、生物多様性の保全による生態系サービスの多面的な機能を保全・回復するための科学的な知見、それをマネンジメン卜につなげるための政策などの対応の方向性について具体的に論じることができるようになる。また、利用者は、可視化された異分野の情報が時空間情報で統合されることで相互理解が促進され、情報共有を基とした知的協働が実現することになる。

これらプラットホームの利用は、研究者間のみで行われるだけではなく今後はさらにデータを構築し、行政や住民間の利用の期待も膨らむと考える。

プロフィール


佐土原 聡 教授



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資料

掲載日

  • 2009年1月1日