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事例

野生動物を活かしたエコツーリズムで過疎化に悩む地域を活性化

長岡技術科学大学

 

野生動物学を通して考える社会・環境問題

過疎化に悩む限界集落。野生動物の保護と地域活性化を両立させる取り組み

はじめに

長岡技術科学大学 山本麻希助教は、新潟県における力ワウの個体群管理と被害防除に関する研究、粟島に生息するオオミズナギドリの繁殖生態についての研究を行っている。

このうち、後者のオオミズナギトリについての研究では、鳥の調査だけではなく、鳥の特性を利用して地域活性化計画を模索するという大きな課題にも取り組んでおり、その活動を紹介する。

粟島におけるオオミズナギドリ

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写真提供:国立植地研究所 高橋 晃 准教授

オオミズナギトリは、日本近海でもっとも良く観測される海鳥で、3月から11月にかけて繁殖の為日本近海で過ごしている。

新潟の北部沖合に浮かぶ粟島は周囲約20Kmの小さな島。粟島のオオミズナギトリは、1970年代に約1,000羽が確認された後、島の一部が繁殖地として天然記念物に指定・保護され、現在では中規模繁殖地に位置づけられるまで生息数を増やしてきでいる。

粟島での生息数の調査は1990年以降全く行われておらず、正確な数が把握されていなかったため、現在、山本助教が中心となり、GISを利用した巣穴の分布調査が行なわれている。

調査では、調査区域内の巣穴の位置情報をGPSで取得するほか、周辺の植生、斜面の角度などのデータを取り、これらをGIS上で管理している。また、各巣穴に雛が存在するかの確認も行われており、その結果から、特定エリアでの巣穴の密度や巣穴利用率を計測し、生息数を推定するという。
これまでの調査の結果では、繁殖コロニーは、島の天然記念物に指定されている地域から北側へ拡大傾向にある事がわかった。推定される個体数も7万~12万羽と、順調に増加している事がわかる。

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オオミズナギトリを理解して地域活性化へ

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粟島の人口は400名弱。高齢化・過疎化が大きな問題となっている。そんな島の活性化にむけて、山本助教はオオミズナギトリの特性を活かしたエコツーリズムを提案している。

通常、野生動物が人間と共存したり、野生動物を確実に観察できる例は少ない。まして、動物に悪影響を与える事なく人聞が近づける例はさらに少ない。しかし、オオミズナギドリはこれら常識をすべて覆す事の出来るきわめて稀な野生動物であり、島の新たな観光資源として注目している。

オオミズナギ卜リの親鳥は日中、雛を巣に残して餌をとりに出かける習性のため、日中は親鳥にストレスを与える事なく雛に触れる事ができる。また、親鳥自体も人間への警戒心が低く、上手に付き合えば、夜間は親鳥も真近で観察する事ができるという。

天然記念物に指定されたエリア外でも繁殖が確認されている今、知識を持ったツアーガイド同行の元、オオミズナギトリを観察するエコツアーは実現可能な時期に来た。

オオミズナギトリが島の観光の目玉として定着すれば、ツアーガイドの雇用や、観光客層の多様化、観光シーズンの長期化が期待でき、地域の活性化につながるだろう。

島民の理解を求めて

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今後の地域活性化にも繋がるオオミズナギドリだが、それを守るためにも、まずは島民がオオミズナギトリを正しく理解し、魅力を感じて守る努力をしなければならない。

島のオオミズナギドリを脅かしているのは、人間が持ち込んだ猫だ。放し飼いの猫が遊び半分で雛をかみ殺してしまうケースが増えている。調査期間中も、首のない雛の死骸が多数見つかった。
親鳥が1年に1羽しか育てない鳥の為、一度個体数が減少するとそれを回復させるのは難しいという。個体数を減少させない為の努力は必要不可欠となる。

島民にオオミズナギトリを知ってもらい、その価値を理解してもらえるよう、講演会の開催や、フィールド調査を模擬体験するエコツーリズム型環境教育プログラムも実施された。

実際に島民による保護意識は高まっており、街灯の明かりで迷子になる雛を減らせるよう、自動販売機の明かりを暗めに設定するなど、自発的な保護活動が行われるようになってきたという。

「100年後もオオミズナギトリが舞う粟島でありますように」と講演会を締めくくる山本助教の言葉が印象的だ。動物の生態系を崩さない人間の努力あってこその観光資源だという事を忘れてはならない。

動物の生態学的性質を利用した人間と野生動物の関り方として、山本助教の別の活動を紹介する。

その他の取り組み~カワウの駆除対策~

新潟県内では、力ワウによる採餌被害が深刻化している。銃器による親鳥の駆除や巣の撤去作業は行われているが、一時的な個体数の減少にとどまっている。繁殖コロニーで、の駆除は、繁殖地の分散という結果をもたらし、結果として生息域・個体数の拡大に繋がっているのが現状だ。

動物学的観点から山本助教は、餌場となる川を徹底管理する事で餌の供給を減らし、個体数を減少させる方法を検討している。これまでの失敗に学び、動物の生物学的特性を理解した上での新しい駆除対策を模索している。

県内の漁業関係者から入手した被害状況や力ワウの分布状況は、これからGISで管理される予定だ。GISを利用する事で情報は視覚化され、分布被害拡大の傾向が見えてくるという。できるだけリアルタイムに情報を収集・管理することが、今後の被害防除策を考えてゆく上でとても重要となるだろう。

その他の取り組み~若手の育成~

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長岡技術科学大学が行う高大連携事業の一つ「高校生講座」にて、山本助教は「野生動物学を通して環境問題を考える」というテーマで高校生を受け入れている。

野生動物による鳥獣被害やその対策法、生物保全に関する基礎的な講義を行うと共に、GPSで動植物の位置を取得しGIS上に展開させるというフィールド調査を模擬体験させている。若い世代に生物学の面白さ、野生動物への関心を深めてもらうのが目的だ。

プロフィール


山本 麻希 助教、白井 正樹 氏



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資料

掲載日

  • 2009年1月1日