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事例

新潟市の都市自然災害の研究

新潟大学

 

足を使ったデータ収集・作成をモットーに!
新潟市街地の総合危険度を判定

いつ発生するか分からない自然災害に備えて、GISで総合危険度判定結果をビジュアル化!

  

新潟平野

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空中写真を判読してデジタル化した新潟平野
地形分類図に国土地理院発行の数値地図
50mメッシュで標高を与え、ArcSceneで
3D表示したものをスケッチ・塗色した。

新潟平野は新潟県中部から北部にかけて広がる北陸地方最大の平野である。大部分が水田単作地帯で、コシヒカリの収穫量が多く、日本有数の穀倉地帯として知られている。しかし、かつては田植えや稲刈りをするにも胸まで泥水に浸からなければならないほどの湿地帯で、「地図にない湖、芦沼」と呼ばれていた。加えて、融雪や梅雨の時期にはしばしば洪水に見舞われ、開発が至難な地域であった。このような新潟平野の地形的な枠組みは、約2500年前の弥生時代の寒冷期に、強い季節風の影響でできた海岸砂丘が日本海と内湾とを画したことに始まる。その古新潟湾ともいうべき内湾には、信濃川や阿賀野川などの大河が注ぎ、扇状地のほか、氾濫原・三角州などのきわめて平坦な地形が形成していた。

  

新潟平野の開発と水害

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2004年の7・13水害の浸水域をジオリファレンスして
エディターでポリゴン化し、当該領域周辺の
地形分類図に重ね合わせた図。
浸水域が後背低地と旧潟湖の位置に一致することが
明らか。すなわち、このときの洪水はかつての
地形形成の場面を再現したにすぎないといえる。

新潟平野の開発は江戸中期の17世紀後期から本格化し、1922(大正11)年大河津分水通水を経て、1975(昭和50)年福島潟干拓で完成した。「芦沼」での過酷な労働を強いられてきた農民の悲願は、およそ300年という星霜を経て達成されたのである。しかし、干拓されたとはいえもとの地形的特徴が改変されたわけではなく、海抜0m以下の地域を含む平坦な土地はそのままである。そのため1896(明治26)年の「横田切れ」と呼ばれている信濃川などの大氾濫や1967(昭和42)年の羽越水害など、洪水が幾度となく起こっている。先ごろの2004年7月13日、日雨量400mmを超す集中豪雨のため、刈谷田川や五十嵐Jllの堤防が決壊して洪水がおこり、大きな被害が出た。卯田研究室では、浸水した箇所をベクターデータにデジタル化し、地形分類図のレイヤーと重ねて、解析を行った。その結果、洪水は信濃川のつくった氾濫原の後背低地や旧湖沼・沼沢地で起こったことが明らかになった。

  

GPSデータによる地図生成

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作業フロー

新潟平野と山地・丘陵との境には数多くの活断層が存在している。とくに「新潟平野西縁断層」は最も規模が大きいばかりか、もし活動すれば新潟市をはじめ平野の人口密集地に直接被害を及ぼす可能性があることが指摘されている。最近、新潟平野周辺では2004年10月23日中越地震や2007年7月16日中越沖地震と大規模な災害を起した地震が頻発していることもあり、起こりうる地震の被害想定や危険度を予測することが必要とされている。卯田研究室では阪神淡路大震災をはじめ、新潟県北部地震など新潟県下で起こった地震の被害調査を行ってきたが、そうした結果を反映して、現在は新潟駅を中心とする市街地をターゲットにして、都市災害という観点から総合的な地震危険度判定のための調査・解析を行っている。

GISの特徴の1つは、ポイント・ポリライン・ポリゴンのベクトル・データを地球座標系に位置づけ、Layer by layerに論理演算でさることである。これはカテゴリーの異なる条件を複合的に扱う災害研究などには最も有効な方法といえる。市街地の地震危険度の場合には、地震の起こる条件、建築物の材料強度や構造、その専有面積率と街区条件(道路幅員、ブロック塀など)、地盤の地質構成と強度(N値)などが判定基準の対象となる。これらはこれまで個々別々に取り扱われ、総合的な判断はされてこなかった。
この研究では、対象エリアのベクトル・データ化、危険度闇値の設定、オーバーレイ解析、フィールド演算など、下記のフローに従って総合的な危険度判定を行った。

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建物種別の分布

「本研究において、様々な要素から危険度の高い地域、低い地域を判定することができました。これらの結果が、今後防災マップの作成などに生かされていけばよいと考えています。ただ、自然災害による被害は、建物や道路の破壊、火災などによる直接的被害だけではありません。直接的被害の他に、生活の支障や経済活動の停滞などの間接的被害が時代とともに増大していると言われています。都市機能の高度化やネットワーク化が進むにつれて、間接的被害の連鎖がますます複雑で広範囲になってきているのが現実です。地震をはじめとする災害はいつ起こるか分かりません。自然現象を止めることはできませんが、災害の低減や防止は可能です。我々は、災害というテーマで研究をしていますが、一番大事なことはそれぞれが考え、行動し、災害のときに被害を最小限にすることです。安全なところにいる人は動かない、逃げてきた人達を受け入れる、などその時々の状況に迅速に対応できる判断力とコミュニティの力が災害時には一番重要ですね。」と卯田講師。

  

これからの取組み

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総合危険度の判定結果

「私はコンビュータ暦30年ですが、GIS暦はここl年半ほどです。ESRIジャパンさんが大学支援プログラムを募集していることを中央グループさんから聞いて、応募・採用されたのが始まりです。それまではGISを使ったことはありませんでした。GISは水害や地震で使えるのはないかと思っていたら、想像通り様々な解析ができて結構はまっています。
現在、私の研究室の学生は、全員GISを使っています。自然科学分野では地図は必須ですからね。GISに関して、敢えて私が胸を張って言えることがあるとすれば、データは全てオリジナルで作っていることです。今回の研究では、新潟市街地の約13、000軒の建物データが必要だったのですが、学生がフィールド調査に出て、全てデータ化しました。学生は相当大変だったと思います。しかし、GISは自分でデータを作ることに一番の意義があると思っていますので学生にとっても良い経験になっているのではないでしょうか。これからどんどんGISを使って、私自身のGISキャリアを磨いていく予定です。」と卯田講師は、これからの抱負を明るく語ってくれた。

プロフィール


卯田研究室のメンバー
(中央写真下段中央が卯田講師)



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資料

掲載日

  • 2008年1月1日