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事例

水稲精密農業における情報センターの構築

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構

 

ITを活用した新しい米づくりを目指し、日本農業の担い手を支援するための生産管理ツールを開発

精密農業(以下、PF: Precision Farming)におけるGIS活用が栽培技術を向上させる。ほ場毎の収量や作物の生育状況などを的確かつ詳細に把握することにより、環境負荷の低減、収量の安定、品質の向上及び生産コストの削減が可能となる。

情報センターの設置目的

生物系特定産業技術研究支援センター(以下、生研センター)では、2004年度からデータベースや地理情報システム(以下、GIS)等のITを駆使し、情報を集中的に蓄積・解析することにより、農業者の意思決定に有益な情報を引き出すことを可能にする一連のIT機器やソフトウェアから構成されるシステムである「情報センター」の開発に着手した。情報センターは、開発初期の段階から実際に利用してもらうことにより開発と改良に同時進行で取り組んできた。

情報センターの機能は、精密農業機器(以下、PF機器)から得られる情報や、従来から行われている一般作業の情報を効率的に取得、蓄積、さらには解析することによって営農を支援するシステムである。このシステムを実現するために、具体的には以下にあげる機能の装備を目的として開発を行った。

  1. 航空機による撮影画像や、既存のGISデータに基づいた当該地区の電子ほ場図を作成できること
  2. ほ場番号、作業名、作業者、作業機械、作業目、資材投入量、精密農業機器による測定データなどのテーブルと、電子ほ場図とをリンクするデータベース(以下、DB)を構築できること
  3. 市販のモバイルコンビュータで動作するGISソフトウェアを利用して、携帯式育成情報測定装置や収穫情報測定装置による測定値の取得を現場で行う機能を装備すること
  4. 作業名、作業者、作業機械、作業目、資材投入量などをモバイルGISもしくは事務所パソコンから入力してDB化するための作業日誌入力機能を装備すること
  5. 蓄積された情報の共有と公開のために、インターネットを介して情報入力や閲覧等を行うことが可能であること

情報センターのシステム構成

【全体構成】

情報センターは、システムの中心となるセンターサーパ、農業者が情報の入力や表示に利用する編集/閲覧クライアン卜、ほ場での情報取得等 を行うモバイル端末等から構成される。センターサーバと編集/閲覧クライアントが連携動作するクライアント・サーバシステム(以下、C/S)構成を基本とし、センターサーバと編集/閲覧クライアン卜聞の情報伝達はインターネットを介して行うシステムとなっている。このようなC/S構成は、農協や規模の大きな営農組織に、一式のセンターサーパを設置し、個々の農業者や作業者が自宅から情報を入力・閲覧する運用を想定して構築されたものである。一方で、センターサーバを設けない単独構成とすることも可能である。センターサーバには2種類あり、一つは、比較的高度な機能を備え情報の収集が可能な編集/閲覧用クライアントである。もう一つは、Webを介して情報公開を行うインターネットブラウザ上でJavaを利用するWebクライアン卜で情報の閲覧に利用される。

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情報センターの構成

【センターサーバ】

センターサーバでは、Windows2000Server上にESRI社のGISミドルウェアであるArcSDE及びArelMS、Apache2.0ウェブサーバ、Oracle社のDBソフトウェアを搭載している。DBには、ほ場、作業機、肥料、農薬等、約20個の基礎データテーブルが登録されており、電子ほ場図の背景図として利用する航空写真等も一括して管理することが可能である。後述する編集/閲覧クライアントは、具体的にはArcSOEに対して接続され、クライアントから得られるGIS、PF機器、作業履歴等はArcSDEがDBに蓄積可能な形へ変換しつつ入出力が行われ、DB上の基礎データによって分類、登録される仕組みになっている。ArelMSはDB上に登録されている地図データを適切な形式に変換し、インターネット経由でWebクライアン卜ヘ発信するために利用される。

【モバイル端末】

モバイル端末は、市販PDAに地理情報ソフトウェア(ESRI社ArcPad)を導入した携帯性に優れた端末であり、必要なカスタマイズが施されている。この端末は、編集/閲覧クライアン卜に接続することによって蓄積済みの情報を取得し、作業の進捗状況の確認、携帯式生育情報測定装置や収穫情報測定装置からの測定データの取得、作業日誌入力等を現場で行うことができる。
作物生育情報測定装置と収穫情報測定装置からの情報取得は、RS-232Cによるシリアル通信を利用して行われる。作物生育情報測定装置と収穫情報測定装置は、扱う情報の種類及び開発メーカが異なるために、それぞれ独自のプロトコルに従って通信を行う必要があるが、モバイル端末では、それぞれの機器に対応したヘルパーアプリケーションを利用することによって情報の取得を可能にしている。作業履歴の入力については、予め登録された作業種、機械、資材等をリストから選択する形で容易に行うことが可能である。PF機器からの情報取得及び一般作業の履歴入力のどちらの場合も端末の持つGIS機能によって、得られた情報をほ場毎に分類し蓄積することができる。モバイル端末に蓄積された情報は、一日の作業が完了した後に、同期用のソフトウェアを利用して編集/閲覧クライアントに転送される。

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モバイル端末とPF機器からのデータ取得

【クライアントソフトウェア】

クライアントソフトウェアとして、2種類を開発している。1つは、多機能な編集/閲覧クライアントで、情報センターのクライアントソフトウェアとして必要な機能の全てを備えたプログラムである。もう1つは、Webクライアントと呼ばれ、Webブラウザ上でJavaにより作成されたプログラムを利用するものである。Webクライアントには機能的な制約が多いが、ライセンスを別途用意する必要がないため導入コストを抑えられることや、特別なインストール作業が不要であることなど、導入が容易であるという利点を有する。
編集/閲覧クライアントは、農業者の事務所等で、日常的な業務に利用することを想定しているパソコンをベースとしたクライアント端末である。このクライアントへは、ESRI社ArcViewをベースに、モバイル端末からの情報取得、作業日誌の入力、得られた情報の電子ほ場図上への表示等に必要なカスタマイズを加えたソフトウェアを導入している。モバイル端末に蓄積された生育情報測定装置の測定値、収穫情報測定装置の収穫情報、作業履歴等の各データは、モバイル端末に付属する通信ソフトウェアのActiveSyncを利用して取り込むことができる。ActiveSyncは、クレードルと呼ばれるデータ通信と充電を行うための台座にモバイル端末を乗せると自動的に起動するため、利用者はGISソフトウェア上のボタンを1度クリックするだけでモバイル端末のデータの読み込みを完了することができる。取り込まれたデータは、GISソフトウェア内で整理し、統一された後、必要に応じてモバイル端末に返信される。

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左: 編集/閲覧クライアント 右: Webクライアン卜

今後の展開

農業における情報の活用をとりまく現状を見ると、平成18年度から農林水産省が主体となり水土里情報利活用促進事業の中で、全国の農地や水利施設に関するデータベースを都道府県単位で整備している。この事業により基礎データの整備が進み、本格的な運用が開始されると、情報センターの基本情報となるほ場に関する電子データが、安価に利用できるようになり、システムの導入時のコストが大幅に削減されることが期待できる。一方で、個人情報の保護など、情報の集積が進むにつれて配慮しなければならない課題も増えるものと思われる。今後は、このようなク状況を踏まえた上で、導入コストに見合ったアウトプットが得られるシステム構築を目指す。

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掲載日

  • 2008年1月1日