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事例

都市化によるヒートアイランド現象の対策にGISを活用

埼玉県環境科学国際センター

 

埼玉県でのヒートアイランド現象緩和への取り組み

埼玉県における環境科学の中核機関である埼玉県環境科学国際センター。
その研究対象であるヒートアイランド現象への対策として、クールアイランドの有効性を中心に議論し、緑地・河川保全、県民のライフスタイル変化等を当施設より発信していく。

組織・施設概要

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埼玉県環境科学国際センターは、研究分野別に組織構成がされており、その分野は多岐にわたる。また、横断的つながりもあり、特定課題におけるプ口ジェクトチーム設置のような、迅速かつ柔軟な試験研究体制が確保されている。さらには、これらを統轄する「研究企画室Jを設け、研究機能を有機的に連携させるとともに、外部研究機関との研究交流や国際貢献施策なども積極的に進めている。このように、本施設の役割は、環境科学の中核機関を担うことであり、その機能は、試験研究、環境学習、国際貢献、情報発信の4つである。

埼玉県の抱える問題

現在、埼玉県では、さまざまな環境問題が起こっているが、その一つとして、ヒートアイランド現象が挙げられる。ここでは、その問題の対策となりうるであろう、「都市緑地、河川のクールアイランド効果」の研究を紹介する。

ヒートアイランド現象の形成要因は、地表面被覆の人工化や冷房や自動車排熱、事業所排熱など人口排熱の増加によると考えられる。埼玉県においても、急速な都市化の進展により県南部の市街地を中心にヒートアイランド現象が顕在化しており、早急な対策が求められている。この様な状況にあって、市街地に残された社寺林や公園などの緑地や、河川や湖沼などの水域が都市を冷やす機能、すなわちクールアイランドとしての能力が注目されている。

そこで、県内の特に市街化が進展しヒートアイランド現象が顕在化している地域を対象に、地域内に残されているまとまった緑地について 、その熱環境を詳細に調査し、クールアイランドとしての機能をGISを用いて確認することにした。

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GISを用いての研究

クールアイランド機能の確認にあたっては、2007年7月~2007年9月の期聞に、2つの方法にて作業を行い、GISデータを作成した。

  1. 定点調査によるクールアイランド形成と滲み出し効果の確認
  2. 移動観測によるクールアイランド形成と滲み出し効果の確認

定点調査対象地は、1. 宮内庁埼玉鴨場、2. 別所沼公園、3. 大宮氷川神社・大宮公園、4. 久喜甘葉院とし、調査方法は、対象緑地内6~l0ヵ所に、温度データロガー入り百葉箱を設置、さらに周辺地域との温度差を把握するため、隣接する学校等の百葉箱にも同様に温度データロガーを設置した。また、移動観測対象地は、1. 宮内庁埼玉鴨場、2. 別所沼公園とし、自転車による気温の移動測定を実施した。通風型温度計とGPSを搭載した自転車2~4台で調査エリア内を走行し、温度情報と位置情報を同時に取得した。

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GISでの分析結果

1. 定点調査による緑地からの冷気滲み出し効果の確認

  

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7、8月の対象緑地内とその周辺の気温及びその差を分析した。いずれの対象緑地、期間でも、ほぼ全てのケースで緑地外が緑地内より気温が高く、最も頻度が多かったのは1~1.5℃の範囲であった。特に最高気温の差は全般に大きく、日中、緑地内外で気温に差が生じていると考えられた。

定点調査のデータをGIS上に入力し、8月の月平均気温からクリギング法による内挿を行い、緑地周辺の温度分布図を作成した。各緑地エリアの中心から遠ざかるに従い平均気温が上昇する傾向が認められた。また、明確な冷気の滲み出しを確認することは出来なかったが、一部の緑地では、緑地からやや離れた地点の気温が、緑地外の平均気温よりやや低くなり、冷気の滲み出しと思われる現象も認められた。

2. 移動観測による緑地からの冷気滲み出し効果の確認

  

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移動観測と緑地及び周辺定点の温度データから得られた、最高最低気温を分析した。最も温度差が大きいのは埼玉鴨場で、その差は約7℃であった。移動観測により得られた温度及び位置データと緑地内の定点観測データを基に、定点調査と同様クリギング法により内挿を行い、温度分布図を作成した。

別所沼公園では、公圏内の一部がクールスポットとなっていたが、全般にはクールアイランドと言えるような明瞭な冷却効果や、その滲み出し現象は確認できなかった。一方、埼玉鴨場は、いずれの調査も埼玉鴨場材育成内部とその脇を流れる元荒川に沿って周辺に比べ明らかに気温の低いクールアイランドの形成が確認された。

おわりに

ヒートアイランド現象は埼玉県だけでなく、地球規模の問題である。そのような状況で「今回の解析は、ArcViewがなければ出来なかった。ヒートアイランド現象は、東京のイメージがあるが、どちらかといえば過去のデータから、埼玉県の方が深刻である。今までの対策は十分ではなかったが、今回得られた結果や他の気象データなどを基に解析を行い、今後の対策に役立てていきたい。緑地、河川等の緑・水がある箇所は、クールアイランドとなるので、大切にしていくことを発信し、一人一人のライフスタイルに影響を与え、ヒートアイランドとなる要因をなくしていく努力を県レベルで行なっていくことが必要だ。」と嶋田研究員は語った。

さらに「最近は、GISの必要性が浸透しつつあり、県庁内での認知も広まってきているが、今後の課題としては、関連する保有データ共有である。また、住民参画でのWebGIS等を考えているが、表示、操作等を、遊び心のあるものとしたい。参加した人のモチベーションをさげることなく、それでいて面白いものとしたい。」とも語った。GISに対してのこだわりが感じられる一言だった。

プロフィール


自然環境グループ 嶋田 研究員



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資料

掲載日

  • 2008年1月1日