健全性を失った人工林というトピックから、山村地域の持続可能性を検討する。
近年、資源の枯渇や環境破壊が社会問題として取り上げられていますが、これらは大量生産・大量消費・大量廃棄にともなう私たちの生活に起因していると考えられます。このままでは、地球は持続可能性を失い、崩壊してしまいます。
一方で私たちの生活は、環境から様々な恩恵を受けており、資源を使わずに生活することはできません。人類にとって持続可能な社会を形成することは重要な課題となっています。
私たちの研究室では、「マテリアルフロー分析」という手法を用い、都市においてモノの流れから人間活動の環境への影響を分析し、持続可能性を評価してきました。
しかし最近では、大都市だけでなく農業や林業が盛んな山村地域においても、持続可能性が崩れてきています。そこで、このような山村地域の持続可能性についてもシステム的な考え方で取り組みはじめました。
私たちの研究室は、森林資源の豊かな和歌山県に位置しています。森林は一見美しく見えますが、林業後継者が劇的に減少し、手入れが行き届かなくなっているのが現状です。このような森林は、木材としての価値が低く、森林の公益的機能(水源かん養機能・土砂災害防止機能・大気保全機能・生物多様性機能等)も失われているため、大雨の時などは、土砂崩れが報告されています。また、流れ出た土砂が河川や海の環境を汚染し、広域の環境の悪化を引き起こす要因の一つとなっています。
このように、環境のサイクルの中の一つが崩れると他の部分にも悪影響を及ぼす可能性があります。
ここでご紹介する研究は、健全性を失っている人工林に着目し、健全性を取り戻すことから、山村地域の環境サイクルの改善を検討するものです。
和歌山県では人工林の衰退が顕著であり、その影響が土砂崩れや生態系の破壊、河川や海の汚染にまで広がっています。
さらに、近年では思わぬところにもその影響が広がってきています。
和歌山県は、林業と共に農業も盛んです。県を横断する紀ノ川流域では、柿の栽培が盛んですが、近年害虫による食害lこ悩まされています。
この害虫は人工林の球果を餌としているのですが、人工林が健全性を失い、十分な餌がなくなったため、果樹園に飛散し、果樹を食害するという悪循環が生じていることが分かってきています。
そこで、この悪循環が起こりやすい地理的な要因を把握するために、果樹園周辺の土地被覆分類図を作成し、果樹園と人工林との位置関係を把握し、さらに標高・斜面方向などの情報も加えて被害を受けやすい果樹園の特定を行っています。
また、このような悪循環を断つためには、根本的に人工林の健全性を取り戻すためのシステムを作る必要があります。
その一つのシナリオとして、人工林を資源として地域内で循環させることを検討しています。具体的には農業用ハウスの燃料として使用することを考えています。
まずは地域内の土地被覆分類図を作成し、人工林の資源量の把握を行っています。
一方でArcGISを使って林道やハウスの位置をプロットし、地理的な位置関係から、コストや収穫量の推計を行い、その実現可能性を検討しています。
今回ご紹介した研究は、森林管理一果樹園運営一都市社会を「システム的」に考慮しなければいけないものです。単純に森林だけを管理しても×、果樹園だけでも×、都市社会だけでも×です。バランスよく管理・運営してゆくことが将来ヘ社会をつなげる鍵になると考えています。
地域の自然環境と社会活動が上手くバランス出来るような持続可能な社会を作るために役立つ研究を今後も積極的に進めてゆきたいと考えています。