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事例

レバノン・ティール市における発掘調査

京都大学

 

発掘調査での情報の統合・共有・管理

発掘調査の現場では、遺構図・遺跡平面図・断面図・遺物・写真など様々な記録が発生する、これをGISデータ化し統合・共有・管理する。

調査概要

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レバノン共和国の首都ベイルートから南に約80Kmの場所にある古代都市ティール(スール)には、フェニキアからビザンチン時代にかけての遺跡が数多く残っている。1984年には、戦災の危機から保護するために、同都市の「シティー・サイト」と「アル・パス・サイト」の二つの遺跡地区がユネスコの世界遺産リストに記載された。ここで紹介する事例の対象地域、ティール市ラマリ地区は、ティールの市街地東方約3Kmにある丘陵地帯である。このラマリ地区には、ローマ時代からビザンチン時代にかけての地下墓が大量に存在している。

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本事例で紹介するのは、このティール市郊外のラマリ地区で行われた調査プロジェクトにおけるGIS研究の事例である。この調査プロジェクトは、京都大学の泉 拓良教授(当時は奈良大学に在籍)が中心となって行った二つの研究プロジェク卜、「特定領域研究(B)考古学における空間データの構築・管理・分析手法の開発とその適用」および「基盤研究(B)レバノン・ティール遺跡での縦穴墓・地下墓の発掘調査」で行われた調査プロジェク卜である。同調査プ口ジェクトでは、非常に多彩な分野を専門とする研究者が参加し、GIS分野では奈良大学の碓井 照子教授や同志社大学の藤本 悠氏(当時は奈良大学に在籍)らがGIS班として調査プ口ジェク卜に参加した。

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GISの利用

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GIS班が同調査プロジェク卜で関わったのは「GISを用いた考古学情報の管理手法の研究」であった。この調査プ口ジェクトでは、考古学班や保存科学班、計測班、地理班が取得、作成したデータや情報をどのように関連付けて整理していくかという問題点があった。そこで、GIS班は、発掘調査の過程で取得、作成された記録をUMLクラス図を用いてモデル化し、GISに実装し、体系的にデータ管理を行う手法の研究に取り組んだ。
統一モデリング言語(UML)とは、地理情報標準の地物定義や様々な分野で使用されているモデリング言語で、GISでは地物・属性の関連性の定義などを表すために使用されている。
発掘調査では、遺構図、遺跡平面図、断面図、写真といった膨大な記録が作成したが、実際に作成する記録を体系的に整理したり、最終的にどの記録がどのように変化して活用されるかを把握するのは困難であった。この事例の場合、さらに、これらの記録に加えて本来では含まれないような他分野の記録も膨大に含んでいた。このような、複雑かつ膨大に膨れ上がったデータを整理する場合に有効となるのが、UMLクラス図を用いたデータモデリングであった。UMLクラス図を用いて取得した記録を整理すると、調査プロセス全体における個々の記録の位置づけが明確になる。また、国際的な業界標準、「地理情報標準」のオブジェク卜部品を用いると、オブジェクト指向GISであるArcGISへの実装の可能性が見えてくる。
地理情報標準とは、地理空間情報を扱うための国際規格で、データの定義・構造・品質・記録方法などを共通のルールによって明確に仕様化することができる。
GISデータの収集では、収集時に属性の規定をし、運用時に規定した属性では収まらず拡張をおこなうなど明確な仕様を決定しないままプ口ジェク卜が運営される事も多い。しかし、このように明確な定義なくプロジェクトを進めると、ユニークな結合をおこなえるはずのデータが結合できなくなるなど問題が生じる可能性がある。本事例では、このような問題を解決・予防し、さらに管理利用をおこなうことを本事例では考慮した。

  

今後の展開

もともと、考古学という学聞は、空間的な側面を扱うことが多い学問である。最近では、トータルステーションや写真による測量や、レーザープロファイラ等による計測、GPSによる測位、などが発掘調査の場に登場することも増えた。また、ArcGISをはじめとするGISソフトウェアの飛躍的な普及や、ユーザビリティの向上によって、考古学研究における空間分析も見かけることも増えた。しかし、コンピュータを用いて膨大な量の記録を扱えるようになるということは、その一方で膨大な量の記録を体系的に管理し、相互に利用できるようなデータ基盤が重要となる。本事例で取り上げた研究は、地理情報標準を考古学分野で取り入れているなど将来的に非常に重要となる研究であり、先進性の高い研究である。
この調査プロジェクトが終了した後も、GIS班による研究は継続的に行われていて、現在ではUMLクラス図によって記述したモデルのArcGISへの実装研究の段階へと至っている。今後、この事例で取り上げたGIS班の研究がどのように発展するか、注目していきたい。

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掲載日

  • 2008年1月1日

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