これまで、ユニバーサルサービスとして提供されてきた郵政事業。このたびの郵政民営化によりどう変わっていくのか。GISによる定量的分析は将来の郵便局の在り方を示唆している。
2005年10月の郵政民営化関連法案の成立から2年、小泉元首相が改革の本丸として位置づけてきた郵政民営化により、2007年10月1日に「郵便局会社」、「郵便事業会社」、「郵便貯金銀行」、「郵便保険会社」と「日本郵政会社」に分割された。
この民営化により郵政135年の長い歴史の中での大きな改革の1ページを刻むこととなった。民営化に伴い我々の生活の中で最も身近な公共機関であった郵便局は、公の手を離れ、「郵便局会社」に属することになる。民営化後の郵便局は「郵便事業会社」、「郵便貯金銀行」、「郵便保険会社」の3社から業務を受託し、今までと同様に利用することができる。さらに民営化によって、今まであった規制がなくなることで自由な創意工夫が行われ、様々な商品・サービスが提供されることが期待される。
他方で郵政民営化は、全国どこでも同じサービスが享受できる、郵政事業のユニバーサルサービスとしての側面を失いかねない不安を抱えている。施行規則案では「ー市町村に一以上の郵便局』、「交通、地理その他の事情を勘案して地域住民が容易に利用できる位置に設置されていること」を郵便局設置基準として定めてはいるが、郵便局会社の業務開始以降の郵便局ネットワーク維持については特に言及されていない。今後の展開を示唆する上でも郵便局の現況分析は非常に重要となる研究である。
青山学院大学経済学部の高橋朋ー准教授は郵便局を主な研究対象として、GISを用いて配置の空間分析を行っている。これまで郵便局の配置を定量的に分析した研究は存在せず、マクロ的な視点に立った分析がGISを用いることで初めて実現した。
2004年には島根県、2006年iこは日本全国を分析対象エリアとして、郵便局の配置についてArcGISを用いてバッファ分析を行った。バッファポリゴンの半径を変化させ、各エリア内の人口カバー率を算出した。また、ArclnfoのErase機能を利用することで、本研究で用いている「差分バッファ」の分析を実現できた点がESRI社のArcGISを採用する大きなきっかけとなった。
この研究で民間金融機関との比較において高齢者の人口カバー率を検証した結果、郵便局のほうがより高齢者に適した配置であることが結論付けられた。
また最新の研究では郵便局と民間金融機関において、1店舗でカバーできる面積の割合と1店舗でカバーできる人口の両側面から地域聞における格差の分析を行っている。この研究では事前に求めたジ二係数から特徴的なエリアを抽出し、そのエリアについてボロノイ分割により各店舗のカバーする面積を求め、面積按分法を用いて1店舗当たりのカバー人口から地域聞の格差を空間的に分析し、その実態を明らかにした。
郵便局のデータは日本郵政公社提供のものを、民間金融機関については全国銀行協会発行の『金融機関・店舗情報CD-ROM』を利用した。これらのデータは住所で提供されているため緯度経度座標への変換が重要な作業となる。まず国土交通省の街区レベル位置参照情報ダウンロードサービスを利用し、変換できなかった住所については東京大学空間情報センターのCSVアドレスマッチングサービスでの変換を試みた。それでも変換できなかった住所データは全体の10%(約3000件)ほど存在した。残りのデータは手作業での照合を行った。2年目以降は前年のデータとの差分を取り、変更のあるものだけを更新していくことで新たなデータを作成することができた。
人口のデータは500mのメッシュデータを用いたが、日本全国となると約100万ものデータとなる。これらのデータとArcGISのデータを処理するためのソフトをMicrosoft Visual C++を用いて作成し、作業を進めた。ArcGISの作業で、は全国を13のエリアに分けて処理をし、これらの結果を合成することで全国のデータを作成した。
今後、民営化のプロセスが進んでいく中で既存の郵便局の配置について臨見直しが行われていく公算が高くなるであろう。郵便局といっても普通郵便局、特定郵便局、簡易郵便局の3種類があり、その業務の形態に違いがあることから、そのへんを考慮しながら郵便局の配置の変化について追跡していき、その実態について、つぶさに捉えていきたい。また研究を進めていくにあたって、GISを利用しシミュレーションなどを行い、若干の政策的な提言をしていくことができればと考えている。
また、最近ではデータ等がインターネットからダウンロードすることができるようになり、さまざまデータを考慮しながら分析を行うことができるようになってきた。だが、ダウンロードしたデータがそのままの状態でArcGISで使える訳ではない。しかし、ArcGIS 9.2からMicrosoft Excelのデータをそのまま取り込むことができるようになったので、データの加工をExcel上で行うことができるソフトをVBAで作成し、ArcGISとの連携を高めていきたいと思う。