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立命館大学 大学院国際先端プログラム

立命館大学

 

「GISを用いた景観プランニングの枠組み」で、京都の景観保存を前提とした都市計画を策定。

ハーバード大学で培われたGISによる実践的なロールプレイング教育プログラムにより「考えるGISスペシャリスト」を育成する。

立命館大学大学院 国際先端プログラム

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立命館大学大学院では、国際的に通用する高度専門職業人や研究者を養成するために、1997年度から、世界の最先端分野における研究・教育実践の実績を有する教員を客員教授として招聘し、全研究科を横断した英語による集中講義を開講している。このプログラムは、1999年度から「大学院国際先端プログラム」の名称で、現在も継続して展開している。この一環として、「地理情報科学 Geographical Information Science (以下、GISc)」のモジュールを毎年開講しており、世界最先端のGIS研究に触れることができる。毎年、GIScモジュールでは3~4コースが開講され、その内容は、GIS入門、景観計画、リモートセンシング、防災、空間統計、ジオデモグラフィクスなど、バラエティに富んだものになっている。それぞれの講義はワークショップ形式で、4~5日間の集中講義で教授されることが多い。

立命館大学大学院の学生(主に文学研究科と政策科学研究科、理工学研究科)や、関西4大学履修交流(同志社大学・関西大学・関西学院大学と立命館大学が協定を結んで大学院間で実施している単位互換制度)による学生が中心で、彼らが単位を取得できる正規の受講生である。しかし、学部生や他大学(立命館アジア太平洋大学、京都大学、大阪大学など)の大学院生、社会人などにも単位は授与されない形での参加を募っており、そのような形での参加者も数多い。ワークショップは、2~5人程度のグループ単位でのグループワークが行われることも多く、学内・学外の受講生の混成グループでは、自然に大学間や分野を異にする受講生間の交流が深まっていくことになる。

GISを用いた景観プランニングの枠組み

GIScのワークショップの代表的なものに、ハ一バード大学GSD(Graduate School of Design)の力ール・スタイニッツ教授らによる「GIS and landscape planning」のコースがある。このコースは、ハーバード大学大学院の修士課程で実際に3ヶ月かけて行われている実習をコンパク卜にまとめて、4日間で完結するように改良されたものであり、1997年から11年聞にわたって毎年実施されてきた。スタイニッツ教授は、1966~68年に、当時まだできて間もないハーバード大学コンビュータグラフィックス空間分析研究所に研究員として籍を置き、草創期のGISを支えた1人である。当時、彼は、コンビュータ地図化システムSYMAPを用いて、景観プランニングへの応用を試みていた。そして、その試みは「GISを用いた景観プランニングの枠組み」の構築へと発展していった。

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GISを用いた景観プランニングの枠組み(C.スタイニッツ他編著、1999)

この枠組みは、表現モデル、プロセス・モデル、評価モデル、変化モデル、インパク卜・モデル、意志決定モデルの6つのモデルからなっていて、それぞれのモデルは、GISで作製された地図を通して、記述、説明、解釈がされる。とりわけ、Spatial Analystによるラスタ演算をベースにして地図化することによって、将来計画iこ対する評価やインパクトが地図として明確に示される(C.スタイニッツ他編著、1999)。

ワークショップへの取り組み

ワークショッブ開始当初の数年間は、米国西海岸のキャンプ・ぺンドルトン地域や、マサチューセッツ州ピータージャム地域を対象として、開発と保全の対立をどのように調和させるかの景観プランニングを行った。これは、ハ一バード大学が中心となって実際に行われた将来計画の策定のための研究プロジェク卜をベースとしたもので、GISデータベースもそのまま使用された。しかし、ワークショップの参加者の多くは、これらの対象地域を訪れたことがなく、また、日本と米国では都市計画規制などが異なることから、対象地域の文脈を十分に理解して、現実的な計画を立案するのは困難だった。

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湖南地域の景観プランニング

そこで、2002年度のワークショップからは、日本の地域を対象lこしたプログラム開発に挑戦した。まずは、日本の中でも人口増加率が非常に高く、琵琶湖の環境保全が大きな課題になっている滋賀県湖南地域(大津市、草津市、栗東市)を対象にしたプログラムを開発した。それは、1995年をベースにして、2020年までにこの地域の人口が80万人から100万人に増加すると想定して、その人口増加分に対応する住宅、商業、工業などの施設を、環境保全を考慮しながら、どこに配置すべきかを計画するというシナリオであった。

京都を対象としたワークショップ

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京都を対象にした景観プランニング(評価マップ)

さらに、2005年度からは、キャンパスの所在地である京都市を対象とするワークショップを開発した。立命館大学21世紀COEプログラム「京都アート・エンタテインメント創成研究」の成果を通して得られた膨大な京都市の京町家や近代建築などに関する独自のデータを含む、地理学教室がこれまでに収集してきた京都市に関するGISデータベースを利用して、開発計画を立案する。2005年度は、京町家保存をベースにした歴史都市京都の開発と景観保全をテーマに、2006年度は、メディア産業による京都の再開発計画をテーマに、ワークショッブを行った。実際にまちづくりに関わる京都市の職員などをレビユアーとして招き、ワークショップ参加者によって立案された計画について議論が行われた。

今後の展開

ある地域の景観を構成する地理情報を収集し、開発と保全などの対立する課題を設定した、ロールプレイング的なプログラムに基づくこのGISワークショッブは、短期間でGISの基本的な技術を習得するばかりでなく、分析結果を地図として表現し、これを簡潔にかつ論理的にプレゼンテーションすることが要求される。そのため「GISを使って考える」教育効果が非常に高いプログラムになっている。1997年度から11年間にわたり続いてきたスタイニッツ教授のワークショップは、2007年度で幕を閉じることになった。しかし、「大学院国際先端プ口グラム」は2008年度以降も続く。GIScモジユールでは、「GIS and landscape planning」に代わる新たなワークショップを開講する予定である。今後も、この「大学院国際先端プログラム」を通して、GISスペシャリストを育成していきたいと考えている。

  

【文献】
C.スタイニッツ他編著、矢野桂司・中谷友樹共訳(1999): 『地理情報システムによる生物多様性と景観プランニング』地人書房. Steinitz,C. ed. (1996): Biodiversity and Landscape Planning: Alternative Futures for the Region of Camp Pendleton, Steinitz, C. ed. (1997): Biodiversity and Landscape Planning: An Alternative Future for theRegion of Camp Pendleton, California, Boston: Studio Report of Harvard Design School, Harvard University

プロフィール


矢野 桂司 教授
中谷 友樹 准教授



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掲載日

  • 2008年1月1日