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事例

JAMSTECにおける海洋観測データ検索サービスの構築

独立行政法人 海洋研究開発機構

 

種類別のデータ公開サイトを横断して地図から観測データを検索する「JAMSTECデータ検索ポータル」

個別に管理されている各種データをより早く、より簡単に検索することを可能にするため、
WebGIS技術を用いたOne-Stopのポータルサイトを構築。

背景

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データ公開サイトの1つである、
「観測航海データサイト」

独立行政法人海洋研究開発機構(以後、JAMSTEC)は、1981年の支援母船「なつしま」および有人潜水調査船「しんかい2000」の就航以来、深海を中心に海洋調査を行ってきた。現在では海中、海底、海上、陸上等で様々な調査・観測を実施している日本有数の海洋研究機関である。調査船8隻と有人潜水船を含む数隻の潜水調査船を運航して世界中の海洋調査を行っており、これらの調査・観測で得られたデータやサンプルはJAMSTEC以外では取得する事ができない貴重なものが多い。データは、乗船した研究者が自らの研究に使用するだけでなく、海洋科学技術の発展に貢献すべく、インターネットを通じて広く公開されている。データの公開・流通に積極的なJAMSTECでは、データの利用を促進するため、2007年に「データ・サンプルの取り扱いに関する基本方針(データポリシー)」を定め、体系的・包括的な管理・公開を進めている。これらのデータやサンプルはそれぞれの種類に応じたデータベースやデータ公開サイトで公開されている。

公開されるデータの種類や量が増えてきた一方で、利用者が自分の目的にあったデータを発見するまでにいくつものデータベースを検索しなくてはならないという手間も増えてきた。必要なデータを発見するのに時間と手間がかかる結果、データが利用される機会が失われることが心配されるようになってきた。また、例えば岩石を専門としている研究者は、岩石サンプルだけを検索するだけでなく、その岩石が採取された海域の地形、重力、磁力等、様々なデータを同時に求めている場合が多く、事実そういった問い合わせがJAMSTEC内外で増えていた。

そこで、JAMSTECでは海域を指定することで航海や観測を横断してデータの所在を発見できるシステムの構築に取り掛かった。

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データ公開サイトからは観測データだけでなく、画像やサンプルの検索も可能

導入手法

システムの構築を検討するにあたっては以下のような機能を実現することを目指した。

海洋や陸上での調査や観測では、必ずデータやサンプルの取得位置も得られており、地図を使用した検索システムが最も利便性が高いと判断した。また観測結果の検索には、GISソフトウェアが提供する空間検索機能が適していること、マップサービスを使用することでデータの分布を表示した状態で検索が可能であることから、WebGISが検索エンジンとして最適であった。ArcIMSを採用した理由は、検索用データを一般的なシェープファイルで作成できること、部品として使用できる基本的なツールが用意されており開発コストが軽減できそうなことが決め手だった。

  

開発

まずシェープファイルに載せる属性データ(観測に関するメタデータ)を整理し、検索に使用する必須項目と表示にのみ使用するオプション項目に分けて整理した。データファイルの作成には、株式会社エクシードで作成したcsvから シェープファイルへの変換ツールを使用した。
システム構築の当初は、ArcGISのプログラミングに慣れていなかった事もあり、開発スケジュールを2段階に分けることにした。第一期のゴールを地図からの検索機能のみに絞ったバージョンの公開と位置づけ、その間にノウハウを蓄積して、第二期に複合条件での検索が行える機能を実装した。基本的にはJAMSTEC内でシステムの構築を進めたが、ArcGISの開発実績が豊富であった株式会社エクシードから適宜コンサルティングを受けたことが非常に有効だった。

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JAMSTECデータ検索ポータルのインタフェース

導入効果

既に2万5千件以上の観測を登録しており、JAMSTEC内外から積極的な評価を受けている。アクセスは国内の大学や研究機関からだけでなく、海外からのアクセスも増えてきている。データ検索ポータルの公開前後で、船舶データの公開サイトへの訪問数は定常的に増加したが、周知度はまだ十分ではない。従来からのJAMSTECデータのユーザだけでなく、今までJAMSTECデータの存在自体を知らなかった方や専門的なデータベースは敷居が高かった方にも、この検索ポータルを通じてJAMSTECのデータを知ってもらいたい。

  

まとめ

システム導入検討を開始した当初は、欧米では地図を利用した検索システムが既に多く存在していたが、日本ではまだ少なかった。そのため、JAMSTEC内でもGISを使うことで何が便利になるのかといった啓蒙活動から行う必要があった。今では多くの方に利用して頂けるポータルサイトに成長しつつあるが、よりユーザの利便性向上を図るためにも、今後は、外部機関(特に海外の観測実施機関)とメタデータを交換する事で、お互いの検索システム上で相手方のデータも検索できるような協力関係を築いていきたい。
また、JAMSTECではデータポリシーの制定以降については定常的なデータ管理体制を構築して運用しつつあるが、過去の航海や観測データについてもJAMSTECデータ検索ポータルに登録していく事で、検索対象となるデータを質・量ともに充実させていく考えである。

  

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JAMSTECデータ検索ポータルの利用イメージ

プロフィール


独立行政法人 海洋研究開発機構
地球情報研究センター 華房 康憲 氏



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資料

掲載日

  • 2010年1月1日