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事例

GISによる復旧支援から、復興まちづくりへ

宮城県南三陸町

 

東日本大震災の復旧から復興のプロセスにおけるGISの活用

課題

導入効果

 

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南三陸町庁舎

概要

南三陸町は平成23年の東日本大震災では甚大な被害を蒙り、町庁舎と隣接する防災対策庁舎までもが全壊。あらゆるデータが失われてしまった。震災直後、復興支援としてArcGISをインストールしたPCが提供された。復旧期には航空写真による被害地域の特定、ライフラインの復旧状況の管理などに使用された。復興期となる現在は土地の異動に関する管理に使用されている。主に公図が参考図として、庁内さまざまな部署で参照され、復興まちづくりに役立てられている。

背景

南三陸町は宮城県の北東部に位置し、東は太平洋に面している。沿岸部はリアス式海岸特有の豊かな景観を有し、海山が一体となった自然環境を形成している。昭和35年のチリ地震津波など、その地形的な特性から過去に何度も津波の被害を受けている。その教訓から、防災意識も高く、さまざまな対策も講じられていたのだが、平成23年3月11日の東日本大震災では甚大な被害を蒙った。半壊以上の被害を受けた建物(住宅)は3300戸以上に上り、地震直前の住民基本台帳世帯数の約62%にもおよぶ。町庁舎だけでなく隣接する防災対策庁舎までもが津波により全壊した。それにより戸籍など住民サービスに不可欠なデータを管理していたシステムサーバを失い、また公図など、あらゆる種類の紙データも失われてしまった。

平成23年3月26日には志津川地区の高台の仮庁舎に入り、住民へのサービス を再開したが、システムもデータも失われたため、すべて一からの再構築となった。震災直後は物も不足しており、1台のパソコンを数人で使うような状況だった。

導入手法

当時多くの企業が復興支援のため物資の提供やサービス復旧の支援を行っていた。平成23年5月にNTT東日本とESRIジャパンにより、ArcGISを搭載したPCが複数の部課に提供され、震災直後の様々な復旧作業において使用された。例えば危機管理課(災害対策本部)ではライフラインの復旧状況の進捗、ステータス確認に使用された。復興対策課では道路状況(通行止め)の確認、表示など、復旧状況の表示に使われた。その後、法務局より公図のイメージデータを入手。津波浸水域と重ね合わせ、どの土地がどれだけ浸水したのかの確認作業などにも使用された。

復旧期においてGISで最も頻繁に使われたデータは航空写真であった。震災前後の比較による被害エリアの特定に使用された。また全国から来た救援作業員、ボランティアは土地勘が無いため、航空写真は非常に有用であった。

導入効果

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総務課のArcGISを操作する阿部氏

その後、南三陸町ではArcGISのライセンスを購入。現在、総務課と町民税務課に設置されている。「現在は土地の異動に関する管理がGISでのメインの作業となっています。総務課のArcGISは全職員が使用可能ですが、主に復興3課(復興事業推進課、復興用地課、復興市街地整備課)、建設課、総務課が使用しています。」と総務課主事の阿部氏は語る。

 

現在最も使われているデータは公図(参考図)データである。最近は住民が自分の保有する農地を宅地に変更するなどのケースが増えている。そのため一般の住民からの土地の境界や隣接地の所有者の確認のための問い合わせが多いという。また実際に土地を分筆するための境界立ち合いも多く、そのための参照データとしても使用されている。その場合、道路境界や道路の種類の確認なども必要となり、建設課のGISの使用も増えており、今後も増大すると思われる。

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デジタル化された公図データ

町民税務課でも同様に公図の参考図がほぼ毎日のように参照されている。現在、防潮堤建設のための土地の買収や道路の特定、道路用地の買収が進んでいる。また個人による住宅建設や、公営住宅建設用の土地の分筆など、公図の確認作業は多岐に渡る。大震災により紙の公図は失われたため、現時点では法務局から入手した公図のイメージデータが唯一の参考データなのである。そして現在公図のポリゴンデータ化が進んでおり、平成26年には既存データのデジタル化が完了予定である。震災以前は、マイラーによる公図の更新は年1回であったが、公図のデジタル化に伴い、異動分について年4回のアップデートを予定している。道路幅の変更や集団移転先の区画整理、公営住宅の建設など異動件数は非常に増えており、現在では町民税務課の公図データが庁内で最新のものとなっている。

また、GISは課税評価漏れのチェックにも使用されている。建物の取り壊しが行われても滅失の届け出が無いことがあるが、航空写真を使用して評価漏れの対象建物を確認している。「GISによって問い合わせに対する公図参考図の検索・閲覧のスピードが速くなりました。」と町民税務課の山内氏は語る。現在、参考図として、問い合わせのあった住民へ印刷して渡しているという。「ご親族を亡くした息子さんが、地番すらわからなくなった土地の確認にいらっしゃった例もありました。」

今後の展望

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町民税務課でのArcGISの利用

「まだまだ始まったばかりです。まだGISを使い切れていない。今後、自前の航空写真の撮影なども行えればと思っています。」住民のさらなるニーズにこたえるために、今後、航空写真等のデータ整備を進めていく予定である。その他にも、土地を住民に貸し出す際の費用根拠として地価公示データの準備等、GISによる分析精度の向上に必要なデータの準備も検討されている。

また、多くの職員にGISを使用してもらうために、現在は職員が独学で習得しているGIS操作方法をより使いやすくして、庁内へ広く周知していくことも予定している。街の変化に伴いGISの利用者が増えて活用方法も変わりつつある南三陸町。GISを活用した復興まちづくりに今後も注目していきたい。

プロフィール


左より
町民税務課 主幹兼課税係長 山内 裕一 氏
町民税務課 西條 優也 氏
総務課財産管理係 主事 阿部 克浩 氏
町民税務課 主査 上田 恒静 氏
NTT東日本 気仙沼営業支店 営業担当部長代
理 菅原 正敏 氏



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資料

掲載日

  • 2014年3月14日