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感染症コイヘルペスウイルス病のリスクの可視化

水産総合研究センター 中央水産研究所

 

水産資源を襲った感染症。GIS によるリスクの可視化で蔓延を防ぐ。

平成15年10月。突如、コイヘルペスウイルス病が発生。全国の鯉養殖関係者に激震が走った。全国的な蔓延防止に不可欠な発生状況の調査が都道府県で開始された。独立行政法人水産総合研究センターは調査結果の取りまとめにGISを選択した。

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コイは、古来より薬用魚と呼ばれているとても健康によい魚である。薬効は魚の中で最も多いとされ、糖尿病、肝臓病、腎臓病などに効果があるとして薬用、食用にもされており、食用コイの養殖も全国的に行われている。このコイの養殖関係者を震撼させる感染症が日本で発生した。
平成15年10月、茨城県霞ケ浦でコイヘルペスウイルス病による養殖コイの大量死が発生した。これ受けて農林水産省で「鯉ヘルペスウイルス病に関する技術検討会」が開催された。当検討会では蔓延防止のための全国的な対処が決定された。

コイヘルペスウイルス病は、マゴイとニシキゴイだけに発生する比較的新しい病気である。コイだけがかかり、コイ以外の魚や人には感染しない。1998年に初めてイスラエルで発生が確認され、その後ヨーロッパ、アメリカ、インドネシア等でも発生が確認されている。日本では霞ヶ浦での発生が初めてのケースである。

コイヘルペスウイルス病は幼魚から成魚までに発生し、死亡率が高い病気である。原因となるウイルスは、この病気にかかったコイから水を媒介して他のコイに感染する。空気感染することはない。一方、対策面についてみると、現在コイヘルペスウイルス病に対する有効な治療法はない。つまり、状況を正確に把握した上での蔓延防止策の実施が被害拡大阻止の唯一の手段とも言える状況である。

そのための手段として、長野県上田市にある独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所内水面研究部はGISを選択した。感染地に対しては蔓延防止策、非感染地に対しては予防対策を実施するために、感染地と非感染地を明確に区別して把握する必要があった。そのために、位置と属性を一元的、効率的に管理でき、空間上で対応の検討が可能なGISの導入が決定された。システムおよびデータ整備は、株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社パスコの協力で進められた。

農林水産省の調査

発生状況を確認するための農林水産省のアンケート調査が都道府県に依頼され実施された。都道府県内における地域レベルの検討を行えるように、各都道府県がそれぞれ設定する「地域」単位で調査が行われた。ある県は行政界、別の県では流域といった地域を単位として、感染の実態調査が実施された。この調査により、各地域が以下のように設定された分類基準で分類された。

感染調査の分類基準

A)地域内で確定診断によるコイヘルペスの発生が確認されている。
B)地域内でコイヘルペスが疑われる個体(症状を示す病魚やへい死魚)が認められている。
C)地域内でコイヘルペスが疑われる個体は発生していないことを聞き取り調査等により確認している。
D)地域内でのコイヘルペスが疑われる個体の発生については、調査を実施しておらず不明である。

都道府県で取りまとめられた調査結果は、2003年12月までに農林水産省に回収された。

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GIS で被害状況の分布図を取りまとめる
生田和正 生態系保全研究室長

また、地域別の発生ポテンシャルを把握するため、感染の可能性がある箇所が地域内にどれくらいあるのかの調査も同時に実施された。各調査項目は以下のとおり。
①コイ養殖業等の状況
②地域内のコイ養殖業者数
③錦鯉生産業者数
④釣堀業者数
⑤義務放流河川等(数、名称、場所)
⑥霞ヶ浦等、11月30日現在コイヘルペスの発生が確認されている地域と当該地域内の業者等の接点の有無とその地域名

2004年2月までに中央水産研究所で都道府県の調査データのGISデータ化の整備が完了した。ArcViewを利用することで、調査データを表示、分析、検索し、現状の把握が進められた。感染確認地域の空間分布の把握、地域間の関係の考察、未発生地の感染の可能性の検討など様々な検討が行われた。

ArcViewで作成したこれらの成果は、農林水産省の行政担当者、中央水産研究所、養殖研究所、都道府県などの関係機関の担当者の間で共有された。

GIS導入のメリットは、現場の地理に精通していない場所でも、被害状況を空間的に的確に把握して検討することが可能になったことである。もう1つは、この分布図と感染の要因となるデータを重ねて可視化することで、単独のデータからは判断できないリスクの把握、いわばリスクの可視化も可能になったことである。これにより、当初の目的であった感染地と非感染地を区別した対応の検討に加え、感染の要因となる別の情報を加味した検討も可能になっている。「GISにより、従来行われてきた表や文書などの資料からは見ることができない情報を得ることができます。例えば、水系のデータと感染確認場所のデータを重ねることで、コイの移動、水の移動を考慮した対策、防止策をとることができます」と中央水産研究所の生田生態系保全研究室長は語る。

疑いがある個体は随時、確定診断のために都道府県から養殖研究所に持ち込まれ、ウイルスに関する遺伝子レベルの調査が実施されている。結果データは中央水産研究所にも届けられる。2004.5にはデータベースへの追加更新が行われている。このようにして、貴重なデータの蓄積が進められている。

今後の展開

今後の蔓延防止措置や感染経路の究明については、専門家による技術検討会の助言に沿って、国と都道府県が協力して進められる予定である。原因究明には被害状況の詳細な情報が必要となるが、今回整備したGISデータベースを活用も検討されている。

また、水中では地上で一般的に利用されているGPSなどの位置計測技術が利用できない。このため、魚の移動や生息域の把握は容易ではない。コイの行動範囲の把握、水系の上下流の判断、ダム等の河川工作物が魚の移動に与える影響の把握などにGISを活用していきたいとのことである。GISがコイヘルペスウイルス病の蔓延防止、水産物、水産業の発展に、より一層活用されることが期待される。

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掲載日

  • 2005年1月1日

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