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事例

福島県相馬市を対象とした土地利用デザインの提案

立命館大学 歴史都市防災研究所

 

震災復興への“Geodesign”フレームワークの適用

GISを使った教育プログラムとしても最適な、“Geodesign”フレームワークに基づいたワークショップを開催

課題

導入効果

概要

日本国内初のArcGIS全学サイトライセンスを導入した立命館大学では、GISの先進的な教育・研究を行なってきている。その功績が認められて2012年には米国Esriユーザ会にて、SAG賞(SpecialAchievement in GIS Award)を受賞した。これまでの取り組みの中にGISを用いた景観プランニングのフレームワークである“Geodesign”があり、矢野教授らはこのフレームワークをいち早く取り入れ、1997年から定期的なワークショップを実施してきた。そして、東日本大震災の被災地である福島県相馬市を対象とした復興まちづくりにもこのGeodesignフレームワークを適用。まず相馬市に関わる様々な地理空間情報を収集しGIS上で一元化した。そして2013年2月にワークショップを開催し、参加者はグループに分かれて震災復興に向けた具体的な土地利用デザインを複数提案することができた。

2013年5月に開催された第9回GISコミュニティフォーラムでは、この結果をマップギャラリーに出展し第一位を獲得した。GISを使った教育プログラムとしても最適なこのGeodesignフレームワークに基づいたワークショップは今後も継続的に実践される。

背景

立命館大学では、2002年に国内初のArcGIS全学サイトライセンスを導入し、学内のあらゆる端末からArcGISを利用できる環境を整えた。そして、これまでに以下のようなGISに関する先進的な教育及び研究を行ってきている。

 

 

上記のような教育・研究活動や功績が認められて、2012年には米国サンディエゴ市で開催されたEsriユーザ会(EsriInternational User Conference)にて、SAG賞(Special Achievement in GISAward)を受賞した。これまでの取り組みの中にもあった“Geodesign”とは、地域の過去や現在の自然環境と人文・社会環境をGISを活用して表現・説明し、その成果をベースとして地域の将来計画を決定していくためのフレームワークである。

Geodesignのフレームワーク
Geodesignのフレームワーク

“Geodesign”は、2009年にEsri社が提唱した言葉だが、このフレームワーク自体は前述したハーバード大学のスタイニッツ教授らによる「GISを用いた景観プランニングの枠組み」として構築されたものである。Geodesignは、6つのモデル(表現、プロセス、評価、変化、インパクト、意思決定)から構成されている。それぞれのモデルでは、GISで作成された地図を通して、記述、説明、解釈がなされる。とりわけ、Spatial Analystによるラスタ演算をベースとして地図化することによって、将来計画に対する評価やインパクトが地図として明確に示される。手順としては、このモデルを1から順に行い、一度6つの全てのモデルを実施し、その次は6から降順に進み改善を加えていく。このフローを何度も繰り返し行うことで、より良いデザインが作成できるとされている。

 

導入手法

矢野教授らはこのGeodesignフレームワークをいち早く取り入れ、1997年からワークショップを開催してきた。そして、このGeodesignフレームワークに基づいて、東日本大震災で多大な被害を受けた福島県相馬市を対象に、地震と津波、さらに東京電力福島第一原子力発電所の事故からの復興計画を支援するためのプラットフォームを構築する研究をすすめている。このフレームワークを相馬市に適用するために、相馬市に関わる様々な地理空間情報を収集。国が作成・提供しているもののほか、大学で所有しているもの、さらに相馬市が所有しているものなどをGIS上で一元化した。そして2013年2月27日~3月1日の3日間、スタイニッツ教授らを招聘し、学生を対象としたGeodesignのワークショップを東北大学で開催した。このワークショップの目的は、Geodesignに基づいて震災復興に向けた相馬市の新たな土地利用デザインを提案することである。相馬市が直面している人口減少や高齢化問題も考慮しながら、GISを活用して様々な要素、観点、意見などを集約して反映した最適なデザイン案の作成を最終アウトプットとしている。

 

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第9回GISコミュニティフォーラム
マップギャラリー出展ポスター

導入効果

参加者はグループに分かれてArcGISを用いて評価モデル(地震・津波・放射能濃度などのリスク評価や、代替住宅用地・商業用地・工業用地などの魅力評価)のマップを作成。このマップをもとに相馬市の新しい土地利用を考え、変化モデルとして6つの異なるコンセプトによるマップが作成された。変化モデルの例としては、「市の復興計画に沿った再配置」、「コンパクトシティに向けた再配置」などがある。最終日にはプレゼンテーションを実施し、投票も行われた。このワークショップでは新たな試みとして、Esri CityEngineによる変化モデルの3次元視覚化にも取り組み、相馬市街地の様子や代替住宅地のシミュレーションなどに活用された。また、2013年5月30日(木)~31日(金)に行われた第9回GISコミュニティフォーラム(東京ミッドタウン)では、本研究テーマでマップギャラリーに出展し第一位を獲得した。

まとめ

矢野教授は今回の相馬市を対象としたGeodesign手法の適用について、「実際には予算の面などもっと複雑なモデルになるが、Geodesignのフレームワークに基づいたこのようなワークショップは、GISを使った教育プログラムとしては最適です。」と述べられた。GISというツールを通してジオグラフィとプランニングをいかに融合できるか、今後に期待したい。

 


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矢野教授(右から2番目)と関係者



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掲載日

  • 2014年1月28日