GISを活用した「低評価地区の選出」と「低評価路線の選出」による課題を抱える施設(管路)の可視化
松山市は、愛媛県のほぼ中央、道後平野の北東部に位置し、山と海に囲まれた自然豊かな都市であり、道後温泉や松山城など風光明媚な観光都市として知られている。また、当市は気候穏やかな暮らしやすい都市である一方、小雨傾向による渇水が頻繁に発生している。また、将来想定されている東南海・南海地震の影響が危惧されている地域でもあり、一昨年の東日本大地震を踏まえて、その対策が急がれているところである。
松山市公営企業局では、平成 21 年に構想計画「水道ビジョンまつやま 2009 」を策定し、将来像を「安らぎと潤い、豊かな暮らしを支える水道」と位置付け、「安全で安心できる水の安定供給」や「地震などの災害に強い水道の構築」などの目標実現のため、具体的な施策に取り組んでいる。
上水道は、全国的に普及率が約 97%程度となり、「拡張の時代」から「維持管理の時代」へと移り変わっていると言える。松山市においても、昭和初期の創設期以来、人口の増加や、市勢の発展により、現在では約 2,000 km にも及ぶ管路網を形成するに至っており、その経年化、老朽化が喫緊の課題となっている。
松山市では、複合化する課題(管路の経年化劣化等の内的要因と南海地震等の外的要因)に対し、上水道管路網の間接診断を行うこととした。間接診断とは、管路の機能低下を及ぼす複合する要因(課題)を解析(課題を抱えるエリアまたは路線を見える化)して、対策に繋げるものである。間接診断により、
を目的とした。
松山市では、全庁横断的に共用空間データを利活用するための「都市情報システム」を導入している。都市情報システムは、各部局が作成・更新した地図情報および属性情報を一元的に管理することができるシステムであり、公営企業局においても、このシステムを上水道施設のメンテナンスに役立てている。ただ、都市情報システムは、細かな解析機能には対応していないため、今回、佐伯氏が望む上水道管路網の機能診断については ArcGIS を用い、診断結果を出すこととした。
佐伯氏は以前、海外の業務で ArcGIS を使用した経験があり、 ArcGIS の豊富な解析機能があれば十分な解析結果を出せると判断したのである。佐伯氏は、ArcGIS の導入に際し、ESRIジャパンが提供している「自治体 GIS 利用支援プログラム」の活用を思いついた。
佐伯氏は、上水道管路網の機能診断を 2 つの観点から評価することとした。1 つ目の診断は、低評価地区を選出する方法で、注視すべき地域のポリンゴンデータを作成し、面的に評価順位を付けた。2 つ目の診断は、低評価路線を選出する方法で、課題を抱える路線のラインデータを作成し、管路そのものに評価順位を付けた。この 2 つ(面と線)の評価結果を重ねあわせ課題を抱える地区を可視化することで、路線の明示やより戦略的な課題解消に繋げることとした。2 つの診断には、密度推計統計手法(カーネル密度分析)、加重合計手法(加重オーバーレイ)など ArcGIS for Desktop のジオプロセシングツールがフルに活用された。
低評価地区の選出(面的診断)では、対象となる地区を最終的に 3 段階に区分けした。主に給水開始の早い市内中心部に不評価地区が多く存在し、特に中心部南側の主要道路を中心とする地区、東部の住宅地区等に管路の更新などの対策に取組む必要があることが分かった。また、給水区域全域を見れば、主要な管路が埋設されている大きな道路沿いや引継管路線のある集合住宅などに不評価地区があるという診断結果も出た。
一方、低評価路線の選出(線的診断)では、診断項目ごとに 1 本 1 本の管路に対して優劣を加減点し、総合点にて低評価路線を選出した。これにより経年化状況の 75 % 以上(布設後 40 年を超える路線)、本管漏水修繕状況の 90 % 以上(事故多発路線)、安政南海地震発生時の被害予測状況から危険視される路線を選出することができた。
佐伯氏は、今回行った上水道管路網の機能診断を定期的(概ね年に1度)に実施したいと考えている。定期的に機能診断を行うためには、複雑な ArcGIS のジオプロセシングツールをバッチ処理化する必要があり、当初、佐伯氏はモデルビルダーによるバッチ処理化を考えていた。ただより効率良く処理が行えるように、今後は Python スプリクトを使った処理ツールのプログラム作成に取り組むこととした。また、定期的に作成される診断結果のデータを都市情報システムに反映させることで、関連部署との情報の共有を目指している。