事例 > 農業・地域振興を目指して。GIS や多変量解析を空間情報学科の生徒が援用

事例

農業・地域振興を目指して。GIS や多変量解析を空間情報学科の生徒が援用

新潟県立新発田南高等学校

 

農業・地域振興への GIS や多変量解析の援用を生徒が実践。
自ら学会で全国に情報発信も。

GIS の研究が普及することにより空間情報科学の確立へも寄与できる

 

概要

図1 関川村の位置
図1:関川村の位置

日本の農業の衰退が指摘されて以来、すでに久しい観がある。最近では GIS や RS(リモートセンシング)を援用した研究が盛んである。しかし、自治体レベルでは未だ GIS や多変量解析を援用しての解析 は少数のように思える。そこで、新発田南高等学校の南空間情報科学(mSIS)研究会では、GIS や多変量解析の手法を援用し、新潟県岩船郡関川村を対象として農業地域構造の変容の様子や特色、さらに今後の課題を抽出し、自治体等へ解析手法を提示することを目指した活動を行っている。

これまでの成果は 2012 年 9 月 13 日か ら 16 日に新潟市の新潟県立大学で開催された第 40 回日本行動計量学会研究発表大会にて、全国初となる高校生による発表を行った。さらに、成果は関川村の農林観光課にも伝えた。

 

研究対象地区について

関川村は新潟市の北東約 60km に位置し、人口 6,438 人(2010 年国勢調査)、面積は約 299.61 km( 図 1)。1889(明治 22)年に市町村制が施行され 5 つの村はその後合併をし、昭和 20 年代に町村合併促進法に基づき現在の関川村になる。その後合併の協議がなされたが、合併しない方針を打ち出し、自立のための対策を模索してきた。村には国の重要文化財「渡辺邸」をはじめとした歴史ある町並みが残り、毎年 8 月下旬にはギネスにも認定されている「大したもん蛇まつり」が行われ地域振興に尽力している。地形は飯豊連峰などの山々に囲まれ起伏が激しく、耕地は少なく稲作中心の農業が基幹産業であり、良質米のコシヒカリの産地ともなっている。

 

研究の方法と解析

国土数値情報や農林業センサスのいくつかの指標をもとに、土地利用や特色等、農業地域構造の変容の様子を明らかにした。次に選択した指標に加え、生活利便性として各種施設・サービスへのアクセシビリティを測定し、それらを加味した農業集落のクラスター分析を行うこととした。さらに耕作放棄地について、空間的自己相関の検出や GWR(地理的 加重回帰)で説明変数の抽出を試みた。

 

1. 国土数値情報の土地利用細分メッシュによる土地利用変化の様子

図2 修正ウィーバー法による特色の抽出
図2:修正ウィーバー法による特色の抽出

1976 年と 2006 年の国土数値情報の土地利用細分メッシュの 5639 と 5739 のメッシュデータをマージし、これらを関川村のポリゴンでクリップしたものを使用した。土地利用を解析しやすいように、合 算して再分類した。その結果、1976 年と 2006 年とを比較してみると、増減が見られたのは総数 30,169 個の内、森林荒地のメッシュが +3、湖沼・河川のメッシュが -3であった。

 

修正ウィーバー法等による特色の抽出

1970 年と 2005 年の農林業センサスのデータをもとに販売目的で作付した面積により、修正ウィーバー法を援用して栽培作物の組合せを抽出してみた。その結果、稲以外の作物が抽出されたのは、金丸の野菜・豆・いも・工芸・雑穀、滝原の野菜・豆・いも・工芸・飼料、松平の野菜・豆・いも・工芸・飼料・雑穀の 3 集落だけであった(図 2)。同様の手法により 2005 年を抽出したところ、稲以外の作 物が抽出された集落は存在しなかった。そこで 2005 年のデータをもとに特化係数(新潟県の平均値を基準)を用いて特色を検出してみた。その結果、稲以外の作物が検出されたのは、下関と大島の豆、山本の野菜、南中と桂の雑穀、上関の野菜・雑穀の 6 集落であった。

 

3. 因子分析とクラスター分析

K-means 法
図3:K-means 法

2005 年の農林業センサスのデータをもとに、農家、農業労働力、経営、土地利用等に関する指標に生活利便性を加味した 42 個の指標を設定し、因子分析(バリマックス回転)を行った。生活利便性の測定には ArcGIS for Desktop Basic (旧 ArcView)と ArcGIS Network Analyst を使用した。その結果、第 8 因子までで、累積寄与率が 73% に達した。第 1 因子には生活利便性、第 2 因子には兼業農家が抽出された。第 1 因子の因子得点が高い集落(生活利便性がよくない)はやはり周辺部に位置する 大石、小和田、田麦干刈などであった。この因子分析の結果をもとにクラスター分析(k-means 法)を行った。周縁部に位置する集落が同じクラスタとなり、他は近隣の集落が 1 つにまとめられている (図 3)。

次に、先の 42 の指標を Self-Organizing maps(自己組織化マップ)により学習させ、類似度や各要素についてマップを作成してみた(図 4)。周縁部に位置する集落は他集落とはノード距離より類似性が低い様子が読み取れた。

図4 サモンマップ
図4:サモンマップ

 

4. 耕作放棄面積の解析

耕作放棄面積の分布や他の指標との関係について解析した。耕作放棄の面積には、1% 水準で有意な正の空間的自己相関は認められなかった。1 農家当たりの耕作放棄面積を説明する変数を探るために重回帰式(変数減少法)を適用したところ、5% 水準で 0.26、GWR(地理的加重回帰)では 0.37 と改善され GWR の有効性が示された(図 5、表 1)。

図5 GWR の残差
図5:GWR の残差

GWR の結果
表1:GWR の結果

 

フィールドワークの結果

農家の現状を探るため、聞取り調査及びフィールドワークを行い、デイリー・リズムを明らかにした。また、再生に向けた取組ではそばを作付した畑を調査したが、商品化まではなお時間を要することが行政の説明で明らかとなった(図 6)。

図6 行政との協働による調査
図6:行政との協働による調査

 

まとめと課題

農林業センサスから、特色が失せた様子、耕作放棄地や後継者の問題等、地域農業が抱える問題を身近に捉えることができた。GIS をプラットフォームとした行政との協働の調査は意義が大きい。山本教諭は、「生徒による本研究が、GIS による今後の農業・地域振興に寄与することを願っています。今後は観光をテーマに地域振興を目指し、さらに生徒たちの大学での研究へと繋げたい。きらりと光る mSIS で 居続けてもらいたい。また、高校での空間情報科学への取組の一助となれば幸いです。」と今後の抱負を語った。

プロフィール


新潟県立大学での日本行動計量学会にて



関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2013年10月17日