平成 24 年度、新たに導入した Esri Business Analyst を用いた地域分析の事例を紹介し、自治体における GIS 活用のメリットとその可能性を提案する。
神奈川県相模原市は、首都圏南西部に位置する政令指定都市である。(図1)昭和 29 年の市政施行以降、内陸工業都市として、また、東京のベッドタウンとして発展し、約 8 万人だった人口は約 72 万人まで急増した。現在も相模原市では人口が微増しているが、日本の総人口が減少に転じ、首都圏の人口が都心回帰の傾向を示す中にあって、今後を楽観視できない状況となっている。
さがみはら都市みらい研究所は、地域特性に即した先進的・長期的な政策研究を行うことを目的として、平成 15 年 4 月に市役所内の組織の一つとして設置された自治体シンクタンクである。自治体シンクタンクの主な業務は独自の調査研究であるが、当研究所では調査研究のほかに、GIS を活用して庁内各課の政策形成支援を行っている。政策形成にはGIS の活用が大変有効だが、全ての部署に配置できないので、GIS スキルを有する研究所職員が庁内のニーズに合わせて地図の作成・地域分析などを行っている。
GIS を用いるメリットは、一見して理解しにくい統計表などを、誰にでも分かりやすく、また、より印象に残る表現ができることである。内部の意思決定過程におけるプレゼンテーションや、住民への説明において、統計などのデータが視覚化されることの効果は非常に大きい。
図 2 は、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の 1 都 3 県内にある市区町村ごとに、2005 年から 2010 年にかけての人口増減率を表したものであるが、人口の都心回帰の様子がよく理解できるだろう。
当研究所では、従前より Esri 社の ArcGIS for Desktop を活用してきたが、平成 24 年度からエリアマーケティングに特化した機能群とデータを搭載したパッケージ商品である Esri Business Analystを導入した。
このソフトウェアの特徴は、複雑な操作なしで様々な分析が可能となる点であり、より多くの地域分析手法を確立し、併せて分析の精度も向上させることができる。主な機能の説明とあわせ、導入から約 8 ヶ月を経て、これまでに取り組んだ分析の事例を紹介する。
図 3 は、リニア中央新幹線の新駅設置が予定されている橋本駅周辺のポテンシャルを見極める資料として作成したもので、自動車で 45 分の圏域を示したものである。青が橋本駅の圏域、黄色は新幹線の停車する新横浜駅及び小田原駅の圏域となっている。Esri Business Analyst では、「自動車や徒歩で何分」といった時間圏域を手軽に算出することができるなど、圏域設定機能が使いやすくなっている。
図4は、超高齢社会を見据え、市内の買物不便地域を洗い出し、そこに居住する人口を算出したものである。500 m 以内に食料品、日用品を取り扱う店舗がない地域を買物不便地域として赤斜線で表した。店舗を住所一覧から地図に落とす「アドレスマッチング」や赤斜線地域の人口を算出する「面積按分集計」なども、より容易になった。
図 5 は、Esri Business Analyst の自動レポート作成機能を活用して作成した商店街圏域分析データブックの一部である。商店街の活性化は多くの自治体で課題となっているが、振興策を講じるにも、商店街圏域の基礎データをしっかり把握できていないという問題点があった。これを解消するため、商業担当課と協力し市内 63 の商店街について、圏域の年齢別人口、昼間人口、学生数、人口当たり店舗数他、多くの指標を地図と合わせて提示し、商店街の方から大変好評を博したものである。
政策形成の過程において、データは極めて重要である。データは多種多様であり、これを正しく理解し、応用して地域分析を行うことは非常に難しい。まして、それを人に伝えることはなおさらである。GISは、まさにこのようなデータの取り扱いを補助してくれる便利なツールであり、上手に用いれば自治体の政策形成力、市民への説明力を飛躍的に向上させることができる。
今回紹介した当研究所の GIS 活用事例は、GIS が有する機能のほんの一部を使用したものに過ぎないが、多くの行政分野において、その活用の可能性を感じていただけたのではないかと思う。少しでも GIS に興味を持ったら、積極的に触れてみてはいかがだろうか。
さがみはら都市みらい研究所
専任研究員(主任) 宮崎 大 氏