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建設現場の未来を変えるAIダッシュボード

トライポッドワークス株式会社

 
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いつでも簡単、スマートフォンで通報が可能
~ GIS を活用した市民参加型インフラ通報システムの構築~

概要

トライポッドワークス株式会社は、建設現場の映像データを AI で解析し、施工実績および生産性の定量的評価を可能とする「AI 解析 × 施工実績ソリューション:AI ダッシュボード」を開発し、建設業界におけるデジタルトランスフォーメーション(建設 DX)に貢献している。同社の技術本部 IoT 技術部では、現場に設置したカメラで撮影された映像データをクラウドへ集約し、自動解析する仕組みを構築した。これにより、重機稼働率や掘削土量などの工事プロセスを視覚的かつ定量的に評価し、施工業務の効率化を促進している。2023 年(令和 5 年)には、国土交通省が推進する ICT 施工の次のフェーズとして、工事全体の生産性向上を目指し、施工データの有効活用を行うために、ArcGIS 導入による AI ダッシュボード機能の高度化を実現した。

課題

建設業界全体が抱える課題として、労働環境の改善、人材不足、業務効率化が挙げられており、2024 年(令和 6 年)4 月に「働き方改革関連法」の時間外労働時間上限規制猶予措置が終了することに伴い、一層の生産性向上が求められている。
このような背景の中で、当該部署は現場作業ごとの映像を解析し、データ分析することに注力している。映像の解析には、AI を用いて重機とトラック等の工事車両による作業の一連の動きを学習させ、作業サイクルを自動で解析するモデルを作成した。社内には膨大な映像とデータが蓄積されているものの、工事現場全体を見える化できるソリューションが存在せず、収集したデータを一元的に可視化できるダッシュボードの導入を模索していた。しかし、本業である映像解析やデータ分析に注力する必要があるため、導入の手間がかからず容易に運用可能なシステムであることが要件であった。

ArcGIS 採用の理由

集約したデータを単にマップ上に表示することは他のシステムでも実現可能だが、同社が重視していた導入の手間がかからずに運用が開始できる点や、情報のリアルタイム表示やダッシュボード自体の見栄えの良さなど、ArcGIS の充実した機能とユーザーインターフェイスの高さが評価され、導入が決まった。
また、同時期に仙台市が公開した 3D 都市モデル(Project PLATEAU)を ArcGIS 上で迅速に取り込み、活用できることも、今後のビジョンとして展開可能である点が導入を後押しする要因となった。

課題解決手法

工事現場の稼働状況を把握するため、現場の工事車両に備え付けた GPS の位置情報データを ArcGIS API for Python を用いて変換し、ArcGIS Online に取り込んだ。マップ上で工事車両の位置情報を把握するとともに、現場の天候情報や工事車両付近の河川の水位情報などの公開情報も表示した。また、ダッシュボード上には現場に設置したカメラからのリアルタイム映像をモニタリングする画面、AI による映像解析結果などが確認できる。そして工事車両が施工現場から土置場エリアを行き来する運搬サイクルタイムをチャート形式やタイムラインで表示する画面を構築した。 ArcGIS 導入前は、ダッシュボードの設計イメージを具体化することが難しかったものの、 ArcGIS が提供するテンプレートを活用することで、データの効果的な可視化や必要な情報の表現を容易に実現でき、目標としていたダッシュボードを迅速かつ効率的に実装することができた。

効果

株式会社丸本組と共同開発したこの AI ダッシュボードは、国土交通省から依頼があった令和元年東日本台風で被害を受けた吉田川の河道掘削工事で実際に運用された。この実証現場において、日施工量(1 日あたりの施工量)13% 増、作業工程 20 日短縮という成果を上げ、工事全体の生産性向上に貢献した。今回、GIS 機能を統合することで強化した AI ダッシュボードでは、現場の映像と AI による解析データが 1 分ごとに更新され、マップ上の工事車両位置および運搬サイクル情報も同期されるため、ダッシュボード上で一元的に管理することが可能となった。従来、工事車両が密集するエリアでは、異なる工事車両の作業を重複してカウントしてしまったり、奥にいる工事車両の作業が認識されなかったりと、AI による作業判定が困難であったものが、GIS を活用することにより、映像データのみならず位置情報も同時に把握し、精度の高い作業判定が実現した。この結果、重機の作業見逃しが皆無となり、実証実験における有効な成果として認められた。
さらに、高精度化された AI による映像解析の結果、重機の「停止時間」と「作業時間」を詳細に分析することが可能となり、これに基づく重機の繁忙度の把握と運搬計画立案に資するデータとして活用された。また、重機と蓄積されたダンプトラックの位置情報から相関距離をグラフ化し、積込み作業頻度の傾向を把握することで、現場の工事車両による渋滞や混雑状態、および適切な運搬工事車両台数の配備を検討することができた。
この株式会社丸本組の実証実験の結果は、地元新聞および建設業界向けの専門誌でも取り上げられ、多くの反響を呼んだ。また、 2024 年(令和 6 年)6 月には国土交通省が運用する NETIS(新技術情報提供システム)へ登録され、このダッシュボードについての問い合わせが増加している。

今後の展望

将来的には、蓄積された投稿情報を管理用マップで俯瞰的に確認することで、損傷の多い箇所を分析し、予防保全型の維持管理につなげていきたいと考えている。
さらに、位置情報が必要な通報を取り扱う他部署にも、同様のシステムを展開することが可能であり、こうした取り組みにより業務の DX 化を進めるとともに、市民サービスの向上を図っていきたい。

プロフィール


技術本部 IoT 技術部 
シニアエキスパート 鎌田 玲央奈 氏



関連業種

関連製品

導入協力企業


株式会社丸本組
組織名 株式会社丸本組
住所〒986-0868
宮城県石巻市
恵み野三丁目1番地2
電話番号 0225-96-2222
URLhttps://maru-hon.co.jp/


資料

掲載日

  • 2025年1月10日