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デジタルツインがオーストラリアの地下鉄拡張に貢献

オーストラリア・クロスリバー鉄道

 


労働者たちはローマストリートの洞窟に入り、検査を行う。

オーストラリアで最も急速に成長している都市、ブリスベンでは、デジタルツインとバーチャルリアリティプログラムが地下鉄の設計と建設に貢献している。

ブリスベンの中心部に最初の地下鉄を設計する任務を受けたチームは、このプロジェクトが繊細な作業を含み、危険に満ちていることを感じていた。プロジェクトの予定完了まで 2 年未満であり、かつブリスベンの賑やかな都市の数階下を掘り、広大な地下の駅を建設することが求められた。間違いが起きる可能性は多くあった。

このプロジェクトを盛り上げるために GIS を応用し、ブリスベンの地下と地上の詳細で最新の 3D モデルを作成し、没入型デジタルツインまでも利用することになるとは最初は誰も想像しなかった。

■急速に成長するクイーンズランド

ブリスベンのあるクイーンズランド州政府は、人口集中を軽減する方法としてクロスリバーレールプロジェクトを考案した。2036 年までに、サウスイーストクイーンズランドの首都圏にはさらに 150 万人の住民(これだけでオーストラリアで 5 番目に大きな都市になる)が増え、地域の総人口は約 500 万人に達すると予測されている。

クロスリバーレールプロジェクトによって、ブリスベンの市内中心部を通る新しい 10.2 キロメートルの路線が走りブリスベン川と中央ビジネス地区(CBD)の下を走る 2 つの 5.9km のトンネルが建設される予定だ。 5.4 億オーストラリアドルのこのプロジェクトの一環として、8 つの既存駅のリニューアルに加えて、4 つの新しい地下駅が建設される。

新しい住民のほとんどはブリスベンの外に住むことになるが、通勤圏内だ。 しかし、新しい仕事の多くは、ブリスベン川の北岸にあるブリスベン中央ビジネス地区が舞台になる。

現在の鉄道インフラは、これらの通勤者を受け入れるために必要となる中央ビジネス地区行きの列車の増便に対応できない。クロスリバーレールは、この需要に対応するために、川の下に 2 つのトンネルと 4 つの地下駅を建設することとなった。

より大きく、より良いモデル

クロスリバーレール事務局、プロジェクトを監督するクイーンズランド州政府機関は、プロジェクトが発表された直後に世界の反対側の同僚からアドバイスを求めた。2009 年にロンドンで始まったクロスレールという建設プロジェクトは、同様の目的を持っていたのだ。このプロジェクトは、中央ロンドン全体に新しいトンネルと 10 の新しい地下駅を作成していた。

ロンドンのクロスレールプロジェクトでは、ブリスベンよりも密集した首都圏の地下で作業しなければならず、加えて既存の地下インフラを損傷しないように細心の注意を払う必要があった。

ブリスベンのクロスリバーの計画が始まるころ、ロンドンのクロスレールはすでに約 7 年間建設中だった。クロスリバーチームは、最初からやり直すことができる場合、何を変えるかとロンドンのクロスレースのイギリスの同業者に連絡を取った。「イギリスの同業者は基本的に、『もっと早く、もっと大きく、もっと良い 3D デジタルモデルを作成したでしょう』と答えた」とヴァイン氏は言った。その後、ロンドンのクロスレールは GIS 基盤のデジタルツインを構築するための 3 つのステップを提供した:


クロスリバーレールのための連合 BIM モデルは、プロジェクト全体の詳細をまとめる。

広範なミッション

ロンドンのクロスレールは、ブリスベンのクロスリバーに、すべての工程を覆う共通のデータ環境を作成することを推奨した。フォーマットに関係なく関連するプロジェクトのデータセットは、中央リポジトリにあることが推奨される。これには、GIS、建物情報モデリング(BIM)、ボリューメトリックデータ、および写真測量(写真を使用する三次元座標測定技術)が含まれる。


トンネル工事において、部品の構成と順序は密接に追跡が必要。

近年、GIS(地理情報システム)技術は、BIM モデルと他のプロジェクト関連データフォーマットを GIS 環境に統合することに進化してきた。BIM モデルは、建設中または掘削中のものを記録し描写する 3D 建築モデルである一方、GIS はそれらのものに対する文脈的な認識を提供するのだ。プロジェクトに関与する人々は、BIM モデルを単なる宇宙に浮かぶ不活性な物体として考えるのではなく、GIS を通じて周囲の状況を視覚化できる。GIS では、各構造物が地上のインフラ(歩道、道路、街灯など)、地下埋設物(ユーティリティサービスを接続するパイプとライン)、自然界(景観、地下水、野生動物と生物多様性の考慮も含む)にどのように適合するかを見ることができるのだ。

ロンドンからのアドバイスは、クロスリバーに広範な権限を持たせるのにも役立った。クイーンズランド州政府がクロスリバーレールデリバリーオーソロリティを設立する際、その機関に鉄道だけでなく、プロジェクトの経済的影響を計画し評価する責任を課した。

この責務を機関の憲章に含めた理由は十分にあったと言える。クロスリバーは地域の将来の開発を予測していたが、その場所の特性からクロスリバーはその後の開発に影響を与えることがわかった。

「クロスリバーレールは CBD のすぐ下を通っていますので、駅周辺の地域は次に都市が成長する場所です」とヴァインは語る。


■すべてのBIMデータを統合

ロンドンのクロスレールからの 2 つ目のアドバイスは、プロジェクトの請負業者と中間請負業者から来る BIM データに関連していた。クロスレールのスタッフは、クロスリバーに「統合された」BIM モデルを作成するように勧めた。これは、異なるBIM情報を 1 つの BIM ファイルに統合し、すべてを描写するというものだった。これを実現するためには、クロスリバーはすべての提携業者がまったく同じデータフォーマット、基準、プロトコルを使用していることを確認する必要があった。

「クロスレールチームが気づかなかったことは、提携業者が BIM モデルをどのように提出するかをクロスレールに伝えていたことで、それが契約に組み込まれていた」とヴァインは話した。クロスレールは提携業者に譲歩したが、そうすべきではなかったと感じた。

鉄道ゲーム

クロスレールの 3 番目の提案は、「みんなが大好きなトリック、一番の見せ場」とヴァインは言う。モデルを没入型にすることについてだ。 「彼らは、すべてのデータをゲームエンジンに入れて仮想現実に変えるべきだったと言っています。」

BIM モデルを 3D ゲームツールである Unreal Engine に組み込むことにより、エンジニアや他の利害関係者は各駅を建設する前に現場を体験することができる。オーストラリアのチームは Unreal Engine を使用して、誰しもが建設予定の場所に仮想的に移動できるようにした。

「すべての駅とトンネルの統合 BIM モデル、3D の GIS 地図があります」とヴァインは言う。「それをすべて Unreal Engine に組み込み、魔法のゲームエンジンのハンドルを回すと、1 つの仮想現実が返されます。」

その結果、17 キロメートルにわたる没入型鉄道インフラが、ウェブ画面の操作または、仮想現実(VR)ヘッドセットを使用して、ファーストパーソンゲームのように探索できる。クロスリバーチームはさらに、多くの人が一緒にプロジェクトを探索できるように、5 方向の投影システムを使用して仮想現実シアターを建設した。

仮想現実の要素は、設計および建設に直接関与していない関係者がプロジェクトの進行中に閲覧する方法を提供し、設計チームの一部には最も詳細な 3D BIM モデルでも提供できないビジュアル評価を提供する。具体例として、ヴァインはローマストリート駅を挙げ、チームがコンコースの壁に大規模な美術展示スペースを設置する方法を仮想的に試行し、設計を最終的に確定する前に異なるアイデアを試すことを示していた。

デジタルツインはブリスベン全体を捉えるべく拡大

クロスリバーの共通データ環境へのコミットは、この種の大規模なインフラプロジェクトにおける GIS と BIM のいままでの関係からの転換を示している。過去には、GIS は 3D 建築 BIM レンダリングの文脈を提供することによって重要な役目を果たしていた。しかし、駅周辺の経済的開発を文書化するという任務が与えられたため、クロスリバーは GIS の重要性を高めた。これらの地上エリアを描写するために、クロスリバーは、lidar センサーによって収集されたエンジニアリンググレードの測定を含む、熟練した 3D マップが必要だった。

これにより、別の要件が生じた。地上波のデータにも文脈が必要だったのだ。

駅が CBD の経済的発展にどのように影響を与えるかを理解することが目標であるならば、周囲のエリアだけをマップにするのは意味がなかった。CBD 全体のマップが必要だった。すべてが完璧にレイヤー化され、地下のすべてが地上のすべてと正確に一致するようにする必要があった。

その結果、地区、ユーティリティ、および他の関連する視覚情報を表示する 3D 土地レイヤーができた。クロスリバーの 3D の使用には、ブリスベンの先住民の文化遺産を再現するために先住民であると自己表現するブレット・レビーの協力で設計された素材も含まれている。ヴァインによれば、レイビーの貢献はプロジェクトが先住民を尊重し続けることを確実にするのに役立った。

「私たちは、鉄道を建設することだけがすべてだと思っていたが、なんと、都市を再建することだった」と彼は語る。「私たちはブリスベンの 3D モデルを作成することになり、それなしでは実現することはできませんでした。」


ローマストリートの洞窟は、
2 つのトンネルを持つ地下鉄路線の複雑さを物語っている。

終わりのないデジタルツイン

クロスリバーのデジタルツインは進行中の連続的な作業だ。設計が最終的に確定し、建設が進行するにつれて、請負業者の初期の BIM 提出に含まれていた階段やトンネルは、統合 BIM モデル内の数千の個々のコンポーネントと一体になる。

クロスリバープロジェクトだけでなく、デジタルツインはブリスベン自体と共に永続的に成長し続けられない理由はない。「私たちはクロスリバーレールについてのジョークがあります。それは見るほど大きくなるというもので、プロジェクトが始まった後、市は 2032 年夏季オリンピックを開催する都市に選ばれました。」

「私たちは、ここで行ったことを、鉄道路線を建設する一環として経験を活かす機会があります」とヴァインは言う。

ヴァインは、このデジタルツインは設計、建設、プロジェクト管理に加えて、システムを運用するためのツールとしての価値があると想定している。「私たちは、鉄道を運行するのに役立つデジタルツインを構築したことに気付きました」と彼は言う。「したがって、執筆されるべきほぼ完全な 2 つ目の章が待っていると言えるでしょう。」

この事例は Esri の ArcNews 記事「A Digital Twin Guides Underground Rail Expansion 」を参考に翻訳したものです。

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掲載日

  • 2024年1月29日