被災地から投稿した情報をクラウド上でリアルタイムに共有
パートナーコラボレーションによる組織間連携を実現
課題
- 災害発生時の迅速な情報共有
- 外部組織との情報共有
導入効果
- 被災状況の迅速な情報共有
- 応急対応を実施する組織とのリアルタイム情報共有
- ドローンと 3D マップによる立入危険区域の概況把握と簡易計測
概要
長野県インフラデータプラットフォーム概念図
長野県建設部は、災害に強い県づくりを推進するため、道路や河川・砂防堰堤等の整備を進めている。災害が発生すると、県は管理するインフラの状況を把握し、被災したインフラに対して速やかな復旧等の対応を行っている。「長野県インフラデータプラットフォーム」は、現地からスマートフォン等で投稿したデータを ArcGIS Online で共有するシステムであり、迅速な災害対応を実現するため 2020 年(令和 2 年)10 月から建設部で運用を開始した。導入当初は、投稿アプリと Web で閲覧するシステムのみであったが、2023 年(令和 5 年)度からは、情報を自動集計するダッシュボードや、ドローンの撮影写真から 3D モデルを作成する機能の導入など、システムの高度化に着手した。
さらに、被災直後の初動対応に重要な役割を担う長野県建設業協会にも本システムの導入を呼びかけ、両組織のコラボレーションにより、高度な情報共有を可能としている。
課題と ArcGIS 導入の経緯
本システムの導入のきっかけは、2019 年(令和元年)の台風 19 号や 2020 年(令和 2 年)の豪雨などの大規模災害の発生にある。
災害が発生すると、その現地機関である建設事務所が管内の道路や河川、土砂災害などの資料を管理施設ごとに作成し、県庁主管課へメールで報告する。主管課は報告をとりまとめ、建設部内で災害情報を集約して、長野県全体の災害対策本部へ報告する。
令和元年や令和 2 年には、広域や遠隔地で同時に多数の災害が発生したため、建設事務所が管内の被災状況を把握するのに多くの時間を要した。そのため、県庁主管課への報告に遅れが生じるなど、現地機関と県庁との災害情報共有に関しての課題が明らかとなった。
これらの課題に対応するため、建設部では災害時の初動対応における情報共有を迅速に行うためのシステム導入の検討に着手した。
ArcGIS 採用の理由
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現場と本庁・現地機関での情報共有が容易
ArcGIS Online はクラウド GIS であるため、現場の状況を報告する写真やメモが、すぐに把握できる。
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オフライン環境で利用可能
モバイルアプリはオフライン環境でも操作可能であるため、山間地で電波状態が不安定な場所でも記録することができる。
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イニシャルコストが低い
サブスクリプションサービスであるため、イニシャルコストが低い。
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汎用性が高く拡張が容易
豊富なアプリ群が用意されており、さまざまな要求に対応できる。また、カスタマイズ性に優れており、使いながら機能を増強できる。
課題解決手法
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現場からの災害情報投稿アプリの開発
ArcGIS Survey123 を使って現地からの情報を投稿するアプリを構築した。現場からの投稿時に管轄範囲に応じてあらかじめ指定したメールアドレスに通知する機能も追加した。
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自動集計・一覧表示のためのダッシュボードの作成
投稿された情報を自動で集計・一覧表示するためのダッシュボードを ArcGIS Dashboards で作成した。
災害情報ダッシュボード
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投稿された情報を閲覧・編集するための Web アプリの構築
2D および 3D の閲覧・編集用アプリを構築し、投稿された情報を閲覧・編集できる機能を整備した。
災害情報ビューアー 2D 版
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ドローンで撮影した画像から 3D モデルを作成する機能の導入
Site Scan for ArcGIS を用いてドローンで撮影した画像から 3D モデルを作成し、3D ビューアー上で共有しつつ、概況表示や 3D 計測をできるようにした。
災害情報ビューアー 3D 版
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Hub サイトを活用した関連情報の集約
ArcGIS Hub を活用し、各種アプリおよび関連サイト、操作マニュアルや引用データの出典等をポータルサイトにまとめ、1 つの入口から作業を行えるようにした。
ポータルサイト(Hub サイト)
効果
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情報共有・伝達の迅速化
システムの導入により、情報の共有・伝達が迅速化された。現場で取得した情報を電子メールに記述して写真を添付して送信するなどの作業が不要となり、効率的な情報共有が可能となった。また、関連機関とも即座に情報を共有できるようになったことで、有事の際により迅速に対応できる環境が整った。
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資料作成の手間軽減
組織内外での報告時に地図を作成し写真を貼り付ける必要がなくなり、資料作成の手間が軽減した。
今後の展望
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庁内利用の浸透
災害時に活用するシステムのため利用頻度が低く、システムに慣れていない職員もいる。したがって、研修や活用ケースの拡充などにより職員への利用を浸透させ、いざというときに使いこなせるようにしたい。
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連携の拡大
現在は、初動対応の重要な組織である建設業協会との連携のみであるが、このほかにも関連する自治体や組織等との連携拡大により、効果的・効率的な災害対応につながることを期待する。また、建設部で運用する他のシステムと連携し、さらなる利便性の向上を模索していきたい。
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インフラマネジメントへの活用
ArcGIS は、使い方次第で災害対応以外にも道路パトロールや施設管理、BIM/CIM との連携など、インフラマネジメント業務の効率化にも寄与するシステムであるため積極的に活用を図っていきたい。