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事例

位置情報を活用した木材トレーサビリティの実現

宮崎県合法木材流通促進協議会

 

ArcGIS Online を活用した木材の合法性を確認する
スマートな木材流通の仕組みづくり

ArcGIS を基盤とした GIS プラットフォームの特徴

  • 位置情報とクラウドを利用して木材トレーサビリティを確保
  • 木材の合法性確認に加え、販売データを活用した客観性の高い経営にも活用

概要

宮崎県は、全国に先駆けて主伐期を迎え、スギ素材の生産量が 32 年連続で日本一と林業・木材生産活動が活発な地域である。

一方で近年、宮崎県では無届伐採や誤伐・盗伐問題に端を発した非合法木材の流通、伐採跡地の荒廃や再造林率の低下などさまざまな問題が見えてきた。このため、合法木材の適正な流通を目指し、必要な仕組みやルールを構築するため、2019 年(平成 31 年)に「宮崎県合法木材流通促進協議会」が結成された。同年より、林野庁のスマート林業への取組支援を受け、木材の合法性確認に必要な原木流通情報を集約するための「原木管理クラウド」を構築した。これは ArcGIS Online をプラットフォームとして使用しており、2023 年(令和 5 年)現在、実際の運用に向けた検討が開始されている。

課題


原木市場内の木材

宮崎県の素材流通システムは原木市場を基幹として構成されているが、原木市場では出荷者が持ち込んだ木材の荷受けから業務が始まるため、合法性証明という観点からみると木材の出どころを全て確認することは容易ではない。

これまで宮崎県では、素材生産事業者に対して、伐採届の提出時に発行される適合通知書を伐出現場に掲示し、出荷時に提出することを義務づけてきた。しかし、書類による確認では書類作成の手間が増えるだけでなく、書類のみで合法性を確認することが困難な場合もあった。

そのため、宮崎県の林業・林産業全体の社会的信用・評価を今後高めていくべく、木材の合法性確保に関する以下の課題をクリアする必要があった。

ArcGIS 採用の理由

合法性を確認する手法の検討を始めた 2019 年度初め頃までは、ハンディ GPS やデスクトップ型 GIS を利用した検証を行っていた。しかし、オフライン環境が多い森林の現場では、機器の操作やデータ連携をスムーズに行うことができず、また一からシステムを構築するには時間も費用も掛かってしまうことが懸念されていた。2019 年 10 月頃、スマート林業のアドバイザーである(一社)日本森林技術協会から、ESRIジャパンが提供するクラウド型 GIS の ArcGIS Online の提案を受けた。検討の結果、合法性確認を実現するためのシステム(原木管理クラウド)に求めている以下の要件に応えられるサービスであったことから、ArcGIS Online をシステムのプラットフォームとして採用した。

課題解決手法

木材の合法性証明のためには正確な伐採地点や運搬ルートを追跡可能な状態にすることが重要なため、原木市場に原木を出荷する際のトラック一積みを一単位とし、原木市場での荷受け時に発行される荷受伝票番号と紐づけることとした。

データの取得にあたっては、オフライン環境でも位置情報などのデータ取得が可能で、手持ちのスマートフォンで利用可能な調査票ベースの現地調査アプリ ArcGIS Survey123(以下、Survey123)を採用した。このアプリを利用する中で、素材生産事業者とのヒアリングや実証を基にアプリの機能やユーザーインターフェイスの改良を繰り返した。

取得されたデータはクラウド環境の ArcGIS Online 上に自動的にアップロードされ、原木市場が原木の移動ログを含む伐採現場からのトレーサビリティ情報をダッシュボード形式の Web アプリ(ArcGISDashboards)を通して直ちに確認できる仕組みとした。


現地調査アプリを利用した木材トレーサビリティ情報の取得

効果

ArcGIS Online によるプラットフォームを活用することで、伐採現場や輸送経路情報を簡単に取得しつつ、原木の流通情報を安全に一元管理ができる原木管理クラウドを構築することができた。Survey123 による現地調査結果からは、素材生産事業者が日常業務の中で大きな追加の負担がなく、木材トレーサビリティに必要な情報の取得が可能なことが分かった。

さらに、原木市場等において木材の販売管理に利用されているシステム内の売上明細データと連携することで、合法性確認を日常的に行うとともに、出荷者ごとの採材の傾向や買い方の傾向の定量的な分析による、客観性の高いデータを活用した経営も可能な原木データ分析アプリを構築することができた。

また、原木市場のストックヤード内にある椪(はい)情報をリアルタイムに確認し、現場担当者と事務所の職員が情報を共有する仕組みである、椪情報更新アプリを同じプラットフォーム内に実装した。


原木データ分析アプリ


椪情報更新アプリ

今後の展望

ArcGIS Online を利用したアジャイル開発により原木管理クラウドの基本システムの構築は迅速に完了したが、実際に運用していくためには素材生産・流通に携わる各方面の理解と協力が必要であり、合意形成を丁寧に進めていく必要がある。

今後は、位置情報を活用した合法性確認の仕組みを実際の現場で継続的に運用していけるよう、取り組みをさらに加速させていきたい。

プロフィール


宮崎県合法木材流通促進協議会メンバーの
宮崎県森林組合連合会の皆さん


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資料

掲載日

  • 2024年1月29日