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事例

ArcGIS を用いた危機管理関連情報の一元管理

東日本高速道路株式会社 株式会社ネクスコ東日本エンジニアリング

 

激甚化・頻発化する災害に対して
災害時のオペレーションを強化するため ArcGIS を用いて
危機管理関連情報を一元的に管理するツールの構築に取り組む

概要

東日本高速道路株式会社(以下、NEXCO 東日本)グループは、東日本地域の高速道路の管理事業、建設事業、サービスエリア事業および高速道路関連ビジネスを行っており、取り組みの一つとして「Smart Maintenance Highway : SMHプロジェクト」がある。これは、グループ全体のインフラ管理力を効率化・高度化する重点プロジェクトである。長期的な高速道路の「安全・安心」の確保に向け、現場の諸課題の解決に立脚、密着した検討を推進することを基本に、ICT やロボティクス等の技術を積極的に導入し、これらが技術者と融合する総合的なメンテナンス体制を構築している。

その中で、激甚化・頻発化する災害に対して災害時のオペレーションを強化するため、GIS を用いて危機管理関連情報を一元的に管理する「危機管理 GIS」の構築に取り組んでいる。


課題

以前から災害等発生現場と防災対策室との間で情報を共有するシステムはあったが、テキストと画像ベースで報告がされていたため、「どこで」起きていることなのかを知るためには関連情報を個別に開かなければならず、直感的にわかりにくかった。また、ドローンの活用も検討したがテキストベースでの仕組みでは実現できないなどの課題もあり、それらを解決するために位置情報が活用できる仕組みを導入する必要があった。加えて、公的機関が出しているオープンデータを使えるプラットフォームを探しており、調査した結果 ArcGIS がニーズに合致すると判断した。

ArcGIS 採用の理由

NEXCO 西日本の導入事例が公開されていることなどから、ArcGIS の存在は知っていた。採用の理由としては、上述のとおりオープンデータを使えるプラットフォームであることや、管理用平面図と呼ばれる高速道路の維持管理用の基本図面を、ベクタータイルなどの Web マップに適した形式に変換でき、配信が可能なことが挙げられる。

さらに、管理用平面図は AutoCAD の DWG 形式で作成されており、ArcGIS は CAD との表示互換性があるため自社のデータ資産を有効活用できることも大きな利点であった。


AutoCAD での表示


ArcGIS Online での表示

課題解決手法


リニアリファレンスでの KP マスタの活用

NEXCO 東日本が管理するエリアは国土の 3 分の 1 近くと広大であるため、前述の管理用平面図は全長が約 4,000km、座標系は平面直角座標系で 8 系から 12 系まで及ぶ。このようにデータが複数の系にわたるため、1 つの地図上で表現する際には座標系に注意をする必要があるが、ArcGIS では異なる座標系のデータ同士でも重ね合わせることができるため作業をスムーズに進めることができた。

また、高速道路の業務は KP(キロポスト)で管理することが多いが、KP マスタ(緯度経度座標)の整備が重要だった。従来の KP マスタは 100m 単位だったものを 10m 単位まで精緻化した。この KP マスタを、ArcGIS の機能であるリニアリファレンスと組み合わせて、橋梁等の資産の位置情報を表示する際に利用している。

地図の描画レスポンスも、現場の業務効率に直結するので意識した。具体的には、管理用平面図をベクタータイルレイヤーに変換するといった工夫をした。

危機管理や防災については以前のツールから ArcGIS と連携するツールに切り替えたが、スマホの位置座標から KP に変換して現地からの報告に付加する機能を実装するなど現場の職員が使いやすいものとなるよう気を配った。

また、プロジェクト当初は GIS 活用イメージが固まっておらず、どういう形で業務に役立てられるか明確に見えてはいなかった。そこで ESRIジャパンのコンサルティングサービスを活用し、実際にアプリケーションを触って評価できる POC 環境を作った。ノンコーディングで素早くアプリケーション開発ができるため、それを使うことで実装すべき機能や最適なデータについて明確なビジョンを持つことができ、有益な開発 支援だった。

その他にも、地理院地図、国土数値情報など国が配信するオープンデータや、リアルタイムの防災気象情報、SNS に投稿された情報、プローブデータに基づく通行実績情報を NEXCO 東日本独自の情報と重畳表示するなど、自社のデータ資産に各種情報を加えることで多面的な情報収集を実現し、防災対策検討や災害警戒時の状況把握に役立てている。

効果

2022 年(令和 4 年)の冬から GIS 活用を試行しており、冬に発生する吹雪等の災害対応において効果を発揮している。たとえば荒天の際に、どこで何が起きているからどこに集中して作業した方が良い、など意思決定に必要な情報共有が短時間化できた。またスマホアプリからの位置情報付きの情報が効率的に集約でき、同時多発的な広域災害での状況把握の効率化、関係部署への情報共有の短縮が図られた。

現地からの報告の他に SNS 情報やプローブデータも地図上にプロットし重ねられるため、外部の情報も組み合わせて現地状況を正確かつ詳細に把握できるようになった。他にもさまざまなオープンデータと重ねられるため、たとえば高速道路ができる以前の航空写真を重ねることで、整備前の土地の状況を知ることができ、土砂災害や浸水のリスクを知るなど災害時の背景を確認できるようになった。

今後の展望

現在は ArcGIS Online を使っているが、今後は ArcGIS Enterprise へ移行して全職員へ展開する予定だ。さらに、どこまで点検が完了しているかという情報は重要なため、現場の職員の現在および過去の位置を把握することが可能な ArcGIS の Location Sharing 機能を使い位置情報を共有するなど、迅速な状況把握を図りたい。

他には、 3 次元データ、航空レーザー測量のデータを共有する仕組み作りや、基本点検時の現地からの写真共有の機能の利用を検討している。また危機管理と並行して、のり面の管理でも GIS 活用を行っている。将来は、のり面の位置・地質に加えて収集したボーリングデータの共有や、古い資料のデータ化を検討していきたい。アジャイル開発で進めているため、引き続き継続してユーザーの声を聴きながら開発していく予定だ。


土砂災害警戒区域(国土数値情報)

プロフィール


東日本高速道路(株)・(株)ネクスコ東日本 エンジニアリングの皆さん



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資料

掲載日

  • 2024年1月29日