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事例

瀬戸内海の海洋ごみ問題解決に向けて ArcGIS Survey123 を活用

山陽学園中学・高等学校

 

生徒から市民への働きかけ
地域のごみ調査活動のシビックテック

概要


日本学術会議でのポスター発表の様子

岡山県にある山陽学園中学・高等学校の地歴部は、2008 年(平成 20 年)より「瀬戸内海の海洋ごみ問題」について取り組んでいる。現在、中学生 28 名、高校生 24 名の計 52 名で活動しており、日々地域のごみの調査や分析を行っている。

同部は、海岸に打ち上げられた漂着ごみや、漁船に乗って底びき網で引き上げられる海底ごみを確認し、実態を知ることで、生徒たち自身が感じる疑問を基に調査している。

SDGs の達成に向けた取り組みが国内外で活発になるにつれ、「瀬戸内海の海洋ごみ問題」に向けた同部の取り組みはさらに加速し、毎年さまざまなコンクールに出場、賞を受賞している。

海洋ごみ問題への解決に向けてより充実した調査を行うため、ESRIジャパンで提供している小中高教育における GIS 利用支援プログラムの利用を開始した。屋外調査では、ArcGIS Survey123(以下、Survey123)を利用することで、アナログな調査業務をデジタルへ移行できた。それだけでなく、市民との協働も可能となり、ごみの課題解決に大きく寄与しているとい う実感は、生徒にとってやりがいとなり、さらに市民にとっても地域の課題解決に貢献している意識が芽生えたことで、同部の活動はさらに加速しているということを同部顧問の井上氏は感じている。

課題


海洋ごみの調査風景

同部が活動する上で、以下の 3 つの課題があった。

第一に、海洋ごみ問題は当事者意識を持ちにくく、関心のない人々にどのように伝え、どう働きかけるかが困難であることだ。特に、海から離れた山間部に住む市民の中には、山間部で出たごみが川に流れ出て海に放出されていることを想像している人は少ない。山間部の身近なごみが海洋汚染につながっていることを理解してもらうために、地図でごみの流れを分かりやすく明示する必要性があった。

第二に、紙地図での作業は負荷が多い上、表現方法が限定されてしまうことだ。瀬戸内海の海域の紙地図にシールを貼ってごみの発見場所をアナログで管理していたが、紙地図上に海洋ごみが示せても川から流れ出たごみであるという証拠を示すことが難しかった。

第三に、コロナ禍で外出制限がかかり、地歴部の活動のためのごみ調査実施がしづらくなったことである。

ArcGIS 採用の理由

顧問の井上氏が他高校での研修会で Survey123 のグループワーク実習を受けたことが導入のきっかけとなった。スマホで地図付きの調査票の入力、集計、分析が Survey123 で完結するという利点を知った。

また、これまで紙地図で行っていた調査結果の集計作業は、操作が簡単な Survey123 であれば、生徒たちの手で調査結果の入力から集計までを行うことができると考えた。また、ポイ捨てされたゴミ状況の調査結果を基に自動的にデジタルマップが作成され、地域住民にごみの状況を共有できると考えた。

課題解決手法

早速、氏は Survey123 で調査票を作成した。その際に、回答のハードルを下げるため質問項目数は最小限に抑え以下の 5 項目を設定した。

① ごみを回収した日時
② ごみの種類(ペットボトルや空き缶等)と個数
③ 実際のごみの写真
④ ごみの回収場所
⑤ 回収した河川や道路の様子についての説明

当初は、生徒だけで調査を行う予定だったが、コロナ禍となり外出して調査を行うのが難しくなったため、市民にもごみの調査に協力してもらうよう生徒から提案があった。さらに生徒たちは、より多くの人に調査に参加してもらうため、地元の山陽新聞や学校の SNS などで Survey123 の調査票の QR コードを掲載し、市民に参加を呼び掛けた。


ごみの調査結果

効果

生徒たちの働きかけの結果、新聞の記事や SNS を目にした多くの市民によるごみの調査を実施することができた。生徒からシビックテックを促すことができた成果である。市民との共同調査の結果、山間部に落ちているごみも海に流れて行くことや、自分たちが住む区域の清掃状況がデジタルマップで明示された。

紙地図からデジタルマップに移行し、便利になったというだけではなく、ごみが多いとわかった地域ではごみ拾いや清掃活動が強化されるようになるなど、活動がより具体的で問題解決に直結するものとなった。

今まで地域のごみ拾いに関心のなかった市民が Survey123 を通して、ごみ問題への「解決者」として関わることを可能にした。また、Survey123 で調査のハードルが下がったことで、生徒たちの自主的な調査につながった。生徒たちは旅行先でも Survey123 を使って記録している報告もあり、楽しんで調査に取り組んでいる様子がうかがえる。

このような活動を通して、生徒たちが自由な発想でのびのびとチャレンジすることができ、2018 年(平成 30 年)の第 2 回 JapanSDGs Award : SDGs パートナーシップ賞(特別賞)や G20 大阪サミット 2019 での生徒による発表、2022 年(令和 4 年)第 26 回ボランティア・スピリット・アワード全国賞の高校部門3位など、数々の賞を受賞した。

今後の展望


メディアを通し地歴部の活動を伝えている様子

生徒には、自分たちの中で生じる問いを立て、行動し、成功/失敗する中で原因分析を行い、1 つ 1 つ体験して学んでいく姿勢や、地域の人との触れ合いからコミュニケーション能力の向上にも繋がる効果もある。

「アナログがデジタルになり便利になったこと以外にも、地歴部の生徒だけが主体的になるだけでなく、さまざまな人と協働して市民全体で解決できる問題であることを認識できたと思う」と氏は語る。引き続きごみ問題に対して、一人でも多くの人が当事者意識を持ってもらい、Survey123 の調査票を一人でも多くの人に周知するため、その手段を今後も模索していく。

また、2022 年(令和 4 年)12 月に開催された日仏海洋学会をきっかけに、2023 年(令和 5 年)秋にはフランスの高校生とのオンラインでの海洋ごみ調査の活動プロジェクトが始動した。地中海は瀬戸内海と同様に閉鎖性海域であるため、調査の比較がしやすいと氏は考えている。それに向けて英語版の Survey123 調査票作成に取り組むなど、国内外での更なる活躍に向けて取り組みを加速させていく。


ArcGIS Survey123の調査票

プロフィール


教頭補佐 地歴部顧問 井上 貴司 氏/
地歴部の皆様


山陽学園中学・高等学校


関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2024年1月29日