事例 > デジタルハザードマップを活用した防災教育による地域防災力の強化

事例

デジタルハザードマップを活用した防災教育による地域防災力の強化

宇部市 総務部防災危機管理課

 

GIGA スクール構想により普及したタブレット PC 端末と
Web マップを活用し災害リスクの認知、対策を学ぶ

概要

2011 年 (平成 23 年) の東日本大震災以降、全国の教育現場では教育指導要領の内容が大幅に改定され、防災教育の重要性が高まっている。一方で、山口県宇部市では近年自然災害が少なく、防災教育への意識が高まっていないこと、また紙媒体でのハザードマップが災害種別ごとに 7 種類 297 枚と細分化されていたことから、災害リスクの総合的理解が難しかった。市民の災害リスクへの理解を深めるためには防災教育に力を入れる必要があるとし、宇部市ではデジタルハザードマップを使用した防災授業の実施を企画した。「デジタルの実装」を主要事業として注力している山口県では、「デジテック・オープンイノベーション」事業の募集が行われており、GIGA スクール構想の下、小中高生へタブレット PC 端末が配布されるなど、防災教育においても積極的なデジタル活用の推進が行われている環境が整ってきた。


宇部市デジタルハザードマップ

宇部市では、山口県内の団体と協働し、ArcGIS Online を活用したデジタルハザードマップを作成、市のホームページで公開している。また、作成したデジタルハザードマップを活用して、小中学生に向けた防災授業を行った。効果測定のために行った意識調査では、デジタルハザード マップの重要性や地域に存在する災害リスクが認知されたことがわかり、地域防災力の強化へとつながった。

課題

1999 年(平成 11 年)9 月 24 日、強い勢力を持った台風 18 号が宇部市を直撃し、市内は高潮被害に見舞われた。1 万棟弱の建物が被害を受け、そのうち 600 棟弱の家屋が全半壊となり、当時、防災危機管理課で災害対応を行った弘中氏にとって忘れられない経験となった。それから約 25 年経過した現在、自然災害を経験していない若い世代にとって、災害に対する理解度や危機感が薄れてきている状況がある。これまで災害の危険性を紙のハザードマップで伝えてきたが、そもそも地図から情報を読み取ること自体が苦手な人も一定数いる中で、効果的な教育ツールの不足が課題であった。紙のハザードマップを市民へ配布してきたが、7 種類 297 枚と細分化されており、リスクの正しい認識が住民には十分に広まっていなかった。

また、宇部市の教育現場では、GIGA スクール構想でタブレット PC 端末を小中学生に貸与しているが、教育現場でタブレット PC 端末をどう活かすかというデジタル活用における課題もあった。そこで、山口県内で GIS ソリューション事業を展開している株式会社エイム、GIS コミュニティ形成・GIS 教育に力を入れている一般社団法人やまぐち GIS ひろば、防災教育の活動を行っている特定非営利活動法人防災ネットワークうべ、GIGA スクールを推進している宇部市教育委員会と協働し、デジタルハザードマップの作成および防災教育を推進するための企画を立ち上げ、「デジテック・オープンイノベーション」事業に採択された。

ArcGIS 採用の理由

弘中氏は 2004 年(平成 16 年)頃から、GIS を活用してハザードマップを作成した経験があったが、当時の GIS ソフトは、高スペックな PC 端末が必要で、ソフトウェアの動作も遅かったため、ArcGIS を汎用的に利用するのは難しいと思っていた。だが、その後登場したクラウド GIS の ArcGIS Online であればインストール不要で、GIGA スクールで配布したタブレット PC 端末のブラウザー上でも簡単に操作することができ、データを軽量化して扱いやすいということがわかった。

また、ArcGIS Online は教育現場において、デジタルな教科書としての機能だけではなく、生徒自身で主題図を作成する等、さまざまな学習用途に利用でき、タブレット PC 端末との親和性が高いことから、ArcGIS Online を採用した。

課題解決手法

まず、Web アプリ開発を担当した株式会社エイムが ArcGIS Online でデジタルハザードマップを作成した。

当初 Web アプリ上に画像を多用したため、学校現場で画像表示に時間がかかったこともあったが、画像の解像度や使用枚数を調整しデータを軽量化することで、操作がスムーズに行えるよう工夫した。また、誰が見てもわかりやすく、防災情報が伝わりやすいハザードマップになるよう心掛け、Web アプリのユーザーインターフェイスを試行錯誤しながら、災害の種類ごとのハザードマップ表示や 3D 表現、複数の災害情報の重ね合わせができるデジタルハザードマップが完成した。ArcGIS Online はクラウド型GISで簡単に Web アプリを作成できるため、たった 1 か月という短期間でプロトタイプを完成させることができた。

防災授業では宇部市内の小中学校のモデル校を選定し、実証実験を実施した。授業の内容は、宇部市の災害の歴史を振り返り、防災の重要性を説明しながら、土砂災害や高潮のデジタルハザードマップを実際にタブレット PC 端末で操作したり、紙地図との比較を行ったりした。小中学生の中には IT 機器の操作が苦手な生徒もいたが、そのような生徒でもデジタルハザードマップは直感的かつ簡単に操作することができた。

効果


防災授業風景

防災授業の後には生徒にアンケート調査を実施し、デジタルハザードマップの防災授業の有用性を評価した。紙媒体でなくデジタルハザードマップだと地域に潜む災害リスクが一目瞭然で、「デジタル化に不安はあったが、操作がしやすかった」と話す中学生徒や、「デジタルハザードマップで、おじいちゃん家が危ないことが分かったので、今日習ったことを教えてあげるんだ」という小学児童の声など、デジタルハザードマップの総合的な理解の推進をすることができたと同氏は感じている。

今後の展望

防災授業ではデジタルハザードマップを操作できたことに終始するのではなく、地域にどのような自然災害リスクがあるかを理解することや、もし自分たちが被害を受けなかったとしても、近隣の方々へはどのような対応をすべきか、周囲に手を差し伸べるにはどうしたらいいのかを考える機会としている。

デジタルハザードマップを通して、日ごろから他者と支え合う関係を築くことの重要性を伝えている。

市では、引き続き当事業を関係者と協力しながら連携・推進し、防災啓発活動を実践していく。

山口県内でも、今回の事例を活かして他市への事業展開を行い、県全体で活用されていくことを目指している。


宇部市3Dデジタルハザードマップ

プロフィール


宇部市 弘中 秀治 氏(右)
NPO法人防災ネットワークうべ
理事長/一般社団法人やまぐちGISひろば
代表理事 三浦 房紀 氏(中央)
株式会社エイム 西村 賢徳 氏(左)


関連業種

関連製品

導入協力企業

株式会社 エイム
組織名 株式会社 エイム
住所 〒755-0151
山口県宇部市西岐波区 宇部臨空頭脳パーク1番
電話番号  0836-39-6100
部署名  GISソリューション部
担当者名  西村
Email  gis@aim-yamaguchi.co.jp


資料

掲載日

  • 2024年1月29日